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Ego Noise  作者: 東条ハルク
Revenant Landler
18/44

第十の町カデケーム/01

あれから魔物は現れず詰まらないと青年は思っていたが無事に次の町、第十の町カデケームに到着し宿屋で休んでいた。残念な事に部屋は二つしか取れず部屋の割り当ては女性陣、男性陣と分かれた。魔法治癒師に腕を抱き締められ嫌そうな顔をする王女を横目に見ながらカリスは焦った表情をしていたが王女と目が合うと明後日の方向を向いた。部屋に行ってみれば案の定人数分ベッドは無い。人間は五人、ベッドは三つ。だがカリスが夜間は王女に危害が加わらぬように見張りをする為、皆が寝静まる頃は居ないと言い、人間は四人に減る。

「…少し行かなきゃいけない場所がある。明後日まで帰ってこないつもりだ。ベッドは要らない。勝手に使ってくれ。」

面倒事は嫌いだと適当な嘘を吐き、青年は部屋を後にする。その背中を剣士はじっと見つめていたが、扉が閉まれば視線を窓へとやった。

部屋を出たのは良いが、さて何処へ向かおうか。悩みながら軋む廊下を歩きながら思案すれば、丁度部屋から王女が疲れ切った顔で出てきた。

「……あら、ディスティー…。何処か行くのかしら?」

声に覇気が無い王女。王女をそんな風にしたのは魔法治癒師、流石だ。王女をこんなにする方法を伝授させて貰いたい所だ。

「……ああ、明後日まで帰らないつもりだ。」

先程吐いた嘘と並行して合わせる。こうすれば矛盾は生まれない。

「そう…。なら連絡手段が必要ね……。」

王女の手の平の空間が歪み、形の整えられ綺麗に装飾された結晶がぶら下がる首を飾る装飾品が現れる。空間魔術。カリスと言いこの主従は空間魔術を使えるらしい。空間魔術は主流の魔術なのだろうか、だとしたら魔術師が言った事と矛盾してしまう。やはり魔術はさっぱりだ。

「これは伝言水晶(メッセージクリスタル)。カリス用に造ったけど四六時中、側に居るから無駄になったものよ。ディスティーにあげるわ。」

王女は青年の首に伝言水晶をかける。透明だった水晶(クリスタル)は青年に触れれば途端に漆黒に染め上げる。驚きつつ王女を見れば神妙な顔つきをしている王女と目が合う。

「…、忘れてたわ。普通では詰まらないと思って、対象者の魔力の色…大体の魔力属性を現す魔法をかけたのよ。まあ…深い意味は無いから、気にしないで頂戴。」

ゆっくりとした足取りで男性陣の部屋へと向かう王女を見ながら、この後起こる事を想像しながら青年は宿屋を後にした。

カデケームは特に何もない資源豊かな町だった。だが砂漠地帯と緑が生い茂る熱帯林に挟まれ砂漠からやってくるワーム、熱帯林からやってくる魔物が頻繁に町を襲うといった危険な地帯の町だ。そのためこの町には魔物を討伐する討伐自衛隊と言うものが存在するらしい。

危険な地帯。なら力を試すにはもってこいではないか。そして一応勇者という立場である。剣を腰に携え、剣を取り出す際に一人の少女が此方に熱い視線を送っていた事に気づき青年はフードを深く被った。


町人から盗み聞いた話では町の北部、西部がよく魔物が出没する場所で討伐自衛隊がそこを封鎖しているらしく討伐自衛隊の目を掻い潜って行かなければならない。青年はそう考えながら北部に向かう、だがそんな心配は爆風と共にフードが吹き飛んだ。不意を突かれ一歩、二歩と後退したが吹き飛ばされる事は無かったがまたフードを深く被り、爆風が吹いた方向に向かって走り出した。壁が抉れた住宅から見えた血溜まり。壁の抉れ方から見れば人間の仕業では無い事が容易にわかった。

魔物にもランクと言うものがある。低級魔物(ブルーモンスター)中級魔物(イエローモンスター)上級魔物(レッドモンスター)。核を持つのは低級魔物以外の魔物。

それは国が決めたもので冒険者の為のものらしい。今まで冒険者や魔物のランクというものを知らず、旅をして来たが今まで倒して来た魔物は低級魔物、中級魔物らしい。魔術師や剣士が言っていたから、多分合っているだろう。

