15 いいかげん修理しないとな、我が家
「エリカに訊きたいことがあったんだが」
オレは、ずっと疑問に思っていたことを直接エリカに尋ねることにした。
オレの異常な力のことだ。
思い付いたら大抵のことが実現してしまうオレの能力。
確かに凄い能力だし有難いとは思うけど…。
やっぱ、異常じゃね。
「何でしょうか」
真摯な顔でオレを見つめるエリカ。
やっぱり美少女だ。
レベルが違う。
肉食女子のアリスも美人っちゃ美人なんだけど、なんというかとにかく凄いんだよ。
「おまえが使える治癒魔法を、召喚した時オレに付与したのか」
「付与…。治癒魔法を付与したと…。いいえ、そんなこと私には出来ませんが」
出来ませんって、オレ治癒魔法使えちゃったよ。
「さっき、大聖堂で大司教の病気を治療してきた。というか、今朝騎士団の男の怪我を治してきたし、ケイザの息子のコルカスの右足も元に戻してきた」
「は…。おっっしゃることの意味がよく分かりませんが」
ホントに驚いてるぞ、美少女。
「大司教様のご不調は耳にしておりましたが、詳細については何も存じませんでしたし、コルカス殿の足については、その…。手の施しようがないと思っておりました」
ま、そうだろうな。
治癒魔法は効くときと効かないときがある、ってのがこの世界の常識らしいし。
原因と状態を把握していない状況でやみくもに治癒魔法をかけるだけだもの。
この世界でも最高クラスの光魔法の使い手だというこの美少女でも、無理なものは無理だ。
そういう常識で生きて来たんだから。
「もうすぐコルカスがここに来るはずだ。その目で確かめるといい」
「いいえ、オスカーさまのおっしゃることを疑うなど、とんでもないことです」
ま、いいか。
でもなぁ。
なんで、オレってこんなこと出来るんだろ。
「どういう風にオレを召喚したんだ。こんな能力を持っているヤツがいいとか、こんなことが出来るヤツを召喚したいとか、何か条件があったんだろ」
「それは、その…。この世界を、ダンダラス王国の窮状をお救い頂きたい一心で、勇者たるべきお方をお呼びしたいと願っておりました」
「へっ、それだけか」
「はい。細かな事を願えるほど召喚魔法というものは万能ではありません」
「へぇ、それでオレが呼ばれたわけだ」
「はい。最高の勇者さまをお呼びできたと思っています」
「ふ~ん。じゃ、反対にオレを送り返すことも出来るんだよな」
そう訊くと、エリカの顔が真っ青になった。
あ…、こりゃ出来ないパターンだぞ。
ま、元の生活に未練が無いかといえば無くもないけど、エリカを手放すのも惜しいしな。
ダメならここで生きてかなきゃいけないだけだ。
それならそれで、オレは自重を止めるぞ。
そうだ、おれは勇者なんだ。
この世界をどうこう言う前に、オレの好きなように生きてやる。
ジャキール公国のこともそうだけど、まだまだオレの知らないことがたくさん有りそうだしな。
「エリカ、正直に答えろ」
ブルブルと震えてるぞ、美少女が。
出来ないと答えたら、また怒りを買うと思ってるんだろ。
もしかしたら、今度こそ愛想を尽かされるとか。
ははは、そういうことして美少女を虐める趣味はないから安心しろエリカ。
ほら、どうせ出来ないんだろ。
「で、出来ません」
ほら、大当たり~。
これで、この世界で生きていくことが決定しちゃったよ。
じゃ、もう遠慮は無しの方向で。
好き勝手しながら生きてやるぜ。
「出来ませんだと」
虐めはしないけど、遊ぶくらいはいいよな。
だって、可愛いし。
オレって悪人じゃね。
いや、勇者ですけど、何か。
「はい…。何処の世界からお呼びしたのか、私には分かりませんので、お戻りいただきようがないんです」
「ほぅ、ってことは、前の世界に置いて来た家族や財産も全部捨てろと」
「はい…、そういうことになってしまいます」
「それでその上この世界を救えと言うんだよな」
「・・・・・」
「勝手だよな、おまえ」
「・・・・・・・・」
やべ。俯いたまま顔も上げないよ。
弄りすぎたかね。
「何をお望みですか」
「へっ」
「オスカーさまのすべてを奪い去ってこの世界に召喚してしまったのは私です。ですから、代わりに何をお望みですか」
「言ったところで、おまえに全てが叶えられるわけでもないだろ」
「おっしゃるとおりです。ですが、私の力の及ぶ限りのことはさせていただきたいと」
「ふむ。じゃぁ…」
「・・・・・・・」
「まずは、何か食わせろ。腹減ったぞ」
「はい?」
「言っただろ腹が減ったと。同じことを二回言わせるな」
