第五話 アタリカイジン
「うわぁぁぁぁぁ!!」
ガン!!
と、ヒーローマサシンと少女を真っ二つにした改人 サキヨシの顔面に膝蹴りを食らわせて、僕は、駅の中へと逃げ込んだ。
状況整理だ。
頭が回る。
僕はこんな時になると、いつもこうなる。
視界がやけに狭く、しかし広くなるこの感じ。
僕がまだ人間だった時、帰宅途中、チンピラに絡まれて走って逃げた時を思い出す。
その感じに、今は似ている。
とっさだった。
サキヨシの顔面に膝蹴りを入れたのは。
はさみの刃が閉じていて、それを開き、僕を攻撃するためにまた閉じる。
そんな攻撃動作が必要だったあの一瞬。
今思えば、サキヨシに攻撃を入れるチャンスはあの時だけだったろう。
それほど、サキヨシと僕には力の差がある。
それは分かる。
直観だ。
まともに戦えば
いや、相当のハンデが仮にあったとしても、僕はサキヨシには敵わない。
パンツを食べることが目的の改人と、切り裂くことが目的の改人だ。
桁が違う。
戦闘に関して。
さらに、それに
拍車をかけるのが、その目的に対するモチベーションだ。
僕はその目的を嫌い。
サキヨシはその目的を求めている。
アタリとハズレ
アタリにハズレが敵うわけもない。
しかし、そんな僕でもできることはあるはずだ。
僕は駅の構内に入り、すぐ近くの自動販売機の中に手を突っ込んだ。
駅の中にはまだ逃げ遅れた人がいた。
く、と選択の後悔が顔を出す。
いや、これが最善だ。
外に逃げたら、すぐ近くには女子校がある。
もう下校時間が過ぎたとはいえ、まだ校内にはたくさんの生徒がいる。
サキヨシがそこに向かえば、ここ以上の被害が出る。
しかも、駅付近は一番ヒーローが駆け付けやすい場所だ。
連絡体制。
交通の便。
すべてにおいて、ここでサキヨシの足どめをすることが、ベストなのだ。
僕の改人としての能力を使って。
「待てこのくそガキがぁーーーーーーー!!」
サキヨシが怒りに体を震わせながらこちらに向かってくる。
すごい剣幕だ。
ますます、チンピラからの逃走劇を彷彿とさせる。
「邪魔だどけぇーーー!!」
通路の隅に逃げていた女学生に向かってはさみを向けるサキヨシ。
完全な八つ当たりだ。
ゴン!
と僕は先ほど自動販売機から拝借した五〇〇MLのコーラの缶をサキヨシの頭にぶつける。
「お前の相手は僕だろ?」
「ご..ぐ...貴様ぁーーーーー!!」
これで完全に、サキヨシの怒りを僕に向けることができた。
僕はつかず離れずの距離を保ちつつ、走って逃げる。
なるべく人のいないところ。
なるべく通路の狭いところ。
怒りで頭が沸騰している間に、サキヨシに敗北感を与えなくてはいけない。
他のヒーローが来るまで、確実にここで足止めをするために。
駅の構内を走りまわり、僕はやっと条件に合う場所を見つけた。
通路の狭い場所。
トイレだ。
僕はトイレの中に入った。
入ってすぐに後悔する。
くっ
ミスだ。
選択を確実に誤った。
入ったトイレは女子用で、その中に二人学生がいた。
パンツを食べる改人の特性上、少女の居場所は感覚で分かるのだが
逃走劇に頭がいっぱいで、ここまで気が回らなかった。
二人の少女たちは、
一人はトイレの通路の隅で泣いていて、もう一人は奥の個室で息を潜めているようだ。
「くっくっく。行き止まりだな。ええ?おい?」
サキヨシに追いつかれた。
最悪だ。
これでは、逃げていた少女の所へサキヨシを連れてきたようなものだ。
仕方ない。
僕は、振り返りサキヨシと対面する。
化粧室とトイレの間。
ちょうどサキヨシの視線からトイレの通路にいる少女を確認できない位置に僕はいる。
広めに作られている構造でまだ良かった。
化粧室だけでも、6畳はある。
サキヨシと僕との距離はだいたい2メートルといった所か?
「そうだな、ちょうどいい。僕も逃げるフリをするのに飽きた所なんだ。」
「あっ!?」
「来いよ。格の違いを教えてやるから。」
「てめぇ....!!」
サキヨシは大はさみの刃を大きく広げ、僕に向かって突進してきた。
逃げ道をはさみの刃で封じるように。
予想通りだ。
怒りに身を任せた
直進で
読みやすい攻撃
僕は両手を広げ
はさみを掴み
はさみの刃を粉々に破壊した。
「なっ!!?」
「僕の体に触れたものは全て粉々に破壊される。」
「それが僕の能力だ。」
僕はバレないように
必死だった。




