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ライトオブクラウン

解けない死の術式

作者: SUN3
掲載日:2026/05/03



エヴァルト・シュトラールは孤独の中にいた。


まだ十代だった。


それでも、自らを魔術の研鑽に追い込んでいた。


机の上には魔導書が積み上がっている。ページは擦り切れ、端は何度もめくられて歪んでいた。紙には幾重にも書き直された魔法陣の跡が残り、消しきれないインクが薄く滲んでいる。


円を描く。


線を引く。


角度を測る。


わずかなズレも許されない。


魔法陣は魔力を増幅する装置だ。


心臓を流れる魔力を、数倍に膨らませる。


それが魔法の真髄だった。


エヴァルトは、それを極めようとしていた。


より正確に。


より効率的に。


より美しく。


感情は必要なかった。



婚約者との時間すら、無駄に思えた。


「この家から出たいの」


必死な声だった。


だが、エヴァルトは視線を上げなかった。


魔法陣から目を離さない。


「結婚したら、君をこの家から連れ出すよ」


適当に答える。


言葉に意味はなかった。


婚約者は静かに笑う。



やがて魔法学院に入る。


石造りの廊下。高い天井。静かな空気。


その中で、一人の少女に出会った。


「――本当の愛って、分かりますか?」


唐突だった。


エヴァルトは顔を上げる。


「教科書にも、載っていません」


少女はまっすぐに見ていた。


「ははは」


思わず笑う。


「確かに。愛は載っていない」


少しだけ考える。


「面白いね、君」


魔法陣以外で、興味を惹かれたのは初めてだった。



それから何度か話すようになった。


短い会話。


それだけで十分だった。


少女は言った。


「私はあなたのことを愛しています」


迷いのない声だった。


「あなたの実験に使ってください」


エヴァルトは言葉を失った。


理解できなかった。


だが、理解しようとした。


その覚悟を。


その歪みを。


その感情を。


気付けば、目で追っていた。


声を探していた。


それが恋だと、後から知った。



だが現実は変わらない。


婚約者がいる。


侯爵家の末娘。


最も可愛がられている娘。


それを蔑ろにすることは許されない。


逃げ場はなかった。



二人は、静かに決めた。


「この世で結ばれないなら来世で」


少女が言う。


エヴァルトは首を振った。


「いや」


少しだけ考える。


「来世じゃない」


視線が重なる。


「このまま、残る」



夜。


魔法陣が床に描かれている。


幾重にも重なった円。


複雑に絡む線。


魔力がわずかに揺らいでいる。


空気が冷える。


水分が集まる。


二人を中心に、空間が歪む。



少女が笑う。


「綺麗」


エヴァルトは何も言わない。


ただ、手を取る。


指先が触れる。


冷たい。



水が集まる。


渦を巻く。


柱になる。


透明な壁のように、二人を包む。


息が白くなる。



その瞬間。


すべてが、凍りつく。



音が消える。


動きが止まる。


時間が閉じる。



巨大な氷の中に、二人は閉じ込められていた。


逃げることも、崩れることもない。


完全な状態で。



この魔法陣は解けない。


エヴァルトが心血を注いで作り上げたものだからだ。


計算され尽くした構造。


誤差のない線。


崩壊の余地はない。



氷の中で、二人は見つめ合っていた。


手を取り合ったまま。


穏やかに。


静かに。


満たされた表情で。



まるで、それが完成された答えであるかのように。


解けない死の術式

この短編は、乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜の中に出てくるゲームの内容です。

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