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第13話 地下室

 ライルらしくないまさかの態度に、私はびっくりした。


「えっ?」


「だから……私のせいで……私が全部やって、確実に奴の動きを封じていれば……こんなことには……」


 どうやら彼女は、彼女なりの反省をしているらしかった。

 だが邪龍らしいというか、反省点が微妙にズレているような気もするが……。


 それでも、行動を改めようという彼女の態度に、私はきちんと向き合いたいと思った。

 食事を置き、座っている彼女の正面に回ると、屈んで目線を合わせる。

 そして顔を上げた彼女の目を、真っすぐ見て言った。


「こういう時は……『ごめんなさい』って、言うんだよ」


「……」


 彼女は俯いて小さく言った。


「……ごめんなさい」


「……いいですよ」


 そうしてしばらくの間、そのまま互いに沈黙してしまう。

 これに居心地の悪さを覚えた私は、思い切って発破をかける。


「……ライル、取り戻すの。絶対に。──私たちならできる」


「……!」


 これに反応し、顔を上げる彼女。

 そして眉を上げ、立ち上がって言った。


「……そうだ。そうだとも! 絶対に取り戻す! 二度とこのような舐めた真似はせん!」


 そして、空に向かって咆哮するように叫ぶ。


「我こそが、王になる存在だ! 覚悟しろ、貴様らァァァーーーッ!!」


 いつもの様子を取り戻したライルに、私はくすっと笑った。

 継承石を私に押し付けたものの、ちゃんと王になる気はあるらしい。


「ちょ、ちょっと、あんまり大きい声出したら、ローゼスさん起きちゃう……ふふっ」


 私の目に映る彼女は、感情的で、冷酷一辺倒でもなく、どこか人らしさを持った──不思議な姿だった。


 すっかり立ち直ったライルは、微笑む私の顔を見て、ニカッと口で笑った。

 風で彼女の短い髪が揺らぐ。

 その不器用な笑顔に、私は少しドキっとした。


(ライルのことを見てると、本当の妹ができたみたいだなぁ……)


 そして私の思いを知ってか知らでか、ライルは食べかけの缶詰に指を差して言った。


「で、それは『オイシイ』のか?」


 私は頭をひねりながら返す。


「いや……微妙」


「ふーん……」


 彼女はそう言いながら、私の食べかけのパンを摘まみ上げて齧った。


「やっぱり分からんな。『アジ』というものは」


 そう、彼女もとい邪龍には、味覚がない。

 『口や舌に触れている』という感覚はあるものの、それ以上は何も感じないらしい。

 私はなんとはなしに、彼女に言ってみる。


「いつか、分かるようになれたらいいね」


「んん……やはり、ヒトの生活を理解するには味覚が必要か」


 そんな彼女と、あれは不味いだのこれはマシだのと話しながら、朝食を食べ終える。

 しかし、舌に残った感覚が絶妙に不愉快だった。

 私は口直しできないかと缶詰を眺めていると、ある考えを思い付いた。


「そうだ! もしかしたらここ以外にも、地下室に食料があるかも!」


 元の所有者には少し申し訳ないとは思いつつも、そのまま腐るよりは良いだろう、と。

 これをまたライルに頼もうとすると、彼女は少し不平を言った。


「はぁ~~~? お前、さっきから私を使いすぎではないのか?」


「だって仕方ないじゃない。私、魔法使えないし……」


「……」


 事実に何も言い返せない彼女。

 それでもまだ微妙な顔をするので、私は彼女を調子づけるために言った。


「もしかしたら……いろんなものを食べてみたら、味が分かるようになるかもよ?」


 彼女はこれに少し納得すると、頭を掻きながら言った。


「あー……分かった分かった」


 そう言うと彼女は目を瞑って腕を組み、何かに集中し始めた。

 そして突如顔をしかめると、私に奇妙なことを告げた。


「何か……変なものがあるな……」


「えっ? どういうこと?」


 そう言うと、彼女は私を連れてその現場へと向かった。

 瓦礫の陰を歩き、ゆっくりと顔を出す。

 そこには、見覚えのある瓦礫の色と形、散乱した魔道具……


 私の住んでいた家だった。


 彼女がそれを指差すと、いくつかの瓦礫が動き、地下への階段が現れた。

 10年以上住んでいたはずの、しかし全く身に覚えのないその光景に、私は困惑した。


「私の家の地下⁉ そんなの知らないんだけど……」


 さらにライルは、妙なことを言う。


「こいつが変なのはな、魔法で地下室全体に鍵がかけられている、ということだ」


「鍵……?」


「簡単に言えば、レイル。お前しか入れないようにされている」


「えっ⁉」


「私も驚きだ。こんな魔法は今まで見たことがない」


 レイルはニヤリとしながら、私の背中を押すように言った。


「ほら行ってこい。何があったか、後で教えろよ!」


 私はそっと立ち、小走りで階段に向かう。


 そして階段を下りていくと、辺りは段々と暗くなっていく。

 足元では誰が置いたのか、光る魔道具が先を照らす。


「どこまで続いてるの……?」


 足音や声が辺りに反響する。

 何度か反転し、深さも分からなくなるほど降りた先に、扉があった。

 魔道具の光が妖しく照らすその扉には、なにやら文字が書かれている。


 それを読んでみると、ライルの言っていたことが分かった。


「『この部屋は以下の人物以外の侵入を禁ずる。なお、対象者以外の侵入、及び外部からの破壊行動が認められた場合、部屋は爆発し、内部は全て焼却処分される。注意されたし。』……」


 そして、その下にある名前に目を移す。


「『対象者:レイル・グローリア』……」

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