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Ego Noise  作者: 東条ハルク
Prologue
2/44

血染めの勇者選定

ミルターニャ王国。トーツィ大陸の三大王国の一つ。

青年と男は四日かけて漸くミルターニャ王国の中心部に着いた。座りっぱなしで体が硬くなったが、王宮まで歩けば次第にその硬さは無くなった。

「待たれよ、そこ旅人よ。」と門番に足止めされるが手紙を見せれば「申し訳ありません、最後の勇者候補殿。」と頭を下げられ難なく王宮の扉は開いた。

王宮に着いていなかったのは青年だけだったようで他の勇者候補は一日前に全員着いているらしい。


王との面会は勇者候補のみで連れの人間は別室に待たされると言うことなので青年は男と別れた。

門番が王の扉を開き、青年は王の間へと足を踏み入れた。血がズボンに飛び散る。青年は血溜まりに足を入れてしまったらしい。

その血溜まりに目を見開き、前を向けば青年と同い年であろう人間達が倒れていた。足を入れた血溜まりの血はその人間達のものだった。

何故剣を持たされたまま王との面会だったのか。その疑問が漸く解決する。これは罠であり試練だ。

この試練をクリアしなければ勇者にはなれない。きっとそうだろう。

青年は勇者候補同士で戦うと思っていたが違った。魔王が使役する魔物と戦うのだ。その魔物に勝利しなければ魔王を盗伐出来るほどの力は無いと見なされ、そして魔物に食われる。だが、まだ死にたくは無い。

一歩、また一歩と青年は足を進める。死んだ勇者候補の体は八つ裂きにされ臓器が飛び出していた。青年は思考を巡らす。魔物は人型ではなく四足歩行の形をしているはずだ。周囲を見渡すが魔物は居ない。居るとしたら上だ。

青年は素早くその場から後ろへ跳ぶ。案の定、魔王は青年が元居た場所に落ちてきた。

大きな鉤爪にだらしなく垂れ落ちる涎。口は大きく鋭い牙が生え揃い、そして目は一つ。

剣を鞘から抜き構える。それを合図に魔物は青年に飛びかかる。青年は魔物の視野の範囲から逃れ、一気に剣を首に突き立てる。魔物は痛みに暴れ、青年を振り落とそうとするが青年はそのまま剣に体重をかけ斬る。魔物の首に大きな創傷を与えたが、そんな傷では魔物は死なない。

一度魔物と距離を置き、顔に跳ねた血を拭った。魔物は痛みに暴れ狂い青年に突進していく。扉の上に装飾される彫刻を掴み、攻撃を回避する。そのまま魔物は扉に激突した。その一瞬の隙に魔物の眼球へと剣を突き立て、魔物は仰け反った。魔物は悲鳴を上げ、力尽きた。そして鈍い音を立てて倒れる。

魔物が死亡したことを確認し、突き立てた剣を抜く。青年は服で血を拭い鞘に剣を収めた。

魔物を倒したことは良いが扉が開けられない。剣で扉を壊そうと思ったがこの魔物が激突してもビクともしない扉が壊せるはずがない。青年は頭を抱えた。


数時間後。異変を察知した王宮の兵士が扉を開けることを成功させ青年は漸く血生臭い部屋を後にする。だが青年は兵士によって王の間へ強引に連行という形で足を踏み入れた。

「ディスティー様…罠という形で試練を行ったご無礼お許し下さい。罠という形でも貴方様は憎き魔王の犬をお倒しになった。

貴方様は本当の"勇者"となったのです。」

白銀の髪を腰まで垂らした女性が言う。その女性は玉座に座っていた。

「何故…俺が勇者候補に選ばれたのですか。」

「貴方様は勇者候補ではなく世界を救う"勇者"。これは神託。貴方様の宿命。貴方様は抗うことは出来ないのです。」

白銀の王は青年から男に視線を移し話を続ける。

「貴方は勇者様の師匠に当たるそうですね…。貴方には莫大な名誉と地位を与えましょう。そして勇者様の出身地であるプラット村には莫大な(きん)を与えましょう。

バルサー、貴方に命じます。私の騎士と共にプラット村にその金を届けなさい。それから貴方に名誉と地位を与えます。」

「はっ!王よ、私の命にかけてプラット村に届けましょう。」

男は膝をつき、頭を下げた。青年は見逃さなかった。男のニヤついた顔を。

「さあ、お行き。バルサー。」と白銀の王の一声で男は消えた。

「一国の王が魔法使いだと驚きましたか?」

「…いえ、いきなりだったものですから。」

「ふふ…。勇者様、貴方様の願いは?私の出来る範囲なら何でも叶えますわ。」

「…剣を、切れ味の良い剣を頂きたい。…出来ればこの剣と同じ形の物を。」

「わかりました。凄腕の鍛治職人に作らせましょう。」

青年に兵士が近づく。剣を渡せと言うことだろう。青年は兵士に剣を渡した。

「他の願いはありませんか?」

「…いえ、ありません。」

「ふふ…無欲な勇者様……。ラルド、勇者様をお部屋に。」

「了解致しました、王よ。」と隣りに兵士らしき男が立ち「行きましょう、勇者様。」と言った。

青年は兵士らしき男に着いてき、王の間を後にした。

──

その夜、青年は案内された部屋にあるソファに座っていた。見たことがない物に囲まれ、青年は落ち着かずベランダへ出た。

食事も頂いたが食べたことのない美味しい物ばかりだった。だが青年は自分で作った干し肉の方が美味いと感じていた。自分には似合わない食事だと、干し肉を頬張る。

青年が好む干し肉は主に(いのしし)の肉だ。猪の肉は雌の方が美味しいとされている。基本的には雌の肉で作るが年老いた雄の肉もまた臭みがあって良い。干し肉を作るには一ヶ月かかるが賞味期限はそれ以上だ。魔術で凍らしてあるものも含めて約一年分ある。

腹も膨れ満足したところで青年は日記を書き始めた。


<四日かけてやってきたミルターニャ王国の王宮がある中心部は見たことのない物ばかりだった。

王宮に入れば剣を持たされたまま王の間へ。疑問に思ったがそんな疑問はすぐ解決した。無残な姿になった勇者候補。

それにわかったことが一つだけある。銀で作られた鎧は魔物の鉤爪には敵わない。高価な物は絶対良い物ではない。

案内された部屋は家よりも広く無駄な空間が多過ぎだ。食事も豪華で、まあ美味しかったが俺の口には合わなかった。やはり一番美味しいと感じるのは猪の干し肉だ。

猪以外の生物の肉で試しに作ったこともあるが一番美味いのは猪だ。

旅で干し肉を作ったことのない生物を見つけたらその生物の肉で干し肉を作ろう。俺の二番目の娯楽。楽しみだ。>

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