16 金持ち勇者
「オスカーさまの従者であるそなたを使い立てして申し訳ないのですが、わが従者を呼んではもらえませぬか」
おっと、ちゃんと貴族みたいなしゃべり方してるぜ、美少女が。
環境によって言葉遣いが変えられるなんざ、やっぱり頭いいんだねぇ。
「畏まりました。どちらでお待ちでいらっしゃるのでしょう」
「この邸の右手の角に馬車が停まっておるはず、そこの誰でもよいので頼みます」
「では、少々お待ち下さいませ」
おぉ、走ってるよコルカスが。
まだ無様な走り方だけど、すぐにちゃんと走れるようにしてやるから待ってな。
「おまえ、親子対面させるつもりだろ」
ほら、舌出しやがった。
ペロっとか。
くそっ、可愛いじゃねぇか。
「オスカーさまにはお見通しですね」
「まぁ、ケイザがお前の護衛に付いてるのは間違いないと思ってたがな」
「何度遠慮しても付いてくるんですもの」
「それだけ心配なんだ、お転婆娘が」
「まぁ。ひどーい」
待つまでもなくエリカの従者が走って来た。
あれ、ケイザじゃないな。
「お待たせいたしました。ご用向きをお伺いいたします」
「至急王宮に戻ってサーライズ子爵にお伝えして下さい。ローエングリン伯爵さまが火急の御用がお有りで伯爵邸にてお待ちであると」
「畏まりました。サーライズ子爵閣下にローエングリン伯爵閣下が火急のご用向きがお有りのため、ローエングリン伯爵閣下のお邸にお出でいただきたい旨お伝えいたします」
「頼みましたよ」
「はい」
へぇ。
ちゃんと命令を復唱するんだな。
おうおう、走ってる走ってる。
すぐそこだから、そんなにかからないとは思うけど。
まずはサーライズ子爵がどこにいるかが問題だな。
「サーライズ子爵がいらっしゃった折にお出しするお茶もありませんね」
少し困った顔が可愛いぞ、エリカ。
でも、そうだな。
それどころか、じっくり話し合える部屋もないぞ。
いや、部屋数はバカみたいにあるんだけど、使えるところがないだけで。
さて、どうするかね。
って悩んでると誰か来た。
「こちらに大聖堂修道院のアリスさまはおいででしょうか」
おっと、またまたタイプは違うけど可愛いな、この尼さん。
「アリス、誰か来たぞ」
なんか、オレだけが礼儀作法知らないんじゃないか、もしかして。
呼んですぐにアリスが廃墟から顔を出した。
「あら、ネルケじゃないの。何か御用かしら」
「はい、アリスさま。大司教様がこの度のお礼をとおっしゃっておられますので、そのことについてアリスさまにご相談を」
「そう。でも、今はここを離れられないの。勇者さまのお世話で忙しくて」
ウソを吐くな。
おまえ、メシの支度ぐらいしかしてないだろ。
いや、それでも助かってはいるけど。
「まぁ、どうしたらいいんでしょうか。この度のお礼にと大司教様が勇者さまに7億セルー寄贈したいとおっしゃっておられたんですが」
「な、7億セルー…」
おっと、美少女が絶句してら。
セルーってのが、この国の通貨単位ってことか。
こっちの貨幣価値は分からないけど、そんなに安いって訳でもなさそうだな、この反応は。
「それをどういう形で寄贈されるとおっしゃっていたの、ネルケ」
「はい、それをご相談したくて来たんですけど、お忙しいなら仕方ありませんね。そうお伝えします」
こらこら、こんな可愛い娘に寂しそうな顔させるんじゃない。
「もしかして、ドラグレスカードでもいいのかしら」
「大司教様がおっしゃるには、勇者さまならその方が何かとご都合が良いのでは、と」
「そうねぇ。でも、私が大聖堂付きでなくなったら使えなくなるわね」
「それはどういう意味ですか、アリスさま」
「だって、勇者さまのお世話をさせていただくのですもの、修道院の管理までは手が回らないわ」
なんだぁ?
この肉食系シスター、そんなに偉いのか。
「その点に関しては、勇者さまのお傍にお仕えするのは名誉なことだからと、そのままアリスさまのお名前は残しておいて、クリエスさまが副院長としてアリスさまの後任にお就きになるそうですが」
「大司教様付きを辞めるっていうの、クリエスが」
「はい。アリスさまがお抜けになった後のことをどうなさるか大司教様とクリエスさまが話し合われて、病気も癒えたからもう大司教付きのお役職は必要ないということになったそうです」
「あぁ、そういうことね」
「はい、ですから、アリスさまが勇者さまに従って行動されてもドラグレスカードをお使いになることに問題はありません」
黙って聞いていた美少女が、突然横合いから言葉を突っ込んできたからビックリしたじゃねぇか。
「クリエスさまというと、あの聖女クリエスさまのことですか」
聖女だと。
聖女ってあの聖女だよな。
チェ~ンジ!
