10 軽奴隷って
メイドたち二人は、子供といえども女性のことなのでオレを放っっぽり出してエリカと話を始めた。
エリカも詳しい経緯を話すわけじゃなく、今必要なものが何かを的確に伝えているようだ。
やっぱ頭いいんだわこの娘。
メイドさんたちもただの女の人じゃないから、エリカに言われた内容を反芻して更に的を絞っているようだし。
そしてエリカとメイドさんたちの話が終わると、ケイザの代わりにメイドさんたちの警護について来た騎士を呼んで馬車を回してもらえるようにお願いしてた。
「では私どもはエリカさまの御用を果たしてまいります」
と言って馬車に乗り込んで行っちゃったよ。
まだこいつらを裸のままで置いとくのか。
「だんな様、もうお分かりでしょうが、この子たちの軽奴隷としての束縛が解かれましたので、この娘たちを解放しなければいけません。それでよろしいですね」
いや、よろしいですねってどういうこと。
オレがこいつらをどうにかするとでも。
どう思われてんだろ、オレ…。
「エリカはオレの婚約者だよな」
エリカの目を見つめてそう言ってやった。
なに、その上目遣いは。
だから反則だってんだろ、それ。
「それが何か」
「それがなにかじゃない。エリカはオレのことをどんな男だと思ってるんだ」
「えっと…。どんなと言われましても、健康な殿方でいらっしゃいますからこういう状態の女性を見て欲望が湧きたつとか・・・・・きゃっ」
自分で言ってて恥ずかしくなったんだろう。
勝手に身悶えしてやがる。
美少女ってホント得だよな。
こんな恰好してても可愛いんでやんの。
だがな、エリカ。
オレにはこんなガリガリに痩せた、ほんの子供にしか見えない少女を抱こうなんて趣味はないぞ。
「こいつらはオレの意志で解放したんだ。こいつらの身が立つようにしてやるぐらいは考えている」
「まぁ、そうだったんですね。さすがは私のだんな様でいらっしゃいます」
ふんすとばかりに気合を入れてオレを褒め称えてるところが怪しいな。
何人かオレがお持ち帰りするとでも思ったんだろ。
この野郎。
野郎じゃないけど。
と、オレたちの話が解決しかけたところで、襤褸切れを首にぶら下げた少女たちがオレに縋り付いて来た。
「わたしたちを捨てるんですか」
捨てるってキミ達…。
人聞きの悪いことを言うんじゃない。
軽奴隷とかの身分から解放しただけじゃないか。
「見捨てるわけじゃない。解放されると何か不都合でもあるのか」
普通、奴隷から解放されるともっと喜ぶものだと思ってたけど、違うのか」
「私たちを良くご覧下さい」
立ち上がっちゃいろいろマズいでしょ。
ほら、エリカがまたきゃーきゃー言ってるし。
「ごく普通の可愛らしい女の子にしか見えないが」
「えっ」
エリカが何かに気付いたようだ。
声を上げて騒いでいたのが真顔になって3人を見つめている。
「あなたはエルフなのね。それもハーフのダークエルフかしら」
3人のうち左側に居た娘が頷いた。
「そしてあなたは獣人族なのかしら。特徴がハッキリしないからクォーターね」
そう言ってエリカは真ん中に居る少女の髪を掻き分けてそこにあったケモ耳を探し出した。
うん。
確かにケモ耳だ。
これは貴重な経験だぞ。
「そして、あなたは人間にしか見えないけど…」
「はい。確かに私は人間ですが生まれが皆さまと違います」
「生まれが違うって…」
そう言ってからエリカはハッと顔色を変えやがった。
なんだなんだ。
「わたしたちはジャキール公国の生まれです」
「まぁ。」
そう言ったきり絶句しやがった。
オレにも分かるように説明しろよ、誰か。
「伯爵さまは驚かれないのですね、ジャキール公国と聞いても」
驚かないって言えばそうなんだけどな。
っていうか、ジャキール公国って何。
「ローエングリン伯爵さまは私が召喚した勇者さまです。この世界の方ではありませんからジャキール公国のことをご存じなくても仕方ありません」
「まぁ、勇者さまですか」
「だから私を解放できたんですね」
「だから、だから~」
三人三様に何か言ってるけど、最後のお前おかしいだろ、それ。
さっき立ち上がってエリカを赤面させた三人は、再びオレの前に片膝を付いた。
そして、代表して人間だという少女がオレに向かって言い出しやがった。
「このまま解放されても私たちは生きていけません。どうか勇者さまのお情けで私たちをお傍に置いて下さい。
まだ胸も膨らまない年頃の少女が言い出すセリフじゃないぞ、それ。
胸が小さいのは栄養事情の方が大きいかも知れんが。
よほどの事情があるんだろうな、きっと。
