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天空の覇者  作者: 炎 立見
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5 最初の第一歩

旧コーセヌ伯爵領だった領地は、これまたとんでもなく広大だった。

 オレとしては広かろうと狭かろうと、折角賜った領地なんだから文句言うつもりは無かったんだけどな。

 マリアの実家であるサリンジェス公爵領ってのがダンダラス王国で最大の面積を誇るんだそうだ。

 それはマリアの父親であるサリンジェス公爵って人が国王陛下の弟で、現国王が践祚したのを期に臣籍降下したんだけど、当時複雑に絡み合っていた貴族領を整理して一つに纏めたものらしい。

 あの国王陛下ってば、結構指導力があるんだな。

 それよりなにより、領地を没収されたり減封されたりするような、問題の有る貴族が多かったことに驚きだぜ。

 普通に当たり前に領地経営してたら、まずそんなことにはならないだろう。

 でも、代々猫の額みたいな小さな領地に汲々としながらも、大した功績が挙げられなかった有象無象の『なんちゃって貴族』なんてのは居たのかもな。

 柔和そうな顔してるけど国王陛下ってやる時にはキチンとやる人だったんだ。

 で、その次がトッテンハイム公爵って人の領地だそうだ。

 そもそもこの国では、皇族が臣籍降下する場合にしか公爵位を授与されることはないんだそうだ。

 そりゃそうだな。

 爵位のトップだもの。

 そもそも国王が代替わりをする度に公爵なんてものを授与してると、国中が公爵だらけになっちまうわけで、そうならないためにダンダラス王国では公爵の位を持つ家柄を7家までと限定しているらしい。

 現在ある7公爵家もみんな歴代皇族が臣籍降下した際に授与されてるんだそうだけど、家名はその時々によって勝手に決めていいらしい。

 てか、どんなに大きな功績があろうと家臣が公爵になることが出来ないってことは、それだけ大きな権力が集中するわけだから、なんだかんだ言って国政を壟断しようとするヤツなんてのも出てきそうなもんだよな。

 でも、基本的に公爵は国政に携われないことになっているそうだ。

 だから、国政のトップである宰相は伯爵位を持つ家柄から出ることが多いらしい。

 でも、時の国王が自分の弟や妹の力を活かしたいって場合もあって、そういう時には侯爵位に臣籍降下させるんだとか。

 そうすると、領地は公爵領と比べるとうんと小さくなるけど、代わりに宰相になれる。

 いや、それなりに考えてるんだね。

 なんか徳川幕府を思い出したぜ。

 で、オレが賜ったローエングリン伯爵領のことだ。

 なんでも、序列二位のトッテンハイム公爵領に並ぶほど広いらしい。

 まず領内には城壁を持つ都市が九つある。

 それに海岸線もあって、主要な金属を産出する鉱山も二つや三つじゃないって話だ。

 農業も漁業も酪農も林業も商業も工業も潤沢な富を生み出しているとか。

 それって、自領内だけで経済が回るってことだろ。

 そこに重税を掛けてたって、あの巨漢のバカは何に金使ってたんだろうな。

 逆に興味あるわ。

 この国の税制は基本四公六民で、かなり民間に活気がある。

 領主は警察権と徴税権だけしっかり握っておけば後は民間の方で勝手に上手くやっていくわけだ。

 オレが口出しすることなんか無さそうだな。

 領内にはまだあの巨漢とつるんで悪さをしていたヤツらってのが若干残ってるらしいんだけど、どの程度のものか分からない。

 下手に手を出して地下に潜られるとそれはそれで厄介だから、ここは専門家に対応をお願いすることにしますかね。


「ここはプライベートな場所だから周りを気にせずに希望を口に出しても構わないぞ」

 いきなりだけど、国王陛下の私的なリビングにお邪魔してるところだ。

 オレとしては領内経営なんてやったことないから、何から手を付けていいかさっぱり分からない。

 だから、あっさり白旗を上げて国王陛下にお願いしたってわけだ。

 誰か代官に適任の人材をご存じありませんか、ってさ。

 そしたら、ここに呼び出された。

 ま、今のところ住む場所もないわけで、当座のこととして王宮内に部屋を借りて暮らしてるんだが、これって人間が堕落する場所だよな。

 自分ではなーんもしなくていいんだぜ。

 周りは常に三人以上のメイドと二人以上の執事が侍ってる。

 喉が乾いたらお茶って言えば出てくるし、小腹が空いたと言えば軽いサンドイッチみたいなものも出てくる。

 貴族の慣習について聞きたければ、基本的なことは執事が教えてくれるが、それで手に負えなければ宮廷貴族の誰かが飛んでくる。

 なんでこんなに対応が良いかって。

 オレがあの巨漢野郎を再起不能にしたからなんだとさ。

 嫌われてたんだな、やっぱり。

 大きな声じゃ言えないけど、王宮勤めのメイドにまで手を出してたらしいから、女の子たちは皆戦々恐々だったらしい。

 おまけに、それなりに腕も立ったらしいから弱小貴族に対する当りも結構強かったらしくて、さんざん無理難題を吹っ掛けられて泣き寝入りした人も少なくなかったとか。

 バカ丸出しだね。

 そんなだから、巨漢野郎が立ち直れないと聞いた途端、これまでの意趣返しとばかりにコーセヌ伯爵家の個人資産はハイエナやハゲタカに毟り取られるように消えて行ったそうだ。

 中にはローエングリン領内の産物を担保として持って行こうとしてた狡賢いのも居たみたいだけど、そっちの方は個人的に親交のあるフレディ・ケイザって騎士団長に相談したら、その日のうちに解決しましたって報告が来たけどどんな手を使ったんだ。

