零話
暗めのお話ですが、よろしくお願いします。
最初につくりだされたのは小さな光だった。
光の周りには埋め尽くさんとばかりの彼岸の花が咲き誇り、銀に輝く水鏡は光を映さず、ただ彼方の世界が灯っていた。
そこには様々な色があった。形があった。
じっと佇むだけの彼岸の花とは違い、揺れては落ちゆく苦しみの狭間を繰り返している。「生」も「死」も、時が過ぎるという概念の無い常世に産まれた光にはそれが騒がしく、そして痛々しかった。
それでも芽吹き、天を恋い、為せぬまま次へ望みを託す営みに真綿で包み込んだような“思い”が生まれる。
だから光は願った。『わたしにあの子たちを手伝わせてください』と。
すると水鏡が音を立て紅蓮の渦を巻き始めた。
「生まれ果つる灯の定めを忘るる事無く、蝕む理を全うできるか」
言葉の意味は分りかねど光はただ頷いた。すると紅蓮は光を包み込み、貫くようにその先を打ち込んだ。逆巻く身体は焼き尽くすような紅き血に染まり、外れぬ楔が固く捕らう。薄れる意識の中でただ小さな声を聞く。
『悲しまないで。あなたが思う限り、共に在り続けましょう』
そうして光は彼岸の花を連れ闇夜を渡り、魂舟で運ばれていったのだった。
斯くして、光が見た水鏡の向こう側に新たな命が現る。
約束という定めの中生きることになった彼女たちは、人世と隔てた世界で掟をつくり天に焦がれるよう時を生きる。
懐かしき常世を想い、糧となりし希望のため繁栄を続け、閉じられた箱庭を大切に守った。
一人の男が門を叩くまでは。
男は彼女たちを「妖」と呼んだ。人と異なる力や容姿を持ち、独自の世界で生きる様を麗しいと褒め称え、その仕組みに興味を抱く。
男が去っても彼との交流は続き、やがて人を見るようになった。人を真似、その中に身を紛れ込ませることもあった。
しかし、男が送り込んだ一人の少年により理が乱されることになる。
不確かな定め、叶わぬ約束。届いていたはずの天に立ち入ることもできなくなり、坂を転げ落ちるよう彼女たちに最後の足音が近づいていった。
これは、そんな「妖」の終焉を辿る物語。