18 お墨付き
ドラグレスカードのことを教えてもらったので、後は今日の宿だ。
宿坊みたいなものかな。
でも、シスターの接待付きってのがどうもな。
とりあえず、その宿泊所とやらに案内してもらうか。
「まことに勝手ながら、宿泊所にお泊りいただくためには神にその旨を申告していただく必要がございます」
まぁ、聞いてた通りだな。
それは仕方ないことだろ。
教会だって破壊分子かもしれない者を安易に泊めるわけにはいかないものな。
「神様に申告するって何をどうすりゃいいんだ」
「はい。神殿において宿泊所を利用したい旨、主神様にお願い下されば結構です」
あぁ、信者でなくても神の前に頭を垂れさせるのが目的か。
それで信仰を持ったというわけだな。
ま、いいか。
オレは日本人だ。
元だけど…。
オレにとっては聞いたことのない神様に頭を下げるぐらい何でもない。
日本国内でだって聞いたこともない神様が一杯いるしな。
なにしろ、八百万の神々ってくらいだ。
あの神様とこの神様はどっちが偉い、なんて考えることもなけりゃ気にもしていないもんな。
この世界の神様にだってちゃんと挨拶ぐらいしてやるさ。
じゃ、行こうかね。
「この扉の向こうが礼拝所になっております」
聖女クリエスの先導でオレたちは礼拝所に入って来た。
おや、見事な彫刻があるじゃねぇか。
この世界にもこんな腕を持っている芸術家がいるのか。
礼拝所の一番奥にある祭壇と思しき場所には、綺麗な顔をしたスタイル抜群の女神さまと、その両脇に男の子と女の子の彫刻が置かれている。
この真ん中のが主神様ってことだな。
で、主神様の脇にいる男の子がなんというか、ゴリマッチョ…。
表現が古いのは許してくれ。
オレはそういうのに弱いんだ。
で、反対側にいる女の子がなんというか、線が細くて耳が若干尖ってるように見えるが、エルフなのかな。
ってことは、あのゴリマッチョはもしかしてドワーフってことか。
主神が人間で、ドワーフとエルフを従えているって構図なのか。
おい、ケモ耳はどこ行った。
オレのロマンを返せ。
でも、見方によっては人類を格付けしてるみたいな感じだな。
なんか胡散臭ぇ。
「ではこちらで祈りを捧げて下さいませ」
クリエスがそう言ったのは扉を抜けてすぐのところだ。
神様の像までかなり遠いんだけど。
ま、信者でもないのにあまり近づくなってことか。
どうでもいいけどさ。
オレ以外のみんなが膝立ちになって両手を固く結んでる。
これがこの世界の祈りの基本姿勢なんだな。
じゃ、オレも真似してみますか。
で、膝立ちになって両手をしっかり結ぶと目を閉じた。
その瞬間、意識が遠くなったような気がした。
驚いて目を開けると、そこには主神の像そっくりの綺麗な女性が立っていた。
でも、古代ギリシャ風の衣装ってわけじゃなく、貫頭衣姿だ。
お胸さまがよく分からない。
なんてもったいない仕様なんだ。
『そなたがこの度召喚を受けた勇者であるな』
なんか頭に直接響いてくるんだけど、この声。
「そうみたいだな」
『いきなり環境が変わって戸惑ったことであろう』
うん、おっしゃる通りだね。
まだ、皆目理解出来てないよ、この世界のこと。
「そうだな」
『妾も気付いた時には召喚が始まってしまっておってな。十分な力を付与する間が無かったのじゃ』
へっ。
この凄ぇ力を付与してくれたのあんたかい。
そんでもって、これで十分じゃないっていうのか。
「どんだけ桁外れな力を付与するつもりだったんだ、一体」
『妾が付与する予定であったそなたの力をどうやって与えるか考えておったが、そなたの方から近づいて参ったのでな。今残りをそなたに授けるとしよう」
いや、これ以上超人になっちゃうのか、オレ。
相手の攻撃が見切れてしまう力だろ、音速を超えるダッシュ力だろ、十分じゃね。
「これ以上何をくれるというんだ、神様は」
『此度の魔王はちと弄りすぎての。今のそなたの力では少し及ばんようじゃ』
なんだ、遊び感覚で魔王や勇者をセットアップしてるってのか。
そりゃちょっとばかり悪趣味じゃねぇの。
「魔王を倒すの、決定なわけか」
『元の礼拝堂に戻った時に、そなたは新たな力に目覚めておろう』
へいへい。
御心のままに。
楽しみにしておりますよ、新たな力ってのに。
こうなりゃヤケだ。
