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花盛りし、夜の宴  作者: 城谷結季
序章「約束の空、硝子の檻」
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第三話「約束」

夢視点

降り立った先で砂利が鳴る。敷き詰められたそれはどれも同じつくりと色合い。

考えられた庭の景観は変わらず手入れされ、青々とした葉が眩しく照っている。

そっと囁くような風に、流れ落ちた横髪が頬に触れその先を掴んでいると、自分とは別の足音が耳に入る。

踏み締める砂利音はゆっくりで、はっきりとした決意の表れ。流れる所作とは程遠いそれは、ここに住んでいる者ではないと語っているようなもの。

少しずつ近づいて、一瞬躊躇うような間があったものの少し離れた位置でさっと紅い衣が翻った。

美しい黒髪を眩かせ、彼女の髪に挿された金色の髪飾りが鳴る。うっすらと色付いた形良い口元がすっと引かれた。


「はじめまして、空衣様」


とてもよく通る芯のある声だった。会釈する姿からも彼女から只人ならぬ雰囲気を感じ、思わず胸元で手を握りしめた。

顔を上げた彼女の微笑みは完璧なもの。いつも向けられる羨望や嫉妬とは違って、自分に関心がないものだとわかってしまった。


「もしかして、もう挨拶は済んじゃったかな?」


彼女の後ろから、昨晩も会った連が顔を覗かせている。ひらひらと手を振るのでそれに応じようとした手を、すぐに下ろした。

連の手は彼女の肩に置かれたから。


「夢。彼女は訳あって時条家にいた君の姉だよ」

「仄と申します」


再び綺麗に腰を折り彼女は名を告げた。

連に促され、二人は歩み寄るともう三歩あたりで止まる。間近になると息が詰まりそうな感覚が押し寄せ、少し傾いだ体が蓮により支えられた。


「大丈夫かい? また調子が悪いんじゃ…」


彼の腕にしがみつく。人様の前だとわかっているけれど、彼のにおいは落ち着きを与えてくれる。


「大丈夫。何ともないよ」


名残惜しいけれど、そっと彼から離れ自力で立つ。すっと息を吸いこんで向き直る。


「見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。お初にお目もじつかまつります。殻之夢……と申します」

「見苦しいだなんて、そんなこと……無理なさらないで」


頬にひんやりとした手が押し当てられる。初夏だというのになぜこの人の手は冷たいのだろうと頭の片隅で考えながら、少し見上げた位置にある翡翠の瞳に目を奪われた。山湖の底のように深みを帯びた色。


「あなた一人が全てを背負わなくていいの」


優しく囁かれた言葉で我に返る。彼女の両の目はまっすぐ自分を捉え、柔らかく微笑んでいた。


「私はあなたを支えるために来たの。あなたのためにできることがあるなら、頼ってほしいわ。私はあなたを裏切らない……約束しましょう。これからよろしくお願い、してもいいかしら」


そのとき何と答えただろう。

ただぽつりと零れた言葉だけは覚えている。


「紅衣……」


鮮やかな彼女の笑顔は照りつける陽射しよりも眩しく心に残った。



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