聖夜祭と少女の心
クリスマスにふと思いついたので載せてみました。時系列は気にしていませんので、パラレルワールドでの出来事だと思って読んでいただけると助かります。
十年前。都市シレンティアに初めて訪れた冥種の大侵攻。
当時まだ監視者と呼ばれていた女性が、新設した浄魔士を用いてそれを退けた。市民たちはその功績を称え、その日を記念日とした。
市民たちは今を生きられることに感謝をし、その夜、祭りを開く。そこで行われた都市をあげての祭を、聖夜祭と皆は呼んだ。
そしてその際、市民たちの間にある風習が生まれた。
きっかけは大侵攻があった時のことだ。命の危険を感じた男女が、その意中の人に一斉に想いを告げたのだ。
そういう経緯もあって、この聖夜祭の日、男は妻にプレゼントを用意したり、女は夫にいつも以上に腕を振るう。
そして、少年少女は胸を期待と不安を胸に抱いている……。
◇◇◇
日課である訓練時間。
「レヴァン、今日の夜は予定ないよね?」
スカーレットの髪の少女にそう尋ねられた少年が、少しムッとしたかと思うと、自らの淡い水色の髪を掻き上げつつ言った。
「なんだよ。俺にだって用事の一つや二つ……」
「「え……?」」
「どうせ嘘ですよ、ごめんなさいねぇ!?」
尋ねてきた少女とその隣にいた長い黒髪を持つ寡黙な少女に尋ねられ、少年は逆ギレした。茶髪のポニーテールの少女が苦笑した。
「はは……でもなんでフロルちゃんとアミナんはレヴァっちの予定を聞きたがるの?」
「っ!?」
「ああ、そういえば、リンさんはあまりこの都市のイベントに詳しくないんでした」
固まってしまったフロルたちの代わりに、カナンがリンに聖夜祭について説明する。そこでなるほどと頷くと、リンはにやっと笑った。
「レヴァっち」
「ん?」
「今日の夜は一緒にお祭り見てまわろ―ぜ―」
「? 別にいいけど……」
「えぇっ!?」
フロルとアミナが驚き、レヴァンはそれに驚く。リンはくくっと笑いをこらえ、カナンは苦笑していた。
「カナン。俺たちは」
「わかってます、お兄さん。依頼でしたね」
すでに浄魔士である二人は祭りに参加しないようだ。レヴァンが残念がると同時に、フロルとアミナはリンを引っ張って何やらコソコソと会話を始めていた。
「という訳で、四人で一緒に見てまわることになりました!」
「何が、『という訳で』なんだ?」
「いいからいいから」
リンに後押しされて、レヴァンははっきりしないまま、訓練を再開したのだった。
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学校終了、放課後。女子寮の一室にて。
「はぁ……」
私は、意図したわけではなく、かなり深いため息をついていた。その理由は今日の訓練でのことだ。
聖夜祭にチームのみんなで行くこと。
喜ばしいことのはずなのだが、どうしてもつまんないと思ってしまう。
「去年までは二人きりだったんだけどな……」
生まれの境遇のせいか、孤児院からずっと同じ幼馴染。小さい頃から二人で一緒に成長して、兄妹のように育った。
しかし、いつの頃かそれ以上の感情を抱いていたアイツ。
「なんか、今年は」
アイツの周りに女の子が集まってきた気がする。それもとびっきりの。
私はそこまで考えてから、頭を振って中を空っぽにしようとした。そして、ふと自分の質素な勉強机の上を見る。
そこに置かれているものを、私は慎重に扱って紙袋の中に入れた。
昨日、商店街のアクセサリーショップで買ったレヴァン用のシルバーブレスレットだ。
これは魔具の一種で、無駄に空気中に放出した魔力を再び集めてくるというもので、別に聖夜祭にあげるからと言って、他意は……。
……ありました。すいません。
幾何学模様の入ったこのブレスレットは、多分アイツが好きだろうと思って買ったものだった。
ついでに私はその隣にあった、星が三つ掘ってあるシルバーブレスレットに一目惚れしてしまったのだが、お金が足りなかったために我慢した。……うう、現実は厳しい。
とりあえず! 私はそんな雑念を振り払って、待ち合わせ場所に向かうために寮の部屋を後にしたのだった。
商店街の入口に集合。自分の端末に来ていたその連絡を見て、私は歩いていた。
たとえ二人きりではなくても、緊張はするものだということに私は気づいた。
「少し」だけおしゃれをして、「少し」だけ化粧もして。
いまさら緊張なんてしている自分に少し苛立ったが、そんな状況に嬉しくなっている自分もいた。
商店街まであと十五分ってところかな。
商店街へと続く道を、真っ直ぐに歩いて行く。今は夕方、人通りが多くなり始めた。待ち合わせをしているのか、まだほとんどが一人のようだった。
