出会い
何故こんな事になったのだろうか。
お世辞にでも巡りの良い頭とは言えないが、それでも必死に考える。
考えていなければ、何かをしていなければ、この状況に押し潰されてしまいそうだった。
そうだな、まずは現状の確認を優先するべきだろう。
ここは僕の部屋だ。長年、といっても二十年にも満たない時間だが、生まれてからずっと世話になっているんだ。見間違えるなんて有り得無い。
この混乱の理由は他にある。
部屋にいるのは僕だけではない。そしてその人物こそが全ての元凶だった。
「助けてください」
その人物の声だと理解するのに数秒ほど必要だった。
「私を、助けてください。お願いです」
僕の沈黙を否定と受け取ったのか、もう一度、さらに丁寧に言われてしまった。
「ちょ、ちょっと。いきなり言われても、その、困るん、だけど……」
今の僕に必要なのは現状を整理し、受け入れる時間だ。
僕が返答すると、何かに気付いたような表情になり、すぐにもとの真面目な、酷く切実な顔に戻る。
「そうですよね。いきなり言われても訳が分かりませんよね」
そうして説明が始まった。
小一時間に及ぶ説明を聞き終わった感想は、自分の頭がおかしくなったのか、目の前の人物の頭がおかしいのかの二択だった。
あまりに荒唐無稽でとても信じられない。
確かに、目の前の少女の容姿は現実離れしていて、幾ばくかの説得力はある。
実際に見たことは無いが、銀糸と言う単語を連想させる白銀の髪は、腰まで届くかと思わせるほどに長く、絹のような光沢を放っている。
顔の作りも、街を歩けば大半の男が振り返る程に整っている。
白状するなら、一度も異性が侵入したこと無いこの部屋に、目の前に美少女がいることに落ち着かない。
嬉しい、誇らしい気持ちも多分にある。けれど、それ以上に恥じらいと戸惑いを隠せないでいた。
向こうは自身の容姿に自覚がないのか、僕の動揺を勘違いしている感じだ。
僕の尊厳の為にも誤解はこのままにしておきたい。
向こうが気付いていない振りをしているなら、それはそれで切り出すのも意味が無いのでやはりこのまま放置するのがベストだと判断。
なら次に考える事は、真偽の見極め、か?
他人の嘘を見抜くなんて事はできないけれど、少なくても真摯な態度だと感じた。
仮に僕を騙す事が目的だとして、見抜かれない演技力を持っているのならさっきと同じ理由で無意味。
なら僕を騙すメリットは……。
と、これは考えを巡らせるまでも無い事だ。
僕を騙す事のメリットなど、相手が愉快犯でも無い限り有り得無いだろう。
それに、愉快犯だとしても僕よりもっと相応しい人間を騙すだろう。
そうすると、先程の説明が俄かに現実味を帯びてきた。
しかし、外国ならまだしも『異世界』? ましてや『世界を救う』?
虚構の世界ではありふれた話だろうけど、それが目の前の現実だと言われてすぐに、はいそうですかなんて言えたら、そっちの方がどうかしてる。
しかし、考えるほどに反論材料が減っていき、とりあえず信じる事にした。
実害出るのならその時に考えればいいや、と。
後の理由は思春期男子の悲しいサガだった。つまりは可愛い女の子のお願いを断りきれなかったのだった。
いろいろ手探り状態です。
完結はしますが、どれほどの長さになるかは決まっておりません。