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Ego Noise  作者: 東条ハルク
Revenant Landler
9/44

第四街道ドゥジオ/01

土煙を上げ、四頭は森を駆ける。馬の腹を軽く蹴り、襲歩させる。モーウヌスノを出た一行は魔物から逃げている最中だった。青年は後ろを振り向きながら魔物を見据える。倒し方がわからなければ戦っても無意味だ。

「勇者様ぁ!どうするんですか!!まだ追ってきてますよー!」

最後尾の魔法治癒師は涙を目に溜めながら叫ぶ。前を向けば前からも魔物が迫っている。だがこの魔物は硬い殻に覆われており、とても剣では斬れなさそうで逆にこちらが駄目になるだろう。

目の前のものに気を取られていては駄目だ。青年は必死に目玉を動かし抜け道を見つける。だが間に合うかどうかわからない。だが潰されるよりマシだ。

「右に曲がれ!」と青年は声を張り上げ、右の手綱を引く。次の瞬間、轟く衝突音。魔物と魔物は激突し、地に倒れる。速度を徐々に下げ、並足を揃えさせる。手綱を引き、止まらせた。魔術師を見ればほっと胸を撫で下ろしている。

スリロスの首筋を愛撫し、青年はスリロスから降りる。

「いきなり走らせてごめんな。」

青年はスリロスに話しかけながら蔵を外す。感謝の心を込めて、また首筋を愛撫する。

「ディスティー、一旦休憩を取るか。」

「…ああ、馬達も疲れてるしな。」

嬉しそうな声を上げた人間が二名ほど居たが青年は放って置き、ナイフで林檎を細切れにする。小出しで与え始めた。木に寄りかかり青年は目を瞑った。若干腰が痛むがすぐに治るものだったので良かったが、スリロスの疲労はこの休憩では余り取れないだろう。青年は溜息を吐き、一眠りしようと寝に入るがその瞬間轟音が響く。


