第10話 決着
「絶命──」
大男が呟く。
ローゼスは死をただ受け入れることしかできなかった──
その時。
上空から立方体のような魔道具が4つ、ローゼスの周囲に落ちてくる。
そして、すぐに青白い半透明の箱が形成され、彼を囲った。
大男はこれに驚愕し、つい声を上げる。
「ボクの魔素が──遮断された……!? そんなはずは──」
そして大男は目を点にして、興味深そうにその壁に触れる。
「ッ──! これは!?」
指先が壁に触れた瞬間、彼は怯えるように手を引っ込めた。
そして、ライルが私に向かって合図を叫ぶ。
「今だ!撃て!!」
既に地上に降りていた私は、返事と同時に『ピストル』の引き金を引く。
「はい!!」
大男はこれに素早く振り返る。
「しまっ────」
彼は反応こそしたものの、体はうまく動かせなくなっていた。
そして私の放った弾丸は、彼の胸部に見事命中した。
──が、彼は倒れなかった。
それどころか、胸元に赤いシミを作りながら、こちらをじっと見つめてくる。
私は想定外の事態に、パニックで固まってしまった。
「え……なん、で……」
そして必死に指を動かすが、カチカチという音以外、何も反応が無い。
次の瞬間──大男が私の目の前に迫る。
背筋が凍った私は動けず、ピストルを構える腕は小刻みに震えた。
そして彼は、突然私の耳元で奇妙なことを言った。
「君たちは面白そうだから……まだ殺さないであげる」
「……ぇ」
「またね……」
そう言うと、素早く私のポーチを掴み、中身ごとむしり取る。
ライルは叫ぶと、私を魔法で後方に引っ張り、手から閃光を放った。
「レイル!目を瞑れ──ッ!!」
しかしその攻撃が当たることはなかった。
丁度、大男は目の前で跳び上がり、何処かへ消え失せてしまったのだ。
大男が立っていた所には、大きな窪みと静けさだけが残った。
私は呆然と立ち尽くし、その窪みを眺めることしかできなかった。
(継承石が、奪われた──? そんな……)
しばらくして、その静寂をライルの叫びが破る。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
その叫びで我に返った私は、ローゼスさんのことを思い出した。
「そうだ! ローゼスさんはどうなったの⁉」
私はうつ伏せになっている彼を見つけると、ピストルを投げ捨て、急いで駆け寄る。
「大丈夫ですか⁉」
彼はなんとか顔を上げ、言葉を返す。
「……あ、ああ……なんとか……」
私は支えるように腕を下に入れ、彼を起こした。
「よ、良かった……ど、どこか痛いところはないですか⁉」
「だい、じょうぶ、です……ただ……疲れ、まし……」
彼は体力を使い果たしたのか、ガクリと頭を落とした。
私はびっくりして、彼が死んでいないかを今一度確かめる。
「えっ⁉ ──いや、脈はある……呼吸も……」
どうすべきかと困り、考えを整理する。
そしてまだ敵を追い返しただけに過ぎないと私は気づき、焦り始めた。
(フォルシアがここを見てるかもしれない……早く隠れないと)
私はローゼスさんを隠せる場所まで動かそうと思ったが、当然ながらできるわけがなく……
彼を引きずることすらままならない私は、ライルに頼もうと振り返る。
「ライル! ねえ、ローゼスさんが……」
彼女を見ると、膝をつき、俯いていた。
さらに近づいてみると、何かぶつぶつと呟いている。
「我が…………我が全て…………」
私はそんな彼女の肩を掴んで揺らした。
「ライル! ねえ! 大丈夫⁉」
しかし彼女は心ここにあらずと言った感じで、まだ同じようなことを呟いている。
「我が……我が全てやっていれば……」
それをこちらへ引き戻すように、私は全力で声を掛ける。
するとようやく反応した彼女は、キッとこちらを睨みつけた。
「ねえ、ライル!! ……どうしちゃったの?」
「うるさい!!」
彼女は息を荒げ、歯を見せるほどの険しい表情でこちらを見る。
私はドキッとして、一歩引いてしまう。
「ラ、ライル……大丈夫……?」
「絶対に取り返す……!!」
触れてはいけないようなその雰囲気に、私は気まずそうにしながら、彼女が落ち着くのを待った。
落ち着きを取り戻した彼女は、次第にこちらに向けていた首を戻し、今度は俯いた。
そして、低く小さく呟く。
「何の用だ……」
「え、えっと……ローゼスさんを運んでもらいたくて……」
すると彼女は、人のフリも忘れたように、無言で彼を近くまで浮かせてきた。
「これでいいか……?」
「あ、あそこの裏にお願いします……その、フォルシアから見えないように……」
ついつい敬語が出る私。
彼女は再び無言で彼を運び、また自身と私も、その瓦礫裏に素早く移動させた。
私は彼女の苛立ちに少し怯えながら、彼女とローゼスさんの様子を交互に見る。
(あの時どうすれば良かったのかな……)
全ての元凶は──あの奇妙な作戦にあった。