それに人間から魔物に変貌を遂げた例はなく、最初の町で合った宿屋の息子のダルを思い出した。

男の甲高く野太い叫び声。討伐自衛隊の人間だろう。此処からでも人間達を襲う魔物の姿が見え、魔物は群れをなして襲っていた。低級かと目を細めれば、中々強そうな上級も居る。そいつが親玉だろう。好機。青年は剣を抜き、走り、飛躍する。低級はあの時の魔物。核は無く、叩き斬れば簡単に死ぬ。まずは雑魚から。

大口を開けながら青年に向かって跳ぶ低級魔物に斬撃をお見舞いしてやれば口から真っ二つに割れ絶命する。

「おま、お、おまえは一体…!?」と尻餅をつく生き残りに「邪魔だ。」と叱咤し、また次の獲物へと斬りかかる。

同じ事を繰り返し雑魚を片付け、残るは上級魔物。数にして十体程。魔力の消耗は無い。核は何処だと探すがそれらしいものは見当たらない。一歩、一歩と魔物へと近づけば、一歩、一歩と魔物は後退する。

青年はどうやら見立て違いだったと魔物の行動を見て、上級魔物ではなく見た目が強そうな低級魔物だと判断を変えた。また青年は見立て違う。そこらにいる魔物は低級魔物だが、一人だけ人間の形をした上級魔物が討伐自衛隊に潜伏していた。


逃げる魔物を追い立てるように魔物の上空に移動(ダイブ)し、剣に魔力を流し込みながら脳天から斬り裂く。脳味噌を辺りにぶちまけながら魔物は仲間の上にのしかかるように倒れる。痙攣して揺れ動く魔物から違う魔物へと飛び移り、剣を振りかぶり大きな創傷を与える。剣の反動で体の軸が揺れるが背後に迫る魔物の目に目掛けて、魔物の目を横一直線に剣を引く。目潰しを食らった魔物はそのまま青年に突進し、真面に受けた青年の体は宙に浮かび上がる。

好都合だ。水と火の魔術から派生した魔術を試しに使ってみようと青年は思い、消耗した魔力を補う為に魔石から魔力を少し吸い上げて魔力を回復させる。殆どの生物の体は水分で出来ていると聞く。ならその水分を沸騰させればどうなるのだろうか、その水分を奪い取ればどうなるのだろうか。

魔物の中で一番小さいのを選び、派生した魔術を煮え滾る湯を想像しながら行使する。魔術をかけた魔物は動きを止めて、その場で痙攣し始める。絶叫を上げながら玉のような脂汗を穴という穴から噴き出させるのを見ながら青年は着地する。その魔物の姿を見た他の魔物達は恐れをなしたのか縺れる足で熱帯林へと帰って行った。

魔物は消えた、残るは痙攣している魔物のみ。かけた魔術を解き、生死を確かめるべく近寄ればまだ息はあった。

「…中々しぶといな。」

今度は干上がった湖を想像し魔術をかける。どうやら魔術をかける時は想像が大事らしい。恐怖の所為か魔物は脱糞し、異臭が更なる異臭へと変わる。干上がりゆく魔物は白目を向きながら絶命する。大体は魔術の扱い方を得た青年は満足し、剣を鞘へと仕舞う。

そして一人の女が近づき、青年に跪いた。

「ど、どうか…お命だけは…っ。」

何故自分に命乞いするのか分からず青年は黙り込む。反対に女は目に涙が溜まって行く。

「…討伐隊はどうなった。」

女の体がビクリと揺れ、異臭に混じりまた妙な臭いが鼻につく。ふと見た女が跪く地面は濡れており、女から伝って濡れているらしい。

「ひっ…と、一人だけ…せ、いぞんしゃがっ。」

一人だけ。もしかしたらあの時の叱咤した生き残りかと思い、生きているならどうでもいいと頭の片隅に追いやった。

「……そうか。…何故俺に命乞いをする?」

また体が揺れる。揺れ方が先程の魔物の痙攣を連想させた。そしてまた溢れ出た液体が白い肢体から伝う。液体の色を見て、青年は動揺した。何故、漏らしているのかと。

「な、なんでもっ…何でもしますから…ッ!お命だけは…っ。」

顔を上げて涙を零す女は青年の足に縋り付く。何を勘違いしているのか分からないが、取り敢えず女が漏らしたもの此方に来ないように願った。

「……命は取らない。取る必要が無い。」

そう言えば女の顔には安堵と喜びの色が浮かぶ。そして思いついたように妙な事を言い始めた。

「あ、…貴方様に、救われたこの命ッ!この体ッ!貴方様に御使われるのが正しい…!どうかこの淫魔(サキュバス)リリル・エレストラ・セヴィリアールを貴方様のお側に居させて下さい!」

