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天空の覇者  作者: 炎 立見
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3 謁見という名の質問タイムきました

途中、魔物や魔獣などという剣呑なヤツらに襲われるということもなく、先刻少しばかり撫でてやった巨漢の関係者に復讐されるってこともなく、オレたちは総勢三十名のフル装備の騎士たちの護衛の下、大過なくエリカの伯父が国王だというダンダラス王国の王都ゼブルへと到着した。

 それまで薄暗い石造りの部屋や大木に日光を遮られていた環境から一転して、ゼブルは白い街という印象が強く感じられる清潔そうな都だった。

 王都の門を守る衛士たちは、先ほど石造りの部屋で見たヤツらと同じ服装・装備をしていたが、場所が場所だけに皆覇気に満ちた顔をしていた。

 大きな門は木製ではあるものの至る所を金属で補強されていて、かなりの圧力に耐えうるものと想像できたし、門から続く広い道は真っ直ぐに王宮へと向かうことはなく、すぐ先で街並みの中へ埋没していた。

 敵の侵入を許した際に一直線で王宮を攻められることを防ぐためだとは思うものの、街並みに消えているその先がどうなっているのか少し気になったが、それを美少女に尋ねることは何故か躊躇われた。

 まぁ、訊けばきっと丁寧に教えてくれることだろうが、これから先この国で元の世界に帰るまでを過ごすと決ったわけでもなく、何故だか盛り上がっている美少女に過大な期待を抱かせることもなかろうと思ったまでなのだが。

「勇者さま、これが我がダンダラス王国の王都ゼブルです。近隣諸国でも有名な美しい都と言われているんですよ」

 何が楽しいのか、オレに身を寄せては色々と説明を始めた美少女は、次に大門から延びる道が街並みに消えているように見える理由を説明し始めた。

 黙ってても教えてくれるってんなら聞かないこともないかな。

 いや、今のオレってイヤなヤツかも…。

「この道が真っ直ぐに敷かれていないのは、もちろん王都に攻め込まれた場合に一直線で王宮を攻められるのを防ぐ意味もあるのですが、ゼブルはこの三百年一度も敵の侵入を許してはおりません。それだけ国軍と騎士団が優秀だということもあるのですが、近隣諸国とはなるべく友好関係を築くべく努力を怠らなかった歴代の国王陛下のおかげでもあります。だから、今ではこの道を軍隊が進発し凱旋するために使うことはなく、王太子殿下や公主様方のご成婚パレードでご尊顔を拝する機会が少しでも増えるように使われることが多いのです」

 ふむ、平和的利用を優先させているわけだな。

 そりゃいいことだ。

 でも、オレがこっちに来てるってことは、額面通りには受け取れないか。

「この街並みもいつまで保てるか分からない、ってことかな」

 オレの何気ない一言は、オレの腕に縋り付いていた美少女の体を硬直させてしまったようだ。

 そんな気はなかったのだが、まぁ、ウソは言ってないしな。

「魔王の攻勢が日に日に強く感じられるようになって、勇者さまの言葉が身に沁みます。けれど、たとえ私一人になっても戦い抜いてこの街並みを守りたいと思っています」

「それは素晴らしい決意だが、キミにそれだけの力があるのかい」

「勇者さまにはご迷惑だったでしょうが、お力をお借りするためにお呼びしたのも事実です。どうか私たちのために、そして人類のために勇者さまのお力をお貸し下さいませ」

「まぁ、オレにしてみりゃ詳しいことが全く分からない状態で迂闊な返事は出来ないんだが、もしオレの気持ちとそちらの思惑が合致したとなれば、そうなる可能性も無くはないかな」

