彼女の誇り、貴族の誇り(改)
「分かったから。君の言う事を信じるよ」
彼女を信じる事に決めたのだが、お互い自己紹介をしていない事に思い至った。
「えっと、僕は月ヶ瀬友。君は?」
「メルキオール・ジュリエス・シルバルト・グラムヴェインと申します」
予想はしていたが日本人じゃないことが確定した。
少しだけ気が重くなったが、一度信じると決めたんだ。そう自分を奮い立たせる。
「メルキオールさん、と呼んでいいのかな?」
「構いませんよ。親しい者はメリルとも呼びます」
「分かった。それじゃメリルさんと呼んでも大丈夫?」
「はい。貴方の事はツキガセでいいのかしら?」
「違う違う、月ヶ瀬は家名。友でいいよ」
「分かりました。ではユウと」
さて、これで相手を呼ぶのに不自由はしなくなった。
一番気が重い事から聞いていこうかな。後回しにしても嫌な事には変わらないし。だったら、先に聞いてしまえば、他の話で気が紛れるかもしれないし。
「それじゃ、メリルさん。質問なんだけど」
「なんでも聞いてください」
「メリルさんって、もしかして貴族か王族?」
「はい。グラムヴェイン王国の第一王女です。王位継承権は三位です」
一気に気が重くなった。気後れしたと言ってもいい。
「お姫様なんだ……。それなら敬語使わないとマズイよな」
「気にしなくていいですよ。こちらは頼み込んでいる身ですので」
「そう言って貰えると助かる。敬語は苦手なもんで」
正しく僕が現代に生きている証であった。社会人になればそうも言っていられないのだろうけど。
あまり向こうの世界の事を聞いても一度じゃ覚えられないと判断し、重要な事だけを聞くことにした。
「さっき説明してもらったばかりで悪いんだけど、一度じゃ覚え切れなくて。とりあえず、世界を救うって、一体何をすればいいの?」
「私は大賢者様から言われた事しか分かりません。詳しい話は大賢者様から伺っていただくしか……」
「それじゃ、分かる範囲でいいから教えて欲しい」
「それでしたら。今私どもの世界では魔物の異常増加、そして凶暴化が問題になっております」
それはお約束すぎるだろ。と無粋な突っ込みはせず黙って聞く。
「大人しく友好的な魔物が人々を襲い出し、元々凶暴な魔物はその数を増やしております」
「国王達は何か対策を?」
「当然です。民あっての国。民を守る事は、王と、それに連なる者達の義務です!」
理由も無く、人々が心の底から笑い合ってるいい国だと幻想した。僕が住んでいるこの国も、メリルさんのような人が舵を切っていたら……。
やめよう。あまりに意味が無い。
だから、抱いた思いを素直に口にする。
「いい国なんだね」
「ええ、私達の誇りです」
そう言って微笑むメリルさんはとても綺麗で、僕は呼びかけられるまで見蕩れてしまっていた。