淫魔(サキュバス)という言葉に首を傾げるが失禁した人間が側に居るのは少し頷けない。

「……結構だ。」と答えれば女は体を震わせ、強い力で足を抱き締める。柔らかいものがあっているが然程気にせず、何となくこの女の正体が掴めてきた。

「なな…、何故ですか!わ、私に魅力が無いからですか!普通なら…皆さん盛った猿のように襲いかかって盛った犬ように腰を振るのに…。」

何か思いついたようで女は青年から離れ、肩紐をずらし白い陶器を思わせる肌が現れ、豊かな乳房が見え隠れする。もう片方の肩紐もずらし服を脱ぐような仕草をし始める。この女は痴女だ。青年の脳内で警告音が鳴る。だが既に遅し。女は一糸纏わぬ姿で青年の腕を掴み、胸の方へと誘導させる。

「…はっ!貴方様は魅惑(チャーム)を弾き返す程の強靭な精…、精神を持ってらっしゃる…。流石は我が主!感服致しました!今此処で…──」

「止めろ。いい加減にしろ。俺は結構と言ったはずだ。お前のこの耳は飾りか?」

女の乳房に爪を立てる。女を痛ぶる気は無いが我慢の限界だった。女の頬は赤く染め上がり、甘ったるい声を上げる。血が流れているのも構わず、うっとりとした表情で女は青年の腕に頬擦りする。

もう駄目だ。誰かを呼ぼうと思った瞬間、頭の中で王女の不機嫌そうな声が響いた。

<…使うの早過ぎよ。もしかしてたまたま…じゃないでしょうね。怒るわよ。>

<……淫魔という奴に今、捕まってるんだがどう対処すればいい。>

数秒。間が開き、王女の溜息が聞こえる。そして<待ってなさい。>と呆れた声が聞こえたと思えば、背後から「その男から離れなさい、この淫乱。」と酷く声音が冷たい凛とした王女の声。

「…貴方も貴方よ。この私を呼び出すほどの淫魔じゃないわ。大体…淫魔の血が濃いだけで魔物と他の種の混ざり(ハーフ)じゃない。女だから、油断してたのかしら?不能な癖に生意気ね。」

「不能じゃない。興味が湧かないだけだ。」

否定したはいいが信用されていないような視線が刺さる。そして前からも痛い視線が突き刺さる。使った事は無いがちゃんと反応するものには反応する。

「……淫魔の対処法は?」「知らないわよ。」

話を変えるべく振った話題は一刀両断されてしまい、先程の魔物と同じように実験に付き合って貰おうか。試したい魔術もまだある。異空間から魔導書を取り出し、あの項目を開く。

「……何するつもり?貴方の貯蓄されてる魔力じゃ無理よ。」

女は青年の行動を見てこれから起こる事を考え震え始める。だが王女の言葉により希望が見えたが、次の言葉で地獄に叩き落とされる。

「まあ…貴方の表情からして何かを得る為にやる事なんでしょうね…。ふふ…これを使いなさい、きっと上手く行くわ…。」

微笑みながら青年に魔石を数個手渡した。王女の微笑みは女に悪魔を連想させ、恐怖に歯を鳴らしながら脱ぎ捨てた服を抱き締める。王女は青年に何かを囁き、そして消える。

「…セヴィリアール。お前は魔物か?」

嘘を吐いたら殺される。嘘を吐かなくても殺される。生気の無い冷たい深緑の目に恐怖し失禁する己の姿が写る。女は頷く事しか出来なかった。

「…セヴィリアール。お前は自分の体を俺に使われるのが正しいと言った。そうだな?」

女は頷く。女の了解を取った青年は魔導書に目を落とし、魔石を握り締め詠唱を始める。詠唱の言葉を紡ぐ度、魔力が消えていくのを感じる。魔力が空になる前に魔石から魔力を吸い上げ貯蓄する。

詠唱が終わった時には二人は消えていた。

──

二人が落ちたのは豊かな緑に包まれた大地。だが此処は現実世界ではなく青年が作った異空間だ。魔導書に寄れば異空間を作り出す際にその空間は術者の精神が影響するらしい。青年はその景色に目を細め、それと同時に空間は黒く塗り潰され蝋燭に火が灯った。魔術を行使する度に紋様が刻まれた腕が熱い。椅子を一つ作り出し、青年は座る。