「それは嬉しいお言葉です。誠心誠意世界の現状をお伝えして、勇者さまのお力をお借りできるように努力いたします」

 ふんすとばかりに美少女が鼻息も荒く決意を表明したところで、馬車は王宮玄関に到着したらしい。

 表玄関を担当する王宮執事と思しき壮年の男性が馬車の扉を開けてオレたちが降りるのを待っている。

 当然、美少女にはエスコートのための手が伸びて馬車から降りる介助をするが、オレのためには何もなかった。

 ま、当然だわな。

 どこの誰だか分からない男相手に少しばかり躊躇いの色が見える。

 オレはそれを無視して先に降りた美少女に近づくと、彼女は当然とばかりにオレの腕に縋り付いてきた。

 周囲は騒然としてきたぞ。

 相手はこの国の公爵令嬢だ。

 しかも国王の血縁、姪っ子だ。

 見たこともない野郎の腕に縋り付くところを見ていきり立つ男たちだって多い事だろう。

 何よりこの娘はとんでもない美少女だ。

 きっと宮廷内でも彼女を狙っている男の数は相当なものだろう。

 ちょっと待ってくれ。

 オレをそんなところに放り込む気か。

 周りからの視線を痛いほど感じながら、オレと美少女は王宮執事の先導で王宮内へと足を踏み入れた。

「この扉の先が謁見の間でございます。ここからは私ではなく謁見の間を担当する者がお世話させていただきます」

 そう言うと、件の王宮執事は扉に手を掛け『ご準備はよろしいですか』と問いかけて来た。

 オレは無言で頷いたが、美少女はいくらか緊張の色は見えた。

しかし、それは国王に謁見を賜るからでなく、勇者召喚の儀を成功させたことをいかに報告し、オレをどう紹介するかに腐心しているように見えた。

「では」

 王宮執事の言葉と同時に扉が開かれ、赤い絨毯が一直線に玉座に誘う部屋へと一歩を踏み出した。

「勇者さま、私のすることをなぞっていただければ結構ですので」

 オレは、美少女が小声でそう言ってきたので、無言で前を向いたまま小さく頷いた。

 玉座の数メートル手前で立ち止まったオレたちは、無人の玉座に向かって片膝をつき顔を伏せてその主の登場を待った。

「陛下のお成り」

 歌うような旋律を付けた声が国王の登壇を告げ、人が玉座に向かって歩く気配を感じながら、オレは全く違うことを考えていた。

 ローエングリンの槍とかいう神槍はどこにあるのだろう。

 というか、そんなもんホントに抜けるのか。

 アレキサンダー大王がインドでやらかした故事を思い浮かべて、ロープの結び目なら剣で切ればそりゃ早いわ、などと愚にもつかない思案を繰り返しているうちに玉座の方から渋い声が響いてきた。

「この度は大儀であったな、エリカ」

「いえ、ダンダラス王国の繁栄に僅かながらでも貢献できたとなれば、それだけで幸せでございます、陛下」

「陛下、か。この場には心許したものしかおらん。他人行儀は止めよ」

「はい。ではこの度の召喚の儀に応じて下さった勇者さまをご紹介申し上げてもよろしいかしら、伯父様」

「うむ。なにやら一騒動あったと聞いたが」

「私の護衛に付いていただいたコーセヌ伯爵が勇者さまを隷属させようとなさいましたが、勇者さまの手で成敗されました」

「うむ…。今のコーセヌ伯爵は分家からの婿入りであったな。武人としての力量はそれなりと聞いたが素行に些かの瑕疵ありか」

「現役の伯爵のことを誹謗するつもりはありませんが、かなり人格に難がお有りかと」

「しかし、特殊な槍を持たせれば誰も太刀打ち出来ぬそうではないか」

「ご本人のおっしゃることですからどこまで信用すべきか判断が付きませんが、騎士団長すら凌駕する技量をお持ちだとか」

「ほう、それはまことか、ケイザ」

 国王は壁際に控える重臣たちの一人にそう問いかけた。

 ケイザと呼ばれた壮年の偉丈夫は、国王の下問に対しても無言であった。

「直答を許す。答えよケイザ」

 再度問いかけられた男は渋々ながらという態度を隠そうともせず、淡々と答えを口にした。

「はて、コーセヌ伯爵とは確かに一度模擬試合を行う予定がありました。しかし、その折には負傷を理由に試合を投げ出されましたが」

 大きな笑い声が室内に響き渡った。

「そんなことであろうと思ったわ。その方が後れを取るような使い手がそうそう居るとは思えんでな」

「では、あれは嘘だったのですか」

 心底驚いたというように慨嘆するエリカに向かって、ケイザと呼ばれた武人は相好を崩して言った。

「エリカさまのお感じになったことが全てかと」

「はははは、あれもコーセヌ伯爵家でなければ人並みに武を主張できたものを」

 ひとしきり笑った後、国王はオレに声を掛けた。

「そなたがエリカの召喚に応じた勇者であるか。直答を許す」

 オレはそう言われて初めて顔を上げたのだが、そこには柔和な雰囲気を醸し出す金髪碧眼の男がいた。

 美少女と同じ髪同じ瞳だ。

 驚くような美丈夫ではないものの、がっしりとした体に意志の強そうな眼は、一国を背負って立つ強い覚悟が秘められているように見えた。

「は。訳の分からないうちに薄暗い部屋におりました。で、また訳の分からないうちに槍で殺されそうなりました。仕方なく反撃しましたが、オレは何か罪に問われるんでしょうか」

「訳の分からないうちにとな。それはまた災難であったな。しかし、我々も危急存亡の秋を迎えておるのは確かなことでもある。その方にも言いたいことはあろうが、我々に力を貸してはもらえぬか」

「エリカ…さまにもそう言われたのですが、詳しい話が聞けないままでして、魔族や魔王という存在が人類を滅亡に追いやろうと画策しているとか」

「うむ。その方の言う通りじゃ。我々はこれまでもなるべく穏便に事を運ぼうとしてきたのじゃがな。今度の魔王は戦キチガイじゃ。止まることを知らん」

「では現在も魔族とやらとは交戦中なのですか」

「常に戦端を開いておるというわけではないがの。こちらから魔族を攻めたことなど一度もないのじゃが、あちらは隙あらばとこちらのことを狙っておるようじゃ」

「それがオレにはよく分かりません。一方的に攻められたまま反撃に転じない理由があるのでしょうか」

「うむ。難しい質問じゃな。そもそも人間と魔族では個々の力量がまるで違うのじゃ。魔族一人に対して人間が優位に戦いを進めようとすれば恐らく百人の兵士が必要であろうな」

「それほどの戦力差がありながら、未だに人間の国が存続していられる理由とは何でしょうか」

「それはな、魔族の絶対数が極端に少ないせいじゃ。それと、ヤツらは連携して戦うということを嫌う。強い者が全てを決めるのがあちらの掟じゃそうな」

「ではずっと戦いが続かないのもそのことが原因ですか」

「ふむ、恐らくはの…。じゃが、今度の魔王は桁違いの力を誇っておるそうな。いつまで今の状態でいられるか誰にも分からん」


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