チェンジだ~!
話を聞いてる限り大司教付きってのは、大司教のベッドの横に立っていたあの優し気で儚げなシスターのことだろ。
こんな肉食系より聖女がいいに決まってるじゃないか。
チェンジだ。
聖女と肉食系、チェンジ希望。
「聖女クリエスさまもご自分がアリスさまの後に入られることで、きっと教皇様もお許し下さるとおっしゃっておられました」
へぇ、信望が厚いんだな、聖女って。
えらい違いじゃねぇか、コイツと。
オレは意識してなかったんだが、なんか細い目をしてアリスを見てたらしい。
「勇者さま、何か勘違いをされてるようですが、聖女は何もクリエスだけではないのですよ」
へっ、何言ってんのこいつ。
修道院の偉いさんか何か知らんけど、聖女をバカにしちゃいけないだろ。
謝れ。
あの優しそうで儚げな聖女、クリエスさんに謝れ。
「私がどうして大司教様のお部屋に自由に出入り出来ていたかご存じないでしょう」
知らん。
そんなこと知らん。
興味もないし。
「私の聖魔法はダンダラス王国でも最強なのですよ」
そうなのか。
でも、自分で言っちゃうか。
それ、しない方がいいと思うぞ。
おまえだって黙っていれば凄い美人なんだし。
「クリエスは祈りの効果が素晴らしいから聖女に列せられていますが、私は戦える聖女ですから」
うそ~!
おまえも聖女なのかよ。
しかも、戦う聖女ってなんだよ。
聖女の安売りしすぎだろ。
「オスカーさまはご存じなくても仕方ありませんが、アリスさまは前回魔物が侵攻して来た時、アンデッド系のモンスターをお1人で一掃なさったんですよ」
なんか、美少女が解説してるけど、聞きたくないぞ。
こんな肉食系シスターが聖女だなんて。
「それもただの聖女ではありません」
なんだただの聖女だとか、そうじゃないとか。
値段でも付いてるのか。
あぁ、浄財の寄贈の値段か、もしかして。
「アリスさまは教皇猊下が唯一お認めになった至天聖女様でいらっしゃいます」
うそー。
こんなのがあの魅惑的な聖女クリエスより凄いのか。
ありえんだろ。
「至天か否かはどうでもいいですが、聖女であることはお含み置き下さいませ、勇者さま」
なんと、遜ったよ、コイツ。
「では、ドラグレスカードに7億セルーを登録しておけばよろしいのですね」
「そうね、そうしてちょうだい」
「かしこまりました。その旨大司教様とクリエス様にお伝えいたします」
なんだかな、価値は今一つよく分からんけど、7億セルーとやらが手に入ったらしい。
どれくらい値打ちがあるんだ、7億セルー。
「異世界より召喚されて間が無い故、まるでモノを知らんので聞きたいんだが、7億セルーってどれほどの価値があるんだ」
美少女と至天聖女が揃って目を見開いてるぞ。
なんか変な事言ったか、オレ。
「そういえば、この国の事この世の生業などについては、まるでご説明申し上げておりませんでしたわね。」
「そうなのですね、エリカさま」
あのなぁ…。
オレは突然この世界に召喚された身だぞ。
通貨の価値なんか分かるわけないだろうが。
仲良くなってる場合か、そこ。
説明しなさい、説明。
「よろしいですか、まずは…」
説明を受けて、オレは腰が抜けそうになった。
どんだけ金持ってんだよ、大司教の野郎。
そりゃ一発で治しはしたけどね。
まさかあの大聖堂がポンと買えるほどだとは思わんかった。
いや、尖塔が傾いてるから要らんけどさぁ。
「ちなみに聞くが、この邸を修復するのにどれぐらい掛かりそうなんだ、エリカ」
「よく調べたわけではありませんが、この状態ですと…、300万セルーあれば取り敢えず使えるようにはなるかと」
「家具も含めてか」
「もちろんですわ」
「で、オレの領地から上がって来る税収はどんなもんだ」
「先日からサーライズ子爵様と調べていたのですが、おそらく20億セルーほどかと」
ほぉー。
へぇー。
オレってば金持ちじゃん。
ヤダなぁ、貸さないよ。
「じゃぁ、今度は庶民が毎日食べるパンは1ついくらだ」
「今度はパンですか」
「そうだ。昨日その至天聖女に晩飯の材料を寄贈されたんでな、どれくらい掛かったのかと」
「あらぁ、気にしなくてもいいのに。勇者さまってばお優しいんだから」
「コホン。パン1つでしたら、おそらくは1セルーほどかと」
「は。パンが1つ1セルーってか」
「はい」
じゃ、1セルーは100円くらいの換算か。
それにしても宗教って儲かるんだな…。