「どういうことだ、エリカ。オレに分かるように説明しろ」
そう言ってオレはエリカの腕を引いて真正面からその目を見つめた。
「なるほどな。綺麗事並べてても結局そういうことしてるんだな」
「そんなことをおっしゃらないで下さいませ、だんな様」
「しばらくだんな様と呼ぶな」
「ぇ…」
絶句したって知らんわ。
ジャキール公国ってのは、ダンダラス王国と友好的とは言い難い隣国であるテーバイゼ帝国との間に存在していた小国だったそうだ。
歴史的にはダンダラス王国もテーバイゼ帝国もおよそ比べ物にならないほど古くから存在していて、悠久の時を魔族との戦いの最前線で人類の盾となってきた偉大な国だったらしい。
ところが、四百年ほど前にどこからか流れて来た人間の集団があって、そいつらが勝手にダンダラス王国だのテーバイゼ帝国だのと言い出して勢力を強め始めたんだとか。
運が悪いことに当時のジャキール公国の元首は病弱で、しばらく魔族との戦いも無かったものだから、なんだかんだ屁理屈を付けて公国の領土を蚕食していったという。
ふと気が付くと公国は風前の灯火のような状態で、しかもそういう時に限って魔族の侵攻があったんだそうだ。
魔族となんか戦ったことが無かったダンダラス王国もテーバイゼ帝国も、散々に負けて逃げ出したんだけど、ジャキール公国だけは国民が一致団結して魔族の侵攻を阻止したらしいけど、おかげで国力はガタガタになっていそうだ。
そりゃそうだわな。
領土を削られて食料も少ない中で戦い抜いたんだから。
王国だ、帝国だと偉そうにしていたヤツらはいの一番に負けて逃げ出したから滅びることはなかったけど、ジャキール公国はそれから間もなく滅亡して歴史から姿を消したらしい。
その後は元ジャキール公国の領土だったところを巡って何度もダンダラス王国とテーバイゼ帝国は戦争を繰り返してきたそうな。
でもそこって、まだジャキール帝国の亡国の民が住んでたんだぜ。
そんなのお構いなしに戦争おっ始めるもんだから、ジャキールの民は逃げ惑ってどちらかの国の奴隷として取り込まれて行って、今もなおその差別は続いているんだとか。
目の前の三人の少女は、そのジャキール公国の末裔で、それを裏で取引して利益を上げていたのがコーセヌ伯爵家とそれに繋がる一門だった。
そんな話聞かされて冷静でいられる筈がないだろ。
今まで聞いて来たことは全部綺麗事だったんだから。
オレは激怒しそうになったけど、目の前に居る美少女に怒りをぶつけたって仕方ないからな。
だから言ったんだ。
『しばらくだんな様と呼ぶな』 って。
驚愕に目を見開いている少女に、さらに追い打ちをかけるのは忍びないけど、これは筋を通してもらわないとな。
どうせ軽奴隷云々の話もデッチ上げだろう。
耳触りのいいようなことだけ並べやがって。
くそっ。
怒りが収まらん。
明日の騎士団との訓練は荒れそうだぞ、こりゃ。
いや、嵐を呼ぶ男か、オレは。
ドラマーじゃないし。
結局その後、メイドさんたちが用意した服を三人に着せて、オレは王宮へ帰らずに新しくオレのものになった旧コーセヌ伯爵邸に泊まることにした。
自分も一緒に居たそうな顔をしていたエリカだったが、心を鬼にして帰れと言ってやった。
可哀相だとは思うけどな。
でもオレに隠し事してやがったんだ。
婚約者といえどもオレに後ろ暗いところがあるヤツとは一緒に居る気はない。
結果的にオレを騙していたわけだしな。
で、オレは3人の軽奴隷希望者と一緒に半ば破壊された邸の中を見回って、少しでも居心地のよさそうな部屋で過ごすことにしたわけだ。
「ご主人様、これでなんとか寝られそうですね」
「おぉ、凄いな。馬小屋よりはよほど居心地が良さそうだぞ」
「おなか空きましたね、ご主人様」
「そうだな。ところでお前たちはどれぐらい前からメシを食ってないんだ」
「さぁ、気が付いたらご主人様の前に居たから分からないですぅ」
「まぁ、見つけた時は生きてるか死んでるか分からないほどだったからな」
「あれは死ぬかと思いました」
「なんであんなとこにいたんだ」
「私たちが返品ばかり繰り返してたからですぅ」
「返品だと」
「はい。軽奴隷で性奴隷の私たちはそのために買われるんですけど、どうしてか買った人がすぐに死んじゃって」
「うん。私たちって4回も売られたのにまだ手付かずなんですよ」
「なんか、軽奴隷の呪いがどうとか言われて壁に繋がれちゃいました」
なんなんだそりゃ。
まるで呪いだよな、そうなったら。
うん、分からんでもない。
けど、壁に縛り付けて水も食い物も与えないのは間違ってるだろ。
そんなのが普通なのか、この国は。