 漏れ聞こえるところによれば、あのコーセヌ伯爵を一撃で再起不能にしたローエングリン伯爵に盾突く所存か、とか耳元で囁いたらしい。

 いや、オレはそんなこと考えてないぜ。

 ウワサって怖ぇーよなぁ。

「エリカからも嘆願が出ておるな。ローエングリン伯爵領の経営について人材の斡旋をと。エリカに求婚の話は山ほどあるのじゃが未だ誰かに諾と答えたという話は聞いたことがない。それがこの態度じゃ。オスカーよ、どんな手を使ったな」

 そう言われてもなぁ。

 オレは今のところ、あの巨漢野郎を一発殴ったのと、槍を引っこ抜いただけなんだけど。

 それ以外はホント何もしてない。

 第一こっちの世界の常識ってものが無いんだから迂闊に動けないし。

「さて、オレとしてはエリカさまに『困ったな』と一言漏らしただけなんですが」

「ほほぅ、それだけであの娘が率先して動き回っておるのか。これは面白い話じゃな」

 いやいや、面白いかどうかは別にして助かってはいますがね。

 でも、どう見たってありゃオレの片腕って言うより嫁さんだぞ。

 まだ手も握ってないってのに。

 まぁ、向こうからはかなりなアプローチをされてるけど。

 控えめな胸を腕に押し付けるとか、控えめな胸を背中に押し付けるとか、控えめな胸を・・・・・。

「オレにはダンダラス王国の貴族って自覚が欠けてますからね。正直助かってます」

「ふむ、では、何処にどれだけの人数が欲しいというのも、エリカに訊けば良いのかな」

 にやにや笑いやがって。

 そんなに面白いかよ。

 でも、確かにその通りなんだよな。

 エリカに訊かないと縦の物を横にも出来ない有様だ。

 貴族の領地経営って、結局人材有りきなんだってことがよーく分かった。

 でもって、彼女は公爵家の娘で国王の姪だ。

 何をするにもエリカの延いてはサリンジェス公爵家の伝手がものを言う。

 なんだこりゃ、尻に敷かれるコース一直線じゃねぇか。

 いやいや、嫁にもらうって決ったわけじゃないけどさ。

 でも、対魔族・魔王の戦いがあれば有能なパートナーになることだけは間違いない。

 あの小さな体で、ダンダラス王国を全て覆うほどの光魔法が使えるってんだからとんでもない話だ。

 召喚魔法ってホントは何十人もが一斉に魔力を練り合わせて放出しないと成立しないほど強烈なパワーが必要らしいけど、エリカ一人で賄ったというんだから、ある意味化け物だわ。

 ま、オレが言うなって話だけどさ。

「ただ、領内を巡回警護する騎士団と領軍も必要でしょう。いざという時に真っ先に戦えるオレの手足なわけだから。そっちの方も並行して斡旋していただければと思ってます」

「道理じゃな。では、騎士団の件に関してはケイザに、領軍に関しては国軍元帥のアルダートに下問するとしようか」

「お手数ですがよろしくお願いします」

「なに、それほど手間でもあるまい。他には何かないか」

「では、お言葉に甘えて。旧コーセヌ伯爵領の内情に通じた方か領地経営に通じた方に意見をお聞きしたいので、そういうのを円満にこなしている方をご紹介いただければ、と」

「なるほどのぅ。何か考えておることでもあるのかの」

「オレはこの世界で生まれたわけじゃないので、この世界のこの国で、今すぐ役に立つ知識などは持ち合わせておりません。ですが、召喚される前に暮らした世界の知識はそれなりにあるつもりです。これまで身に付けたそういうものが活かせる場面が有ればいいかなと思っただけで」

「おぅ、これは良いことを聞けたわ。その方の手腕、しかと見せてみよ」

「いや、だから、右も左もわからないのに…」

「謙遜も過ぎれば愚弄になるぞ、ははははは」

 その為に誰かしっかりした人材を紹介しろってんじゃねぇか。

 いい加減オレをおもちゃにして遊んでないで、ちゃんと仕事しやがりませ国王陛下。

 じゃ、このオッサンが本気になるようなのを一発披露しようかね。

 この国に召喚されてから、あまりあちこち廻ったわけでもないし、城のシェフが作る料理を食べさせてもらってる訳なんだけど、あんまり卵料理ってのにお目にかからない。

 もちろん、オレが生きていた世界のようなシステマチックな養鶏産業が存在するとは思っていないが、ほぼ卵を見かけないんだ。

 まぁ、卵なんてのはどんな種類にせよ鳥の巣を見つけたうえに、抱卵し始めてから時間が経っていないのを手に入れた人間にしか食べることが出来ない、結構貴重で高価なものだ。

 そりゃそうだ。

 自然界においては卵ってのはほぼ全て有精卵なんだから。

 でなきゃ、半分以上雛になってるのを食べる羽目になる。

 それはそれで美味しいと好むヤツらもいるから、一概にゲテモノだの気持ち悪いだのと断じるわけにはいかないのが難しいところだ。

 もっと言うなら、この世界に雄の存在なしに雌だけで卵を産み続ける習性をもつ、家禽のような鳥がいればいいわけだ。

 そうすれば毎日卵を産む鳥がいて、それを採って売る産業が興る可能性が有るし、国民の栄養改善なり健康問題にも寄与できるかも知れない訳だ。

 どうだい、国王陛下。

 国内にそんな鳥がいないか、探してみる気はないかい?


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