赤の煌めき
数日後。青年の元に新しい剣が届いた。幼少期から愛用している剣と同じ形の物。刃は丁寧に研がれている、切れ味は素晴らしいだろう。
あの剣と唯一違うところは赤い石が嵌められているところだ。これは何だと鍛治職人に問えば、この赤い石は魔石と呼ばれる代物で魔石の中でも上位に位置する素晴らしく珍しい物だと言う。
今で愛用していた剣は青年が作った異空間に収納した。青年は魔術師では無い。両親の遺品にあった本から学び、空間魔術を覚えた。その空間魔術は魔術と呼ばれているが性質は魔法に近く万能だ。また空間魔術だけでなく水と火を扱う魔術も使うことが出来る。だがそれ以外の魔術はからっきしだ。
「勇者様、王がお呼びです。」と兵士が青年の元へやってきて、青年は兵士に着いて行った。
「勇者様。剣は如何だったですか?」
窓から射す光が白銀の王の照らし王の髪は白い輝きを放つ。
「…とても素晴らしい剣です、王様。ありがとうございます。」
「ふふ…それがわかれば……本題に入りましょう。貴方様の力になるべく集った者達が居ります。」
そう白銀の王が言えば三人の人間が現れた。
「魔術師ギュシラー。」
フードを剥ぎ、褐色肌の男は一礼する。
「剣士ガースト。」
銀の鎧の男は一礼する。
「魔法治癒師マリー。」
スカートの裾を摘み、サイドテールの女は一礼する。
「確固たる意志を持って魔王討伐パーティに参加すると志願した者達です。魔王討伐パーティに参加すると言うことは実力も相当なものでしょう…──」
その後、魔王討伐のために集った者達のみで食事会が行われた。
「初めまして勇者様!私は魔法治癒師のマリーです。魔王討伐パーティに参加出来たことを、勇者様の力になれることを光栄に思っています。
もし勇者様が傷を負われた時は私にお任せ下さい!これから宜しくお願いします!」
魔法治癒師は口角を上げ微笑み、手を差し出した。青年は違和感を感じ、手は握らなかった。
「初めまして、勇者様。貴方のお力になれることを嬉しく、光栄に思っています。宜しくお願いします。」
剣士は席を立ち、頭を下げた。青年も一応礼をしたが剣士は笑っていた。
「俺はギュシラー、宜しく。」
フードを被ったまま片手を上げた。
「…俺はディスティーだ、宜しく。」
青年の挨拶も終わった。微妙に重い雰囲気が流れる。魔法治癒師は料理を食べ、剣士は魔法治癒師を見ており、魔術師は腕を組み俯いていた。
「勇者様っ、この料理はとても美味しいですよ!」
「はい、あーん!」と料理を差し出されるが青年は眉間に皺を寄せる。
「あれれ…嫌いな食べ物でもありましたか……?」
魔法治癒師は困ったように眉を下げるが青年の皺は深くなるばかりだった。席を立ち、部屋を後にした。
そして青年は中庭に寄り、誰も居ないことを確認してから素振りを始める。いつもより早いテンポで木剣を振るう。空を切る音が一定のリズムで聞こえていたが、数時間後その音は途絶えた。
「…ディスティー、少し良いか。」
汗を拭い振り向けば魔術師が居た。いつから居たのかわからないが柱に寄りかかり青年の方を向いていた。
「魔王討伐パーティの事についてだ。」
「…此処で話しても良いことなのか?」
「他の奴らには余り聞かれたくない。」と魔術師は青年の肩を掴み、二人は消えた。目蓋を開けば青年に充てがわれている部屋だった。
「…何をしてるんだ?」
魔術師は扉に手を当て唱えていた。青年にはよくわからなかったが何かの魔術だろう。
「盗み聞きされると困る話だ。効力の強い人除けの結界を張らせてもらった。…本題に入ろう。パーティの人間についてどう思う?」
「…魔法治癒師は役に立たない。握手を求められた時に嫌な感じ…いや何かの魔術を俺にかけようとしていた。」
「賢明だな、勇者って言うのは剣しか使わないと思っていたが違うようだ。あのマリーという女はお前に呪いの類いの魔術…最近流行りの魅惑をかけようとしていた。お前と違い剣士の方は魔術などからっきしだろう、もう魅惑にかかっているはずだ。
戦力になるのは俺とお前だけだ、それでお前に聞きたい。お前の剣の能力は素振りでわかったが、魔術の能力はわからない。お前はどんな魔術を使うんだ?」
青年は口で説明するのは難しいと判断し実演してみせることにした。手で空を切り裂き、愛用していた剣を取り出し、そして氷でその剣を作って見せた。
「空間魔術…か?珍しい魔術だな。」
魔術師は驚いたように目を見開く。
「…め、珍しいのか?本に書いてあったぐらいだからてっきり主流の魔術だと……。」
「主流なわけないだろう!しかも本に書いてただと?魔導書は殆ど読み尽くしたが見たことがないぞ。今その本持ってるか?」
「お、おう…。」と若干魔術師の気迫に気圧され鞄から本を取り出し渡した。
「お前…これは何処で手に入れた……?」
「…両親の遺品だ。」
「……お前の親は名家の出か?この魔導書は代々継がれてく代物だぞ。」
魔術師は青年に本を返した。
「両親の事は殆ど何も知らない。知ってると言えば星に詳しかったぐらいだ。」
「そうか、俺も同じような感じだ。…話はこれで終わりだ。すまなかった、鍛錬中に。」
「…大丈夫だ。少し話したかったし。」
魔術師は少し笑みを零し、結界を解いて部屋を去った。
──
その日の夜。青年は夕食に顔を出さず、ベランダでまた干し肉を頬張りながら日記を書いていた。
<魔王討伐パーティ。魔術師のギュシラー以外は戦力になりそうにない。足手まとい、もしくは旅の途中で命を落とすだろう。
魔王討伐の旅には何が必要だろうか。食糧は必須だ。主食の干し肉は大丈夫だが、干し肉のみなら食が偏ってしまう。副食の果物も必要か。干し林檎や干し柿で十分だろう。
装備はどうだろうか。剣だけでも大丈夫だろう、だが心配だ。明日は街にナイフを買いに行こう。>