「本題に入るが魔王について何か知らないか?」

魔王という単語に女は反応したのか甘美な声を上げて体をくねらした。先程の恐怖が嘘のように頬は紅潮し、涎が垂れる口に指を加えた。

「ま、魔王様は至高にて最高のお方です…。ああ…っ、あの雌豚な私を写さない瞳がお美しい…!はああん…組み敷かれたい…っ!」

目に情欲の炎が灯り、一人で声を上げ始める。聞きたいのはそういう事じゃないと頭が痛くなったが相手は魔物。人間ではない。

「魔王の魔法や魔術について知ってる事はないか?」

「んんっ、…勿論知っています。でも人間風情に教える訳にはいきませんし…魔王様に失望されては…私生きていけない…っ。」

知っているという事はこの淫魔は魔王の近くに居る魔物、もしくは淫魔の前で力を使った。なら戦闘を何処かで行った。そんな噂話は聞かないし、王女によれば魔王は今活動をしていない。

「……お前を見てないなら失望されるも何もないと思うが。逆に話してしまえば魔王にも見てもらえるんじゃないか?」

悪魔のような甘い言葉を囁き、淫魔を誘うが青年の言葉に惑わされないように首を振る。だが淫魔は魔王の事を想像しているのか、うっとりとした目をしていた。

「俺に魔王の能力を話して魔王を振り向かせるか、俺の魔術の実験体になり痛みに悶え苦しみながら情報を吐き出すか…。」

「で、でも…っ、両方……凄く良い…っ。」

どちらに転んでも情報は手に入る。淫魔は対して知能は高くないと見た。優柔不断なのか頭を横に振ってみたり掻いたり悩んでいる。少し痛めつけてすんなりと吐いて貰おうと青年は思い、溶けた鉄を想像しながら淫魔に向けて魔術を使う。淫魔の体は弾かれたのうにしなり、喘ぎ声に似た叫び声を上げながら痙攣をし始める。

「…どうだ、話す気になったか?」

首を縦に振っているが痙攣している為、本当に振っているかどうかははっきりとしなかったが魔術を解除する。

「ま……、まおう…さまは…。」

途切れ途切れに言葉を発しながら淫魔は話し始める。話を纏めれば魔王は主な魔術は空間魔術と酷似した魔術や重力を自在に操る魔術など様々な魔術や魔法を扱う。重力を自在に操る魔術は実際に体験している為、使えるのは確定した。だがあの時の魔王の顔が胸に痞えている。もしかしたら魔王は人によって顔を変えれる事が出来たのかと思っていたが淫魔から聞いた話ではそんな能力は無い。

「他に知っている事があれば全て話せ。」

大人しく淫魔は全てを語るが対した情報は無く、まあ魔王の能力を知れたのは良い収穫だった。だが一つ引っかかる事があった。魔王がとある人間を探しているという事。

「……その人間についてだが特徴は?」

「え、…えと……。確か…貴方様と同じ髪の毛、黒髪で…、たまに笑う顔が可愛い。甘え方が下手くそ…。」

男と思われる魔王。なら黒髪の甘えるのが苦手で笑う顔が可愛い女を探している。大雑把過ぎて探すにも探せない。だが黒髪というのは一人ぐらいしか出会った事がない。珍しい髪色らしい。

「…セヴィリアール、お前の事を聞こう。お前は魔王の何だ?」

「わたしは魔王様の…忠実なる下僕、そして魔王様親衛隊の一人です。」

魔王親衛隊。隊が組まれているなら色々と厄介だ。淫魔をその親衛隊に潜り込ませて色々と探らせる。だがこの淫魔は簡単に口を開く。完全に精神を壊して服従させるか、いや逆に怪しまれるだろう。この時の為に王女はこの魔石を渡したのかと手の平に転がる黒い魔石を見つめた。これを使うには何か媒介品が必要で、何かないかと取り敢えず使用するのを忘れていたダガーナイフを取り出した。

「あ、あの…一体何を…?」と恐る恐る震えながら聞く淫魔を横目で見ながら爪を立てた乳房に目がいく。血は固まっているがまだ傷は再生中だった。どうやら淫魔は治癒力が非常に人間より高いらしい。傷が完全に塞がる前に青年は淫魔の傷を開かせる。当然悲鳴を上げたが然程気にせず黒い魔石に血を浴びせさせる。準備は整った。血を浴びせた黒い魔石にダガーナイフを突き立て、ダガーナイフは魔石の魔力を吸い上げる。嫌な予感が駆け巡り、柄から手を離した。鉄の焼ける異臭に鼻が曲がりそうになったが直ぐに異臭は消え、金属音を響かせながら黒く染まったダガーナイフは床に倒れる。ダガーナイフを拾い上げ、黒く染まった刀身を見つめる。