「はい」
とはいえ、公爵令嬢に飯の支度なんぞ出来るわけないからな。
軽奴隷っ娘三人を使って準備させることにした。
「おまえもオレの婚約者だというんなら、オレがなにをしたいかぐらい考えろ」
「はい! すぐにお食事をお持ちします。あなたたち、手伝いなさい」
「はーい」
「すぐに」
「わたしも食べていいのかな」
ま、いいだろ。
自分で作るんだ、それくらいは当然だろ。
三人娘と肉食系シスターの作った飯を食い終わったところにコルカスが訪ねて来た。
やっぱり、まだ右足の筋力が不十分みたいだな。
引き摺るほどじゃないけど不自由そうだ。
「勇者さまのお邸だと伺ってきたのですが、これは…」
おうおう、絶句してやがる。
無理もないな。
この惨状だ。
でも、座るところぐらいあると思うぞ。
「今、椅子を探してきまーす」
「少し待ってて下さいねー」
「それまでは立っててー」
三人娘がそれらしい物を探しに行ったようだ。
もう足が痛むことはないだろうから、腰掛けられるものであれば問題ないだろ、きっと。
「勇者さまに治療していただいて積年の悩みが霧散いたしました」
「それは何よりだ。しかし、まだ自由に動けるとまではいかないようだな」
「何年も使っておりませんでしたので筋力がまるで足りません」
「ま、追々鍛えて行けばお前のことだ、すぐに元に戻るだろう」
「は。その暁には槍のご指導を賜りたく」
「動けるようになったらな。それよりも、早く動けるようになる指導をしてやろう」
「まことですか」
おーおー、食いついてきやがった。
この世界じゃ、とにかく実践あるのみで準備運動とか基礎トレーニングとか筋力トレーニングとかまったくだからな。
「今日からここで寝泊まりしろ。すぐに邸も修理するからお前の部屋も用意してやる」
「は、ありがたき幸せ」
「ま、そう固くなるな」
オレはエリカを振り返って、すぐに邸の改修資金が出せるか訊いてみた。
「すぐには…。いえ、すぐにご用意して明日からでも工事に入らせます」
「無理はしなくていいが、出来るだけ早い方が嬉しいな」
「それではすぐにでも」
ほら、婚約者放り出して帰ろうとするんじゃない。
どうせ一人で歩いて来たんじゃないんだろ。
駆けだそうとするエリカの腕を掴んで引き止めた。
「護衛はいないのか」
「はい?」
「護衛や従者も来ているんだろ」
「はい、お邸の横手に待機させておりますが」
オレはきっとケイザも来ていると踏んでいる。
騎士団なんか放って置いても、あいつには国王の姪が大切らしい。
なんか微妙に人材不足な感じがするな、この国。
「では護衛を呼べ。お前が動き回る必要はない」
「ですが…」
「資金とか職人の手配とか考えてるんだろ」
「えぇ、その、すぐにでも手配しないと…」
「なら、サーライズ子爵をここに呼び出せばいいだけのことだ」
「でも、こんなところにお呼びしては」
何勘違いしてるんだ、この美少女は。
オレの代官にこの状況を把握させるのも大事なことだと思うぞ。
「子爵にこの邸を見せればすべてあいつが手配するだろう。オレの婚約者がそんな些末なことにまで手を出すな」
「でも…」
「立場を弁えろ。お前はオレの何なんだ」
「婚約者です…よね」
「そうだろ。ならおまえがオレの傍で指示を出さないとオレが面倒になる」
ほら、言葉一つで顔がパーっと輝いたぞ。
誉めてやらねば人は動かず。
うん、その通りだね。
「ほら、すぐに従者にサーライズ子爵を呼びに行かせろ」
「はい」
んん、コルカスが怪訝な顔をしているぞ。
何だ。
どーしたんだ。
「サリンジェス公爵閣下ご令嬢様とお見受けしたのですが…」
ピンポーン。
よく分かったね。
ま、こんな美少女二人と居ないからな。
「そうだが、何か」
「どういうご関係かと思いまして」
あぁ、そういうことね。
足を悪くして世間から遠ざかってたから知らないか。
ま、元に戻ったらエリカの護衛も任せなきゃいけなくなるかも知れないしな。
「オレの婚約者だ」
「なんと。まことですか」
「何か疑問でもあるのか」
「ダンダラス王家の至宝と謳われたご才媛でいらっしゃったので」
へぇ~。
王家の至宝ねぇ。
ま、分からなくはないが。
何しろ世界最高峰の光魔法の使い手だし。
おっと、エリカがオレに目で催促しているな。
紹介しろってことか。
未婚の女性は軽々しく男と口をきけない世界だし。
「エリカ、騎士団長ケイザの息子コルカスだ。オレの従者になった」
「コルカス殿と申されますか、以後良しなに願います」
知ってるくせに。
面倒だね、貴族は。