青年は目蓋を開き、剣を取る。だが、現れたのは青年達と男と少女。男は少女を庇い、背中を地に打ち付けた。

「ヴァリエンテ様…!お怪我は…!!」

少女の頬に付着した土を親指の腹で拭いながら、心配そうに少女を見つめる。少女の無事を確認した男は青年達と向き合った。

「…諄いぞ、雑種共──」「待ちなさい、カリス。」

少女を溜息を吐き、男を一喝する。

「探す手間が省けたわ、貴方達が魔王討伐の為に旅をしているパーティね。」

すっと鼻筋が通っており、凛とした声。淡いブルーの瞳には確固たる意志が宿っており、溢れ漂う気品。

「私はパンテラオ王国の第一王女ヴァリエンテ・レオ。

私を本国まで送り届けなさい、スレクェアとは話はついているわ。」

その容姿とは反対に少女は、王女は不敵な笑みを浮かべる。

「王女が魔物を連れて歩いてるなんて聞いたこと無いわよ。シンギもディスティーも気づいてないようだけど。」

突然現れた精霊は魔術師の肩に手を置き、王女から視線を男に移した。眉をピクリと動かした王女の横を男は駆け抜け、精霊に襲いかかる。

精霊まで後数歩。だが男の上半身は地面に倒れ、下半身は凍らせられていた。青年だ。青年の剣には男の血はついておらず、男の体からも血は出ていなかった。

「…驚きだ、人間で私の速度に着いてこれたのはお前だけだ。」

男は片腕で体を起こし、青年を見て嬉しそうに笑みを浮かべる。上半身のみの男に話し掛けられるのは余り経験した事がない青年は若干戸惑いつつも凍らせた下半身を解放する。

「ちょっと手伝ってくれないか、私一人ではどうにもならない。」

「ああ…。」と一言返事し、青年は手を伸ばすが精霊によって止められる。だが青年の手は精霊の体を通り抜け、男を持ち上げた。

「ディスティー、敵かもしれないのにどうして手を貸したりするの?」

「こうで良いのか。」「いやもう少し右だ、行き過ぎだ。」

青年は精霊の問いかけが聞こえていないようで、男の体をくっつけている。

「ディスティー!!シンギも何か言ってよ!」

「…召喚陣を使用しないで出て来たのを忘れたのか?」

青年と男の様子を横目で見ながら魔術師は陣を描く。これで気づいてもらえるぞと視線を送れば、そこには精霊は居ず、青年の頭を叩いていた。

「…ほう、あの妙な気配は精霊だったのか。」

「魔物に妙な気配とか言われたくないわよ。ディスティーに近づかないで、勇者なんだから変な病気貰ったら困るわ。」

精霊は後ろから青年の頭に抱きつきながら男を睨みつける。貧相な胸でも頭に乗っかるのかと男は胸の内でメモを取る。

「そこの王女様も人間じゃ無いわ。人の形をしてるけど中身は違う、私と同じ種族かしら?」

「低級精霊は黙りなさい。」「なら黙る代わりに本当の事を話しなさいよ。」

王女と精霊の間で火花が散る。その間に挟まれた男と青年は何とも言えないような顔を見合わせた。

「なら条件があるわ。貴方には聞かせない、それでどうかしら?別に聞かせたくない話じゃないけど色々と口を挟まれたくないのよ、私はね。」

精霊は王女を睨みつけながら姿を消す。気分を良くしたようで口角を上げた。

「それとその雑魚二匹も一緒よ。」

王女は小瓶を取り出し、蓋を開け水を浴びせさせる。その水は普通の水ではない。雑魚と罵られた二人は跡形も無く消えていた。

「これで邪魔者は居なくなったわ。さて…話すとしましょう。」

王女は男の膝の上に座る。

「私はパンテラオ王国の第一王女ヴァリエンテ・レオ。だけどそれは人間の姿の時の私、今の私ね。

私は本当は妖精なの。湖の妖精、湖の乙女なんて呼ばれているわ。ご存知かしら、魔術師さん。」

「幻の湖の水中に存在する城に暮らす高貴な魔法使いヴィヴィアン…か?」

「ふふ、半分正解よ。ヴィヴィアンはラストの守護妖精の名よ、私はニヴィアン。スレクェア…わかりやすく言うとミルターニャのアーサー王の友人と呼ばれている妖精よ。」

白銀の髪を腰まで垂らした白銀の王を思い浮かべ、嗚呼あの人の名前かと青年は思った。

「普通は一年に一度会う程度なのだけど…カリバーンの修復を頼まれたのよ。」

「カリバーンは決して折れることは無い聖剣のはずだ。」

魔術師は問い掛けに王女は青年の顔色を伺いながら話し始める。

「そうなんだけど…騎士道に反する…魔王の背を斬り、そして魔王の剣を防ぐに際に折れてしまったそうよ。…そうよね。勇者…ええとディスティー?」

青年は頷く。魔王の顔が頭に浮かび、青年は唇を軽く噛んだ。また問い掛けようとする魔術師が口を開く前に王女は話を戻した。

「…私達は魔王に追われる身で道中殺されたら誰にもこのカリバーンを修復出来ない。そして…スレクェアが提案したの、パンテラオ王国までパーティに同行したらどうだろうか。

…まあ、大体そんな所かしら。どう?同行を許可してくれるかしら?」

青年と魔術師は顔を見合わせる。考えている事は大体一致しているようだった。

「勿論──」「良いですよ。」

青年がそう言えば、王女は目を丸める。

「ふふ、人の話は最後まで聞いた方が得よ。…まあ、嫌いじゃないわ。」

少女は立ち上がり、微笑んだ。

「一つ聞きたい事がある。」と魔術師は言った。微笑んだまま王女は首を傾げる。

「その男は魔物なのか?」

「ふふ…私にはさっぱりだわ。それと…あの精霊の言葉を鵜呑みするのはやめなさい。身を滅ぼすわ…何れね。」

王女は何故か遠い目をし、僅かに視線をずらし青年の方を見る。それに気づいていたのは男だけだった。

「日が暮れる前に次の町に行きましょうって言いたい所だけど、簡単に行けそうに無いわね。」

地に響く足音。先程の魔物が近づいてくる足音だった。青年は立ち上がり鞘から剣を抜く。剣に嵌る赤い魔石を見て男は王女に何かを耳打ちし、そして顔を見合わせる。

「この魔物は魔術以外では倒せない。だけどエレインの作った剣、その剣なら可能よ。」

王女は青年の剣を指差す。聞いたことが無い名に首を傾げる。きっとあの鍛治職人の名前だろう。

「…剣であの魔物を倒せるのか?」

「使い(こなせ)ていない貴方には無理ね。カリスに貸しなさい、此処で旅を終わらせたくないなら。」

もう問答を交わす時間は無い。素直に青年はそれに応じ男に剣を渡した。男は迫り来る魔物を一睨みし、魔物に向って駆け出す。土煙が上がったと思えば男は魔物の上に移動しており、魔物は鋭利な爪で男を切り裂こうと腕を大きく振りかぶる。

だが腕は男には届かず地面に叩きつけられ、同様に体も押し潰されるように地面に激突する。悶え苦しんだように唸り声をあげるが、それは断末魔に変わる。

剣は魔物の頭部を真っ二つにし、男は魔物の血を浴びた。青年は見た、そして感じた。魔物の頭部を斬る瞬間に魔石が赤く煌めいたことを、あの時と同じような感覚を。


魔物との戦いが終了する。だがその戦いは一戦目にしか過ぎない。また地鳴りのように響く足音。此処に居る魔物は一匹だけではない。あの魔物の断末魔を聞いて青年達が此処に居ることを知ったのだろう。それだけではない、きっと仇討ちをしようと向って来ているんだろう。

「返すぜ、ディスティー。」と男は青年に笑いかけながら、剣を投げ渡した。先程まで血に濡れていた刀身は何も無かったように光を反射させた。ちゃんと拭いて返す良い人間なんだなと青年は思い、柄を握り直した。

「物は試しだ、使い熟てなくても何とかなると思うぜ。」

奇妙な物を見る目付きで魔術師は男を見ていたが、呑気そうに男はまた笑った。


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