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天空の覇者  作者: 炎 立見
23/24

22 悪いな、オレが有効に活用してやるよ

 ここで待っている方がいい、という娘を屋根の上に置いて、オレは礼拝所の入口の前に飛び降りた。

「な、なんですか、あなたは」

 驚いてやがる。

 だが、見てろ。

 もっと驚かしてやるぜ。

「ここは礼拝所で間違いないか」

「おぉ、精霊さまに祈りを捧げに来られた方でしたか、それは素晴らしい」

 なんだぁ、こいつ。

 いきなり顔がニヤけやがった。

 どうせオレの顔も金に見えてるんだろ。

「入ってもいいか」

「えぇ、どうぞお入りください」

「悪いな」

「但し、礼拝所にお入りいただくためにはご寄付が必要となりますが、それはご存じでいらっしゃいますかな」

「もちろん知ってるさ」

「それは結構ですな。では100カールスを精霊さまにお捧げ下さい」

「んん? それって精霊がそう言ったのか」

「もちろんですとも。私の許にご降臨された精霊王さまがそう仰ったのですよ」

「そうか、それじゃ仕方ないな」

「そうですとも。精霊王さまのご託宣でございますから」

「じゃ、これを」

 と言って、オレは如意宝珠から膨れ上がった巾着袋を取り出して焦らすように硬貨を掴み出した。

「悪いな。どれが100カールスの値打ちがあるか分からんから、お前が代わりに選んでくれるか」

 それを聞いて、男は涎を垂らさんばかりの表情になって銀貨を1枚摘まみ上げた。

「どうぞ中へ進んで礼拝なさって下さい」

 その言葉を聞きつつ、オレは礼拝所の奥へと進んでいったが、なんだこの匂いは。

 どうも、礼拝所の奥で祭壇に向かって祈っているヤツらの姿勢が定まっていない。

 それにこいつらの顔がすでにおかしい。

 礼拝所ってところで見せる顔じゃないぞ、これは。

 目が蕩けて、口からは涎が流れている。

 ふむ、この匂いが原因か。

 麻薬だな、こりゃ。

 あの娘を置いて来て正解だったな。

 おっと、礼拝所の奥に衝立があるぞ。

 いかにも怪しい雰囲気じゃねぇか。

 じゃ、ちょっくらお邪魔しますかね。

 最前列で祈りを捧げるヤツらに並んで目を閉じてみたが、貫頭衣に身を包んだ女神は現れなかった。

 ここに漂っているのは神々しい神気ではなく、ぬめぬめした欲望だけだ。

 これで何を祈れというんだ。

 ふざけんなよ。

 祈りを終えた風を装って立ち上がるとそのまま衝立の方に向かったが、奥へ入ろうとしたところで筋肉ダルマのようなヒゲ親父に行く手を阻まれた。

「おっと、お若いの。ここから先は篤志金の多い方々の安息所でな。みだりに入ることは許されておらん」

 ニヤニヤと笑いながらオレに臭い息を吐きかけるオッサンは、そう言って大きな籠を差し出した。

「幾らとは決まっておらんがな、まず1万カールスほど篤志金を精霊さまに捧げれば、チラっと覗くぐらいのことは許されようて」

 1万カールスとは大きく出たもんだ。

 しかも覗くだけだと。

 面白ぇ。

「オレはいいんだよ。そこをどけ」

 言いながらヒゲダルマの顔を鷲掴みにして引き摺りながら衝立の奥へ進んでいった。

 そこは、ある意味想像通りの世界が広がっていた。

 幾人かの狒狒爺が、若い巫女のような女たちの奉仕を受けて蕩け切っていた。

 ただ、オレの予想と違っていたのは、その奥に金ピカに輝く扉があったことだろうか。

 掴んでいたヒゲダルマを金ピカの扉に投げつけてブチ壊すと、オレはそのまま抵抗を受けることなく最奥まで歩いて行った。

 見るんじゃなかった。

 気持ち悪い。

 太鼓腹をした白髯の爺ぃが素っ裸で巫女の奉仕を受けていたのだろう。

 そのヒゲ、頭に回したら良かったのにな、爺ぃ。

 但し、ヒゲ爺の股間には巫女ではなくヒゲダルマの頭が突き刺さっていたが。

 おっと。

 また力加減を間違っちまったぜ。

 悪ぃな。

 今度からはしくじらないように気を付けるぜ。

 目の前で惨劇があったというのに、巫女たちは蕩けた表情のままオレを見て、こちらに這いずって来た。

 間違いなく、この香の影響だろう。

 羞恥心を奪って本能のままに異性を求めるようになる効果があるらしい。

 オレとしては、巫女たちの歓待を受けることも吝かではないのだが、如何せん屋根の上に連れを待たせているんでな。

 また今度、機会が有れば宜しく頼むとするか。

 女たちを避けながら、ヒゲ親父と筋肉ダルマが睦みあう横を通って、オレは金ピカに輝く厨子のようなものの扉を開けた。

 予想通り、そこには金貨がうず高く積まれていた。

 さて、どれぐらい貰っていけば釣り合うかね、オレの軽奴隷が被った辱めと。

 ま、全部頂いて行きますがね、もちろん。

 床に脱ぎ捨てられた巫女の衣装を拾い上げると、オレは躊躇なく金貨の山をそれに移し、如意宝珠に取り込んだ。