そして感じる視線。通り過ぎていく男の人たちが結構な数、自分のほうを振り向くのを感じていた。
化粧のお陰で、今の自分には自信がある。美少女揃いのファミグリアでは自信をなくしてしまうものの、自分を磨く努力は忘れていない。この努力が実って欲しいとも思っている。
ああ、こっちを振り向いてくる男の人じゃなくて、アイツに……。
「はぁ……」
それはないか。アイツは朴念仁だから。
なんだか悲しくなってきながら、私が前を向いた時だった。
「あ、あの、アイヤネンさん!」
目の前に同じぐらいの年の男の子が立っていた。
若草色の髪にまだあどけなさが残る童顔。それを見て、私はその人を思い出した。
「マクレンくん? どうかしたの?」
そのマクレンくんは瞬間的に顔を赤くすると、
「ついて来てください!」
「え、きゃ!」
いきなり私の腕を引っ張って、建物の陰に入った。
完全に道から外れたわけではないが、人目が気にならない場所。そんな場所に来た私は、次の瞬間耳を疑った。
「ぼ、僕と一緒に聖夜祭を回ってくれませんか……!」
「え……?」
聖夜祭を一緒に回る、という言葉はそのままの意味だけでは決して口にしない。普通、好意がある人に対して言う言葉であって……。
私は初めて直接的に人の好意を感じた。
戸惑い、喜び、疑問……いろいろな感情が同時に生まれる。……けれど、私の答えは十年ぐらい前から決まっている。
「ごめんなさい。私、あなたとは行けない」
そう、キッパリと言う。グダグダするのは相手を傷つけると、思うから。
けれど、傷つかないわけはないのだ。その証拠に、目の前の少年は今にも泣きそうな、でも懸命にそれをこらえる表情をしていた。
そんなつらそうな表情をしばらく湛えた後、マクレンくんは一生懸命な笑顔でこう言った。
「そ、そうですよね……わかりました。ちゃんと答えてくれて、ありがとうございます……」
私は黙る。けれどその視線は目の前の彼にきちんと向けた。
――大丈夫。あなたはとてもいい人だから。
そんな思いが伝わればいいと思いながら。
「そ、それでは……」
耐えきれなくなったのか、彼は走って去っていった。人気のない建物のそばで、私は一人、残される。
――彼、つらそうだったな……。
自分もアイツに想いを伝えたら、あんなふうになってしまうかもしれない。それはとても怖い。足も震える。
けれど自分の想いを伝えるのは、とてもすごいことだ。
私は再び大通りへと出た。そこには、会うまでに少し時間が欲しかった相手がいた。
「フロル」
そう自分の名前を呼ぶのは、ボサボサ気味の水色の髪を持つ少年、私の幼馴染のレヴァンだ。その幼馴染は、少しムッとした表情をしていた。
「どしたの? なんか不機嫌そうだけど」
「あいつと祭を回るのか?」
え、と思いながらレヴァンを見ると、なぜか不機嫌な顔のまま目をそらしていた。
「え、なんて?」
そんなことを口走ってしまうも、返事はない。私は自分の空耳ではないことを祈りながら、にっこりと笑った。
「早く行こっ」
ああ、自分はちゃんと笑えているだろうか。
そのことが不安で気が気でないものの、鏡なんか今は取り出せない。とりあえずレヴァンの腕を引っ張って行こうとした。
けど、動かない。
「フロル」
「うん? なに――」
振り返った時、そこには小さな紙袋があった。
「え、これ」
「いいから」
そういって手渡してくる。聖夜祭で贈り物をするのは普通のことだ。けれど、今さっきのレヴァンの態度を見て、私の胸はいつも以上の早鐘を打っていた。
レヴァンの視線に促され、紙袋の中身を手のひらの上に広げる。軽い装飾の中にあったそれは、星が三つ散らされたシルバーブレスレットだった。
――これ、私が一目惚れしたやつだ……。
私は目から熱いのが零れそうになるのを我慢しながら、
「……ありがと。とってもうれしい」
そう言って自然と出てきた笑みを見せた。それのせいかどうかはわからないがアイツの顔も赤くなったのでよしとする。
そこで、自分のポーチの中身を私は思い出した。思わずふふっと笑ってしまう。
確かに今年は仲間が増えて、二人きりじゃいられなくなってしまった。さらに、強敵な女の子が沢山レヴァンの周りに現れた。
でも、それは嬉しいことなんだ。危機感なんて持っちゃダメ。
……それに、
「じゃあ、私からも」
そう言って私はポーチを探って、レヴァンのくれたものと同じ紙袋をつかむ。
――私だって、レヴァンのことは何でもわかってるんだから。
私は目の前のレヴァンがどんな反応を示すかワクワクしながら、手につかんだものを差し出した。
いかがでしたでしょうか?
ぜひ改善点などがあれば、言ってください。これからも頑張ります。




