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第2話 計画

「その計画は……表向きには『国家間連携計画』と呼ばれているのですが……しかし実態は、他国を乗っ取る計画なのです」


 ローゼスの言葉に、私は疑問を呈した。


「え、乗っ取る? どういうこと?」



「はい。表向きには、『更なる発展のため、他国との産業・技術・人材──これらを結び付け、より強い協力関係を結ぶ』……と、喧伝していますが……」


 私は息を飲んで話に集中する。


「その仕組みはこうです。──まず技術供与を起点に、効率化と称して産業に介入。そして他国の生産体制を管理、統括し──完全に掌握した後、脅しをかける……」


 彼は鋭い目つきで続ける。


「『フォルシアが離れれば産業が崩壊するぞ』、と。そして産業を握れば、経済を操ることも容易くなる。最終的には、他国の政治までも意のまま──というものなのです……!」


 これに私は、信じられないというような目で彼を見た。


 (そんなまさか──あの優しそうな軍司令官が、そんなことを考えているなんて──)


 私が目にした司令官は、そんなものとは無縁に感じられる人だった。


 『自称難民』である私たちを、豪華な晩餐で迎えてくれた。

 崩壊したアミリアの情報を直接知りたいと言われ話をしたのだが、その様子はまさに聖人君子であったのだ。



(でも……確かに最近、街灯の新調とか、公共事業がやたら多かったような……まさか、フォルシアは既に──)


 ローゼスは覚悟を決めたように、一呼吸置いて続ける。


「そしてあなた方との関係とは──この計画に他国民浄化政策が含まれている、ということです」


 私はつい、聞きなれないその言葉を口にする。


「じょ、じょうか……?」


「はい。この政策は、他国に住む人を強制的に殲滅──つまり皆殺しにするということを意味します……」


 ローゼスは険しい顔で詳細を話した。


「産業、経済、政治を牛耳った後、フォルシア国民と他国民の一部を入れ替え、秘密裏に他国民を『処分』する……そんな計画なのです」


「そ、そんな……」


「そして今アミリア国は、突如として何者かの手により崩壊しました。防壁が全て破壊されるほどの被害ですから、もしあなた方以外に生き残りがいたとしても僅かでしょう」


 それに私はハッとする。


「私、司令官に説明した時──『私たち以外に恐らく生き残りはいない、声が聞こえないから』って言ってた……つまり……」


「なるほど、軍がすぐに動いたのも納得です。あなた方を排除し、すぐ部隊を送り込めば──簡単にアミリア国民を消せますから」


 私はこの言葉に、信憑性を感じ慄いた。



 そこにライルが割って入る。


「とあらば──ここでゆっくりしている暇もないのではないか。フォルシア軍が来るのだろう?」


 ローゼスは頷く。


「その通りです。フォルシア軍の進行速度からして、日が登る頃にはアミリアに──」


「では急ぐぞ。……こいつはもうダメか」


 馬はいつの間にか横に倒れており、もはや立つことはおろか、息も絶え絶えな様子だった。


「やはりあの時、魔法で強引に走らせたのですね……」


 そう言いながらローゼスは屈み、馬に手を合わせる。

 しかしライルはそんなことをお構いなしに、手早く処理しようと話を進めた。


「ローゼス、そこを離れろ。ここまで来た証拠は消さねばならんだろう」


 ローゼスが一歩引くと、馬は地面の下へと沈んでいった。


「今はとにかくここを離れるぞ。詳しいことはまた向こうで聞く」


 そう言ってライルは3人の体を魔法で浮かせるが──


「ちょ、ちょっと待って!」


「なんだ?」


 私は一度降ろしてもらうと、ライルに駆け寄って小声で問いかけた。


「ちょっと……色々と魔法を使いすぎ!」


「何がだ?」


「人が使うものとしては過剰すぎます! 質も使用時間も! 『正体』がバレたらどうするんですか!?」


「それについてはもはや手遅れだろう。あの『腕』を見られたからにはな……」



 ──そう、ライルは……人間ではない。


 故に、彼女は情の無いことを言う。


「ローゼスのことは、現状利害が一致する限りは生かす。私たちの邪魔になるなら──殺すまでだ」


「そうは言っても……」


「ではどうしろというのだ?まさか忘れたわけではないな?我のための『計画』を……」


「そういうわけじゃないですけど……」


「ならば、今は早くアミリアへ戻ることを優先すべきだ。コイツの前では、ある程度の魔法は許せ。いいな?」


「──分かりました。でも、他の人にはバレないように気を付けてくださいよ?」



 作戦会議が終わると、再び私たちの体は浮き始めた。


「では、アミリアに向けて飛ばすぞ」


 私は思い出したように、条件を付け加える。


「あ! あとそうだ! フォルシアはアミリアまでの距離を見られる技術があるんだから、私たちの様子が見えないように飛ばせる?」


「分かった──では少々迂回するぞ」



 次の瞬間、凄まじい勢いで体が宙へと加速していく。

 ふと横にいるローゼスを見ると、険しい顔をして何か考えているようだった。


 (絶対に疑ってるよね、この表情……)




 飛んでいる間、私は様々な思いを巡らせる。


 (私の『計画』だけでもどうなるか不安なのに、そこにフォルシアまで絡んできて──ああ、本当にどうなっちゃうの?)



 何を隠そう、その計画とは──ライルのための国作り。



 そしてライルとは……アミリアを破壊しつくした、邪龍本人なのである。

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― 新着の感想 ―
Xの読みに行く企画から来ました。 まだ謎は多いですが、 物語の序盤の導入としては、良い表現と思います。 先が気になるので、ブクマさせて頂きました。
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