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Ego Noise  作者: 東条ハルク
Prologue
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力量の天秤

「勇者様、何処へ行かれるのですか?」と門番に止められ事情を話せば一人の騎士がやってきた。

「お初にお目にかかります、私の名はフレッド。門番から事情を全てお聞きしました。街一番の武器屋にお連れ致しましょう。」

青年は騎士に連れられ王宮から少し離れたところにある武器屋を訪れる。

「この武器屋は種類が豊富で値段もリーズナブルだ。その値段に合わない上物も置いてあります。」

青年は武器屋に入るが騎士は入らず店の前に立っていた。店の至るところに武器が並び、目当てのナイフも置いてあった。

青年はどのナイフが良いかと最初に目をつけたダガーナイフを手に取る。このダガーナイフは軽過ぎず重過ぎない。研がれ方も丁寧で切れ味も良いだろう。

「…あのすみません、このナイフを十本ほど頂きたい。」

店主はぼやきながら青年が選んだダガーナイフを箱に詰めていた。そして金を払いダガーナイフが入った箱を受け取り、店を後にする。

青年の様子に騎士が気づき、良い物が手に入ったんだろうと騎士は笑った。

「勇者殿。他に行きたいところはありませんか?」

「…無いです。すみません、わざわざ付き合って頂いて…。ありがとうございます、フレッドさん。」

「……勇者殿、いやディスティー殿。貴方は優しい人間だ。貴方の優しさに救われる大勢の人間が居ることを忘れないで下さい。」

騎士が言った。

「さあ、勇者殿。王宮へ帰りましょう。」

青年は騎士に着いて行った。

──

騎士に別れを告げ、部屋に戻った青年は購入したばかりのナイフを見ていた。

「これをどう戦闘に…。」

購入してみたは良いがこれをどう活かすか悩んでいた。投擲にも刺撃にも使える。刺撃ならば回収するのは何ともないが、投擲の場合は違う。このナイフは近距離用になるだろう。