「セヴィリアール。お前は淫魔と何かの混ざりだろう?」

「は、はい!吸血鬼(ヴァンパイア)と淫魔の混合種です。」

吸血鬼(ヴァンパイア)という聞き慣れない言葉に首を傾げる。きっと魔物だろう。

「……お前の戦闘力はどれぐらいだ?」

「淫魔の血が濃いので…吸血鬼の力は半減していますが精……、(ちから)の強い男の精…、血を飲めば吸血鬼の力は倍増していくので!それと血で使う魔術を扱えますし、強いんじゃないかなあ?」

そう自負するならこのダガーナイフを使用する前に淫魔との戦闘がしてみたいと思った青年は椅子を消し去る。

「今までにどれくらいの男を吸った?」

「数百以上です。だけど締まりの良さは搾り上げる為に生娘と変わりませんよ、どうですかあ…?」

本当に先程までの恐怖は何処へ消え去ったのか。服を着て欲しい。もう見慣れてしまったためどうでもよいのだが目のやり場に非常に困る。

「……なら丁度いい。俺と戦ってくれ。核を壊されなければ部位が消えても再生するだろう?まだ殺しはいない、核は何処だ?」

淫魔はへその辺りを摩り此処だと言った。下半身を攻撃しなければ淫魔は死なない。今回は剣を使わずに肉弾戦といこう。

「…服を着ろ。戦いはそれからだ。」

「……魔王様から頂いた服です。汚れをつけたり…、破けてしまったら……私は…死んでしまうっ。」

「…なら着なくていい、そこの椅子に置いておけ。」

消した椅子を出し、淫魔は丁寧に服を畳み、そして服を置く。美しい裸体を惜しげも無く晒す淫魔。これと戦うのかと思いつつ自分から言い出した事だと躊躇を消し、気持ちを入れ替える。

「……始めようか。」と今まで被っていたフード、羽織っていたマントを外し、剣をその上に置いた。首を鳴らし淫魔の出方を伺う。

「あのう…私が勝った場合……、貴方様の精…血を吸わせて下さい…。その体を見たら…もう……堪らないわ……。はあん…っ、素敵よ…。」

自分の体を抱き締めながら内股で体を震わせる。潤んだ瞳には情欲。血の気の良い唇の隙間から涎が滴り落ちる。

「…勝手にしろ。俺が勝った場合はお前には…色々と実験に付き合って貰おう。」

青年の言葉に淫魔は笑みを浮かべ、双丘を揺らしながら青年へと襲いかかった。淫魔の攻撃は極単純なもので容易く躱せる事が出来たが、青年は躱す事なく突進してくる淫魔に蹴りという一撃を食らわす。青年の蹴りは淫魔の頭に直撃し、淫魔はその場に倒れ込む。詰まらないと思いつつ淫魔が立ち上がるのを待てば一向に立ち上がらない淫魔に痺れを切らし、足で仰向けに転がす。淫魔は泣いていた。

「…俺の血を飲むんだろう?さっさと立て。」

「む、無理です…。痛いの嫌い…っ。」

「…魔王親衛隊がこんなに弱いなら魔王も勇者に討ち取られてしまうな。」

挑発するように笑みを零せば淫魔の目の色が変わる。顔を歪めて青年に襲い掛かるが青年は虫を踏み潰すようにいとも簡単に淫魔の首を踏みつけた。呻き声に似た威嚇する声を上げながら青年の足首を掴み、爪を立てる。だが足首はブーツに包まれ守られている為、淫魔の行動は無意味だった。当然ブーツも防御魔法が効いている為に無傷だ。

