第7話 作戦終了?
手になじむ形の持ち手と、持ち手でない方は筒状になっているL字型の小型兵器。
その筒の先をローゼスに向けると、リーダーは自慢げに話す。
「こいつはな……お前の鎧くらい、簡単に貫通する。たとえ対衝撃加工がついていようがな」
兵士たちを顎で使うように、リーダーは続けて命令する。
「さて全員、魔法封印を発動しろ。当てれば殺せるとはいえ、避けられてはかなわんからな」
(ぐっ……ライルさんを呼ぶしかないのか?)
しかし、戦術隊も困惑していた。
「リーダー、魔法封印……発動しません!」
「どういうことだ? 既に発動しているわけでもないのか?」
「はい。周囲の魔素に変化がなく……」
「他の魔法も発動しない……?」
「まさかローゼス……お前か?」
ローゼスは冷静な顔を崩さぬまま、考えていた。
(いや……これはライルさんがやったのか?)
一方上空では──
レイルはライルに抱きかかえられたまま、不安そうに見下ろす。
「ライル、これ本当に大丈夫なの?」
「安心しろ。奴らの全身に魔素を固めて貼り付けてある」
「どういうこと?」
「ヒトが魔法を使う時の仕組みも知らんのか?」
「いや、それは知ってるけど……」
魔法は、体の中にある魔素の性質を調整し、その一部を外に放出、空間中の魔素へと伝播させることで発現する。
例えば──風を出す魔法なら、魔素には「物体に一定方向の力をかける」ように調整する。
すると、手から出した魔素は周囲の魔素にその性質を伝播させ、魔素は物体に力を加える。
この対象が空気である時に、『空気が加速、移動』することで、『風が起こる』のである。
「ヒトの体表面に、性質が変化しない魔素を貼り付けたらどうなるか?ということだ」
言われてみると、戦術隊の体がごく僅かに光っているような……
「外に魔素の性質が伝播しなくて、魔法が発動しない──ってこと!? そんなの聞いたことないんだけど……」
「そうだ。下の奴らがやるような封印より、こっちの方が早いからな」
「何が違うんです? ──っていうかなんで分かるんですか」
「奴らのは──魔素をその場から外へと追い出して、魔法を使えない空間を形成するらしいな。今読み取った」
「……あの、人間にできないことを次々とやらないでほしいんだけど……怪しまれるから……」
「問題ない。説明しない限りヒトには分からん」
そう悠々とするライルに、私はきちんと言葉にして伝える。
「いや、分からないのにおかしなことが起きてる、ってなると余計に怪しまれるんですって!」
「あー、なるほどな」
そんなやり取りをしていると、戦術隊の一人がローゼスさんに近づいていくのが見えた。
私はよく見ようとして、目元に力を入れる。
「杖……じゃない! 何あれ!」
「新手の武器か? もう少し近くで見るか」
愉快そうに話すライル。
「いや待って……ローゼスさんが膝をついてる!」
──地上では、ローゼスが少しでも時間を稼ごうとしていた。
「大人しく死ぬ代わり、この最後の言葉──どうか私の友人に伝えていただきたい……」
リーダーは鼻で笑って返す。
「ローゼス、自分からそう言い出すとはな。情けないと思わんのか?」
ローゼスは腰の剣を投げ捨て、自ら膝を地面につけて懇願する。
「まあ、こいつは一発撃つだけでも結構な金がかかるらしいからな。確実に済む分にはいい」
そうして、リーダーはローゼスの頭にピストルを突き付ける。
(頼む、ライルさん……気づいてくれ!)
リーダーがピストルの引き金を引こうとしたその瞬間。
「なっ……! ぐぁ……」
戦術隊全員の体が地面に押さえつけられる。
助けようと近づいた兵士たちも、全員地面に倒れ込んでしまった。
「何をした! この力……いくらお前でも……おい! 誰か動ける奴はいないのか!」
「リーダー……! 全員、動けません……!!」
「なっ……貴様ァ!」
(ライルさん……!)
期待通り、上空を見ると、すぐ目の前に二人がいた。
だがまだ心配な私は、ライルに呼びかける。
「ちょっとライル、もう降りていいの!?」
ライルはつまらなさそうに言葉を返す。
「もういいだろう……これで全員拘束したし。戦いも終わりだ」
ローゼスさんは剣を拾うと、ライルに笑顔を向けた。
「ライルさん助かりました! 敵が完全に油断したタイミングを狙ってたんですね?」
「そういう言葉はいらん」
ライルは彼のことよりも、ピストルという武器に目を向けているようだった。
「それより、こいつが使われるところを見たかったのだが──」
私は思わず突っ込む。
「使われてたらローゼスさんが死んじゃうでしょ!」
これに彼は軽く笑うが、ライルはそうでもない態度だった……冗談ではないらしい。
「それでこいつらはどうする? あとこれはもらっていいのか?」
ライルがリーダーの手からピストルを奪い取る。
「がっ……貴様……貴様の仕業かこれはッ!! ──ァッ! やめろ! やめろ!」
ライルはピストルをリーダーに押し当てるのを見て、私とローゼスは慌てて制止した。
「ちょっと本当にダメ! 冗談にならないから!」
「ライルさん、穏便に……」
ライルはまたつまらなさそうにして、ピストルを投げ捨てた。
「……で、こいつらはこのまま放置でいいのか?」
「そうする他ないですね。手足を紐で縛って、魔法を解除しておけば、きっとフォルシアが助けに来るでしょう」
その言葉通り、私たちは全員の四肢を拘束して回った。
紐にはフォルシア軍の馬車についていた手綱などを利用し、馬も2頭を残して逃がした。私たちを追ってこられないようにね。
すると、魔法が解除されたリーダーがもぞもぞと動いた。
「ぐっ……これで……!」
ライルが半笑いで見ていると、リーダーの腹の下から破裂音がして、煙がモクモクと湧き上がる。
ローゼスは把握済みという顔で、それについて話す。
「信号弾ですか。これで救援が来ることも確定したみたいですし、私たちも行きましょう」
しかしこれを聞いたライルは、ひとり警戒する顔を浮かべ、どこか遠くを睨みつけた。
「……おい、まだ終わってないらしい」
彼女はそう言い切る前に、素早く私を抱えて透明になる。
「えちょっ!?」
次の瞬間────
ダァァァァァン!!!!!!
凄まじい衝撃音が目の前で地面を揺らす。
その音の元からは土煙が立ち上がり、周囲の瓦礫がいくつかボロボロと崩れた。
「……あれ? 位置ズレたかなあ」
土煙の中から、若い男の声がする。
煙が落ち着いてくると、そこには押しつぶされたリーダーの死体──
そして、白く長い髪を揺らす大男が立っていた。