青年は何となく氷でそのナイフを作ってみる。空間魔術で敵の背後にこの氷のナイフを移動させて攻撃してみたらどうだろうか。敵は不意を突かれ、その隙に剣で倒す。

青年が策を練っている中、部屋にノック音が響く。ノックをしたのはパーティの人間達だった。

「勇者様!さあ行きましょう!」と魔法治癒師が青年の腕を引き、

青年は何処かへ連れ去られた。


一行がやってきたのは青年が昨日素振りをしていた中庭。

「此処でみんなと力試しをするようですよっ!私の場合怪我してくれないと力は発揮出来ませんけどねっ!」

魔法治癒師は青年の腕に抱きつき、満面の笑みを浮かべる。

「…まずはガーストとディスティー。それでいいだろう?」

青年は頷き、魔法治癒師を引き剥がす。だが剣が無いので青年は氷で剣を作る。魔法治癒師は目を輝かせて「凄い!凄い!」と手を叩いていた。

「私が審判しましょう。」

その様子を見ていた兵士が名乗り出る。次第に人が集まってきたらしく中庭には人集りが出来ていた。

「これから剣士ガースト対勇者ディスティーの試合を始めます。」

剣士と青年は位置につき、剣を構える。

「試合開始ッ!」

兵士の声が中庭に響く。数秒後、剣が跳ぶ。その剣の持ち主は剣士ガースト。勝負は一瞬だった。剣士は何が起きたかわからないと言うような顔で尻餅をついていた。

「…し、勝者は勇者ディスティー!」

兵士の声で一気に歓声が上がった。それでも剣士はまだ状況を理解出来ておらず、そんな剣士を青年は横目で見ながら氷の剣を液体へと戻した。

「わあ!流石勇者様です!あっ…ガーストさん大丈夫ですか!?」

魔法治癒師は剣士に駆け寄り、顔を覗き込む。剣士は自分の手を見て漸く状況を理解した。

「…ディスティー、次は俺だ。」

魔術師が言う。そして剣士と魔法治癒師が離れたことを確認し結界を張った。

「防御結界だ。他の人間に当たって怪我でもされたら困るからな。…審判、始めよう。」

「これから魔術師ギュシラー対勇者ディスティーの試合を始めます。」

魔術師と青年は位置につき、お互い向かい合う。

「試合開始ッ!」

兵士の声と共に結界の中で風が巻き起こる。青年は目を疑った。風が収まり、魔術師の隣には一人の少女。

「フィロ、相手は勇者だ。気を抜くなよ。」

「了解!」と少女は弓へと体を変化させた。魔術師は弓を弾き、矢を青年目掛けて射る。青年は難なく交わし、魔術師の背後に氷のナイフを出現させ撃ったが魔術師は弓を風へと変化させ、氷のナイフを地面に叩き落とす。その瞬間、地面に落ちた氷は水に変化し魔術師の足に纏わりつき凍る。魔術師の口角が釣り上がる。

青年は一気に魔術師に斬りかかり真っ二つにするが、斬った感覚が無い。そう感じた瞬間、響く音。青年は受け止めていた、魔術師の剣を。青年は体を捻り背後に迫っていた剣を受け止めていたのだ。

だが即席で作った剣は砕け、青年はその氷の欠片を飛ばし魔術師と距離を取る。そして魔術師は休む暇も与えないと言うように剣を弓へと変化させ矢を雨のように射る。今度は避けようともせず青年は走り出す。矢は青年に当たる前に消え失せ、青年を射るはずの矢は魔術師を射ろうと飛んで行く。

魔術師はこれ以上射っても無駄だと弓を槍へと変化させ、矢を弾き飛ばす。そうしている間に青年は魔術師を間合いに捉え斬り上げる。魔術師の手から槍が離れ、風となって消え「お手上げだ。」と魔術師は笑った。

「…勝者は勇者ディスティー!」

観客は生唾を飲み込む。そして一呼吸置き、歓声が上がった。観客は兵士達は人間達は思っただろう。

この人なら憎き魔王を倒し、王の悲願を…人間の悲願を…叶えてくれるだろうと。

──

やはり青年はどうしても風呂だけは慣れなかった。湯船に浸かり額に汗が浮かぶ。何故、これを捻れば湯が出るのか不思議でならない。湯と言うのは水を火にかけて初めて出来る物だと思っていた。

「…不思議だ。」

湯に長い時間浸かっていると鍛錬の時間が無くなってしまう。青年は立ち上がり風呂場を出た。


風が気持ち良い。温まり過ぎた体を冷やすのには丁度良いだろう。青年は剣を眺めていた。本当は新しい剣を試そうと中庭にやってきたのだが、何故かそんな気が湧かなくなった。

剣を鞘に収め、夜空を見上げる。そういえばこの王宮に来てから空を見上げることをしなかった。

ミルターニャ王国の夜空は寂しい。星は一つも顔を出そうとしていなかった。此処の人間達が上を見上げず、目先の物に囚われている証拠だ。

「どうされましたか?こんな夜深くに中庭で……。」

騎士フレッドの声だ。青年は剣を持ち、立ち上がる。

「此処の人間達は目の前の物しか見ていない。」

「勇者殿……?」

「…ただの独り言です、気にしないで下さい。では、おやすみなさい。」

青年は振り向かず部屋へ戻って行った。騎士は青年の背中から夜空へと視線を移した。

闇は目の前の闇だけではない。


<今日はパーティの人間と力試しという試合があった。剣士のガーストは戦力にならないことが断定した。それと今日練った策も使えない、使えるとしたら魔物ぐらいだろう。魔物は知能が低いと言われているからな。

ミルターニャ王国。此処の夜空は可哀想だ。星は本来の輝きを消され、空が寂しい。そんなことを考えているのは俺ぐらいだろう。

試合後に聞いた話だが出発は明日だそうだ。明日だろうが明後日だろうが俺には関係無い。

そう思えば多少は楽になる。大丈夫だ。>

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