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009 谷底へGO

 宙を舞う寸前に、龍が動くのが見えた。体が動いたのは本当にたまたまだった。

 防がなければまずいと思い、幸い近くに居た二人の前に出て、大きいだけが取り柄の剣で攻撃を防ぐ。

 どうにか直撃は免れたが、その衝撃に因って俺達三人の体は大きく宙を舞うことになった。

 どんな力を加えられれば、人間がここまで宙を舞えるのだろうか…それにしては防御した時に感じた衝撃が小さかった気もする。

 叩かれた、と言うよりは投げられた様な…


「…!……ッ!!」


 ブレイブが何かを叫んで居るが、風切音が凄くて全く聞き取れない。


「…クロ、ちょっと不味いかも」


 余りにも耳元で囁かれたので、体がビクッと跳ねてしまう。

 ノノは何故か俺の肩に引っ付いて居た。そのお陰で彼女の声は聞こえたようだ。


「…何が不味い?」


「…この先…崖かも…」


 ノノの言葉を聞いて、俺達が向かっている先を見る。それは高い山々の中に綺麗に裂かれた谷間だった。

 え~?それは死ぬくな~い?

 なんとかしなければ不味いとは思うが、この空中で何かが出来る手段を持っていない。魔法でも使えれば違ったかも知れないが。


「…魔法は使えないのか?」


「…うん、クロも?」


 ノノの問に俺は頷く。

 その間にも俺達の体はどんどんと谷へと近づいて行く。


「…不味いな」


「…不味いね」


 まあ、もしこのまま地面に叩きつけられた所で、俺が死ぬことは無いが、ノノやブレイブも耐えきれるとは思えない。

 なんとかするしか無いな。

 抵抗する手段も無いので、俺達はそのまま谷間へと吸い込まれて行った。下を見ると、これでもかと言うほど勢いよく水が流れていた。

 あっ、ふーん。俺泳げないんだよな…まあでも、やれることをやるしか無いな。

 ブレイブの方に手を伸ばし、こちらに引き寄せようとする。ブレイブもこちらのやりたい事を察してくれたようで、あちらからも手を伸ばしたお陰で、なんとか引き寄せる事に成功する。


「クロッ!これッ!なんとかなるのかい!?」


 この距離で漸くブレイブの声も聞き取れるようになった。


「…するしか無い」


「おおお!ぶつかるぞッ!?」


 下に落ちる勢いよりも、横に飛ぶ勢いの方が強い所為で、水面に落ちるよりも先に壁にぶつかりそうになる。

 だが、今はそれが好都合だ。


「掴まってろッ!!」


 俺のその言葉にブレイブとノノはしっかりと俺の背中に捕まる。

 壁にぶつかる寸前に、剣を壁に当てる。物凄い衝撃が腕に伝わって来るが、“力”を込める事でなんとか耐える。

 ギャリギャリと金属がこすれる音と火花が散る。俺の剣は元々切れ味が殆ど無い。その殆ど無い切れ味が、更に無くなっていくのを感じる。


「お、おお!なんか凄い音がしているが、大丈夫か?」


「…」


 正直ブレイブの問に答えている余裕は無い。

 最初に比べれば多少は遅くなっては来たが、それでも落ちる勢いが止まる事は無く、俺達は仲良く激流の中に飲まれていった。

 川の流れは余りにも早く、俺は早々に意識を手放すのであった。







 何かが燃えるパチパチと言う音がする、地下からは川の流れる音も聞こえてくる。目を覚ますと見たことのない場所だった。

 遠くには高い山も見えるが、もしかしてあれが俺の生まれ育った山なのだろうか。近くにはブレイブも転がっている。


「…クロ、起きた?」


 後ろからノノの声が聞こえる。


「…ああ」


「…良かった…無事で」


 そう言いながら手に一杯抱えた木の枝を降ろし、火に焚べる。


「…ノノが引き上げたのか?」


「…そう」


 普通なら成人男性二人をノノの体躯で、引き上げることなど無理だと思う所だが、トカゲを吹っ飛ばしたあの力があれば可能だろう。

 何故か、やけにノノが近づいて来た。焚き火にあたりながら、胡座をかいて座っている俺の足の間にすっぽりと収まった。


「…何だ?」


「…マナ一杯使ったから…ほじゅー」


「そうか…」


 理由になっている気はしないが、まあ今回はノノが居なければそのまま溺れ死んで居たかも知れないのだ、この位は許してやるか。


「…なんだか…クロの匂い、落ち着く」


「…臭うか?」


 俺が自分の身体の匂いを嗅ぐと、ノノがふわりと笑った。


「臭くない…いい匂い」


「…そうか」


「…うん」


「あれ…?ここは…?」


 ブレイブも目を覚ましたらしい、周りを確認して俺達を見つけるとこちらに寄ってくる。


「クロ!ノノ!良かった無事だったのか…」


 ブレイブはホッとした表情で、こちらに駆け寄ってくる。


「クロが助けてくれたのかい?」


「…いやノノだ」


「そうだったのか!ありがとうノノ!!」


「…うん」


「それにしても…」


 ブレイブは俺とノノの顔を交互に見る。


「二人は仲良しだね」


 確かにノノは今、俺の膝の上に収まっている。周りから見れば、仲良し兄弟の様に見えるだろう。


「…うん、仲良し」


 ブレイブの言葉に、ノノは満足そうに答えていた。







 改めて三人で焚き火を囲い、これからの事を話し合う事にした。


「それにしても、これからどうしようか」


 ブレイブの言う通りだった。龍に飛ばされた時はまだ日も登ったばかりだったが、今はもう頂点を通り越している。

 あと暫くすれば夕暮れ時になるだろう。


「…町に行けるなら行った方が良いと思う…けど…」


「俺とクロの荷物は流されてしまった様だね…」


 そうなのだ。あの時、俺とブレイブは荷物を置いて戦闘をしていた。そのまま解体をして、すぐに龍が来てしまった為、荷物を残して俺達だけ飛ばされてしまったのだ。

 俺が持っているのは大剣と、いつも腰に掛けていたポーチ。ブレイブに至っては自身の剣のみである。

 ノノは小さな肩掛け鞄だった為、そのまま戦闘を行っていた。彼女の荷物が無事なのは不幸中の幸いだろう。


「…一応、三人が宿に泊まれるだけのお金は…あると思う」


 そう言えば村では使って居なかったが、一般的にはお金と呼ばれる物を使って対価を払うんだよな。

 旅好きのババアから聞いたことが有るが、見たことはない。

 それにしても、流石にお腹が空いてきたな。


「せめてここがどこで、どちらに行けば村が在るかが分かれば良いんだけど…」


 あ~、あそこの木になってる実、美味そうだなぁ…食べれる実かなぁ…


「…あれは」


 俺は木の実を指さす。もしかしたら二人なら食べれる物か知ってるかも知れないし。

 ブレイブとノノは俺の指さした方向に目を向ける。


「あれは…!流石だクロ!あれはきっと町の建物だ!!」


 ん?建物?確かに向こう側に微かに何かが在るのが見えるが…こんなのに気が付くなんてブレイブは凄いなぁ。

 所で木の実は食べれるの?


「…見えない」


 ノノがぴょんぴょん飛び跳ねているが、彼女の背丈では見えないようだ。

 木の実は?


「二人共!日が暮れない内に町へ行こう!」


 町っぽい物を見つけてやたらテンションの上がったブレイブの号令で、俺達は一路町へと向かうことになったのだった。

 木の実…

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