もらえるものは何でもいただいちゃいますからね。
「新たに得た力で魔王を倒すのは既定路線だろうけど、その後はどうなるんだ」
『魔王と対立するも良し友好関係を結ぶも良し、今ある国家を再編するも良し、その力をどう使うかはそなた次第じゃ』
おっと、いいこと聞いたぞ。
でも、それじゃ今度はオレが魔王になっちまいそうだが。
何にしろ今現在の世界情勢ってやつを把握しないといけなそうだな。
「じゃ、とりあえず慣らし運転しながらもらった力を試してみるかな」
『それも一興。そなたの意のままに為すがよい』
女神の声を聞きながら気が遠くなって、気が付いたら礼拝堂の端っこで膝をついていた。
「主神様の御心に触れていただけましたか」
聖女クリエスがそう言いながら優し気で儚げな微笑みを浮かべていた。
うん、これこれ。
絶対この娘を手に入れるぞ。
ってか、アリスも手放さないしエリカだって当然オレのもんだ。
ついでに奴隷っ子三人娘もオレのだ。
何をするのも自由だってお墨付きもらっちゃったもんね。
さて、寝るかな。
今日は疲れたぜ。
目覚めると、そこはオレ一人が寝ているだけの部屋だった。
自重を止めるとか言いながらこれかよ。
ま、エリカはさすがに家に帰したけど。
至天聖女ぐらいは隣に寝てると思ったんだがな。
まだまだだな、オレ。
ってか、シスターの接待が無かったぞ。
ようやく頭が目覚めたらしい。
不信心者でさえ信者に仕立て上げると言われているシスターの接待が無かったじゃねぇか。
こんな宿坊の殺風景な部屋で一人目覚めるなんて、最低だぜ。
「お目覚めは如何ですか、勇者さま」
扉が開いて見覚えのないシスターが顔を出しつつそう言った。
「あぁ、最低の目覚めだ」
おっと、つい本音が出ちまったぜ。
「あら、それはいけませんね。では気分を変えるためにも礼拝堂へ行ってみませんか」
遠慮しとくよ。
それより、昨日女神が言ってた新しい力ってのを試してみたいんだ。
「悪いな、礼拝堂は遠慮しとくよ」
「まぁ、礼拝堂に何かイヤな思いででもお有りですか」
しつこいヤツだな。
要らねぇって言ってんだろ。
あんまり信仰を強要するようならすぐにでも出て行くぞ。
「えっと…、あんまり言うと出て行きそうなお顔をなさってますねぇ」
ビンゴ!
「アリスかクリエスを呼んで来い。話が違うってな」
シスターの顔色が変わったぞ。
もしかして、こいつがオレの接待係だったのか。
そんでもって、昨夜はその仕事を放棄したと。
「えっと…、勇者さまをご接待申し上げるのは至天聖女さまの特権だとおっしゃって、昨夜はこのお部屋に近づけませんでした」
なんだと、あのバカ聖女。
なんて勿体ないことをしやがるんだ。
「じゃ、お前も来ないしバカ聖女も来ないってわけだ。ならこんな辛気臭いところにいる意味がないからな。オレは出て行くって伝えとけ」
何か体の奥から滾るような感覚が湧き上がってきて、居ても立ってもいられない気分だ。
そう言葉を残して、オレは大聖堂の宿坊を後にした。
どうしても走りたいんだ。
思いっきり走り回ってこの感じを消さなきゃ身が保たん。
一気にダッシュしてあっという間に王都セブルの城門に達してしまった。
入って来る者には些かの質問をしている衛士たちだが、出て行くものには無頓着だ。
皆が見ているのを気にせずにそこからまた加速したんだが、こりゃなんだ。
まるっきり疲れないぞ。
まぁ、昨日までだって何かして疲れたという感じはなかったんだが。
このまま行くと何処に着くんだろう。
この国の地理関係は全く知らないから、ちょと面白い。
着いた所で試してみるか、女神の恩恵。
「何処だ、ここ」
夢中で気分の赴くままに走り回っていたら、人の手が入った形跡が無さそうな荒れ地に出ちまった。
そういうセリフも出て来るわな。
見た感じ、狭いとは言い難い平原が広がっている。
だが、何かの建物があるとか、誰かが住んでるといった気配は感じない。
「気配か、気にしたことなかったな」
第一、人以外の何かに出会たことがないから気配もへったくれも無いが。
けど、気配はしなかったが、おかしなものに気が付いた。
オレの右手に腕時計のようにくっ付いてる小さな玉だ。
なんかちょっとおしゃれにも見えなくもないが、本当に腕時計ほどの大きさの丸い玉だ。
これ、いつからくっ付いてるんだ。