 さて、帰るか。

 そう思って踵を返した時だ。

 厨子の脇の大きな袋戸棚から声が聞こえたような気がした。

「なんだ。まだ誰かいるのか」

 溜め息交じりにその戸を引き開けると、女が転がり出て来た。

「おい、脅かすんじゃねぇぞ」

 少しばかり驚きながらその女を見ると、どうも様子がおかしい。

 猿轡などは噛まされていないにも関わらず呼吸が荒い。

 こいつはマズいと直感が訴えていた。

 その女を抱き上げると、もう他に厄介ごとが出て来るなと祈りながらぶち壊した扉を抜け、衝立を蹴倒して礼拝所を飛び出した。

 もうここには用はないが、オレから100カールスを掠め取ったこいつにだけは挨拶しとかなきゃな。

 野郎は、自分に向かって走って来るオレが抱えている女に面識があるようで、あっ、とか、ひっ、とか言いながら足止めしようとするのを軽く蹴倒して腹を踏んでやった。

「おい、さっきの100カールス返しな」

 自分でもセコいとは思うが、あれはオレの軽奴隷の稼いだ大事な金だ。

 1カールスたりとも無駄には出来ない。

 女を抱えたまま野郎の腰に括り付けてある袋を取り上げるついでに、追って来れないように頭を踏みつぶそうかと足を上げたが、何やら言っているので思わず聞いてしまった。

 時間がないってんだろが、早く言えこの野郎。

「ジョイスを返せ」

 と言ってるらしい。

 誰だよ、ジョイスって。

 ま、この女のことだろうけどな。

 名前だけでも分かったんだから、もう用は済んだ。

 外へ走り出す拍子に野郎の腹を踏んで行ったが、ぎょわ、とか聞こえて来た。

 お前に運があれば、ヒゲ親父や筋肉ダルマの様にはならないだろ、きっと。

 女を抱えて礼拝所の屋根に飛び上がると、娘が驚いた顔でオレを見て来た。

「その人はどうしたの」

「拾った」

「拾ったって、犬や猫の子じゃあるまいし」

「中で戸棚に閉じ込められてたから拾って来ただけだ。それより苦しそうだからちょっと待ってろ」

 オレとしては娘の相手よりこの女、ジョイスと言ってたか。

 そっちの容体の方が気掛かりなんで、その場で治癒魔法を行使した。

 虹色の光がジョイスを包んだんだが、やけに長い間光ったままでいやがるな。

 なんか、時間かかってるっぽいぞ。

 相当重篤な状態だったんだろうか。

 暫く纏わりついていた虹色の光が離れて消えていくと、ジョイスはゆっくり目を開けた。

「あの…。あなたは」

 当然の質問だな。

「ここは一体…」

 これも当然の疑問だな。

「私は囚われたまま押し込められていたはず…」

 状況も覚えているのか。

 偉いぞ。

 説明の手間が省ける。

「ジョイスというのか」

 突然の呼び掛けに驚いて目を瞠ったジョイスは、それでもオレを真っ直ぐ見つめてゆっくりと頷いた。

「はい。マルゼスの守護職だったケルハイズ子爵の娘、ジョイスで間違いありません」

「そうか。で、なんであんなところに閉じ込められてたんだ」

「それは…」

 言い淀むってことは言い難いってことだな。

 じゃ、オレの代わりにお前が聞いてくれ。

 ってところで気が付いた。

 オレ、こいつの名前まだ知らねぇんだ。

「えっと。お前、何て名前だ」

「ちょっと冷たいんじゃない、その言い方は」

「知らないヤツの名前を聞くときに、他に何と言えと」

「ま、その通りなんだけど、あんまりじゃない」

「めんどくせぇヤツだな、お前」

「なに、その言い方」

「文句は後だ。ジョイスの話を聞いてオレに事情を説明できるようにしろ」

「はいはい。ほんっと、好き勝手に生きてるわね、あなた」

「だろ。何しろ女神さまのお墨付きだからな」

「なんなんだろ、この自信。ワケ分かんないわ」

 文句を言いながらも、娘はオレに名前を告げた。

 が、その名前を聞いて、今度はジョイスが顔色を変えやがった。

「わたしの名前は、カノン。カノン・レトーザというの。分かったかしら」

「カノンな。じゃ、ジョイスの方頼む」

「レトーザさまと言えばジャキール公国の宰相のお家柄ではございませんか」

「ま、元を糺せばそうかも知れないけど、今じゃしがない軽奴隷よ。このとんでもない男の人の、ね」

 なんだかややこしい話をしているようだけど、オレにゃ関係ないな。

 関係ないことにしとこう。

「それで、私が話を聞いている間、ご主人さまは何をするのかしら」

「おぅ、いいところに気が付いたな。オレはちょっくらこの街の領主ってヤツのところに挨拶に行って来る」

「ちょっと。挨拶って、それ、絶対普通に挨拶しないよね」

「おぅ、よく分かるな。さすがはオレの軽奴隷だ」

「なんでもいいけど、すぐに帰って来てよ」

「了解。オレを信じろ」

「それが一番難しいかも…」


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