「…どうだ、戦う気になったか?」

足首を掴む力が強くなる、戦う気になったらしい。魔術を掛けられた状態で何処まで戦えるのかと思い、またあの魔術をかける。悲鳴を上げながら力の緩みを感じ、素早く後方に跳び去った。脂汗を垂らしながら震える体を押さえつけ淫魔は自分の手首を噛み、血を流す。血は意思を持ったように青年に襲いかかる。針のような鋭さ。避けるのは簡単だが追尾なら分が悪い。襲いかかる血を凍らせ、淫魔との距離を詰める。淫魔の血は脆く、凍らせば直ぐに砕け散る。一歩、一歩近づけば後退する淫魔。此処に逃げ場などない。王女の言っていた事は正しかった、この淫魔は対して強くない。興醒めだ。魔術を解除し淫魔の背後に壁を作り、案の定淫魔は壁にぶつかり青年は見計らって淫魔を壁に縫い付ける。

「…最後の質問だ、リリル・エレストラ・セヴィリアール。…魔王は何処に居る?」

もう魔王の居場所は分かっている。カエルムエィス王国に隣接する土地に住んでいる。こいつが此処で嘘を吐けば今まで吐かせた情報を嘘の可能性が高い。

「……な、ぜ…魔王様に…?」

淫魔は青年が勇者だとは知らない。そう疑問に思うのは当然だ。

「…会いたいからだ。会って話をしたい。」

「…くふ、…ふふ……。可笑しい人間ね…。……魔王様はカエルムエィスに居らっしゃるわ。…私は利用価値がある。そうよね?…く、ふふ…。」

成る程と青年は目を細めて、この淫魔は予想以上だ。驚きを通り越して感心すら覚える。そうだ。この淫魔には利用価値がある。だから殺す訳にはいかない。魔王の正確な居場所を知っているのなら尚更だ。

「…ああ、そうだ。お前には利用価値がある。…俺を魔王の所まで案内しろ。そうすれば殺さない。」

「…だが。」と言葉を切り、あのダガーナイフを淫魔の核へと突き立てる。青年の言葉に安心な表情を浮かべていたが、それは苦悶に変わる。

「お前が裏切り俺を魔王の所まで連れて行かず殺すかもしれない。…言葉を続けろ、リリル・エレストラ・セヴィリアール。」

淫魔の虚ろな目と無理矢理に目を合わせ青年は言葉を続けさせる。

「ディスティー・バシレウスを主人と認め、命令に従う。」「"ディスティー・バシレウスを主人と認め、命令に従う。"」

「ディスティー・バシレウスに危害を加えることなく魔王の居場所まで連れて行く。」「"ディスティー・バシレウスに危害を加えることなく魔王の居場所まで連れて行く。"」

「この契約を破棄せず、この記憶を抹消する。」「"この契約を破棄せず、この記憶を抹消する。"」

淫魔の核からダガーナイフを抜き、淫魔を拘束していた壁を消した。淫魔はその場に崩れ落ち、何事も無かったように起き上がる。

「保険…お前に魔術をかけた。お前が俺を生きて魔王の所まで連れて行かなければお前は消滅する。だが俺には少し事情があり、魔王討伐パーティ…勇者が居るパーティに保護されている身だ。勝手な行動は出来ない。」

勇者という言葉に淫魔は目を見開いた。そして青年を見上げ、にっこりと笑みを浮かべた。

「私に…何をして欲しいの?はっきり言わないと分かりません。 」

分かっている癖に何をこの淫魔はこうも問い掛けるのだろうか。

「……パーティが此処に滞在するのは三日。此処を出発した後パーティを襲え、そして俺を連れ去るんだ。だがあの王女…先程現れた女には危害は加えるな、主従の男に返り討ちにされる可能性が高い。お前が死ねば元も子も無いからな。…まあ、此処で勇者を討ち取れば魔王に褒めて貰えるかもな。」

淫魔が見上げる人間が勇者だが。と内心呟き、青年は思わず笑ってしまいそうになったが全く表情には出さずに淫魔の方を見れば、幸せ喜びに満ちた締まりのない顔で破顔しつつ青年の手を取った。

「くふっ、ふふふ…ふふ……。最高ね…、魔族の憎き勇者を…人間達の希望の星を殺して構わないの…?ふふ…魔王様に褒められる…っ。」

青年は淫魔の手を握り返し、立ち上がらせる。敵対する魔物と勇者が手を取った。だが淫魔は知らない、青年が勇者だという事を。

「だが一番の目的は俺を連れ去り、俺を魔王の所まで連れて行く事だ。それを忘れるな。」

「ふふ、ふふ…ふ、分かっています。…ところで貴方様のお名前は?」

「…カッカブ。言いにくいからカーカブと呼んでくれ。そして服を着ろ、此処から出る。色々と準備しないといけない。」

淫魔の服を投げ渡し、青年は椅子を消した。

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