007 マナにつられて
野営地に戻ると、ロン毛君が既に火を起こしてくれて居た。ロン毛君はこちらに気がつくと、爽やかな笑顔で迎えてくれる。
「お、クロ戻って来たんだね。ん?そちらの方は?」
「…拾った」
「拾ったって、猫じゃ無いんだから」
俺の端的な返答に、ロン毛君は苦笑いで答える。ん〜、でも正直猫みたいな感じなんだよな。餌付けをしている感覚かも知れない。
「こんばんは、お嬢さん。俺はブレイブだ、名前を教えて貰っても良いかな?」
「…私はノノ。よろしくブレイブ」
「うん、よろしくノノ。所で幾ら人里に近いとは言え、何故君の様な子供がこの様な場所に居るんだい?」
そう言えばロン毛君の名前ってブレイブって言うのか。
なんか出会った時から衝撃が強すぎて、全く覚えて無かった。多分長い付き合いになりそうだし、流石に覚えとかないとな。
そんなロン毛君、改めブレイブの質問に、ノノは首を傾げながら応える。
「…ここには気が付いたら居た…後人里からは全く近く無いと…思う」
えっ!?と、驚いた顔でブレイブが俺の顔を見る。
そうかなぁって思ってたけど、そうだったのか。まあ最短ルートでは無いだけで、いつかは人里に着くのだから誤差である。
誤差。
「…問題無い、必ず辿り着く」
「うーん、まあ道は一つじゃ無いからね、君に着いていくよ」
俺のテキトーな返答に、ブレイブは大真面目に頷く。なんかごめんよ。
「…後私は子供じゃ…ない、ちゃんと成人してる」
ノノのその言葉に、俺とブレイブは顔を見合わせる。
マジで?十二歳位かと思ってた…まあ成人は十五歳だし誤差っちゃ誤差か。俺達のその反応に、ノノは少し不満顔だった。
「そうだクロ。何か獲物は獲れたのかい?」
それを察してか、ブレイブが話題を変える。ふっふっふっ。それについては完璧だぜ。
「…兎を狩ってきた」
「おお!良い物を狩って来たね!」
なかなか立派な兎を見て、ブレイブもテンションが上がった様だ。早速解体をしようとすると、ノノから待ったがかかる。
「…解体は任せて」
それだけ言うと、ノノは慣れた手付きで解体を始める。
その手付きに迷いはなく、かなり慣れているのだろうと察する事が出来る。
「凄いな、かなり慣れている様だね」
「…いつもやってるから」
物の数分で解体は終わり、俺達は食事にする事にした。
ある程度の大きさに肉を分け、串に刺して直火で炙る。
その際に、狩りの途中で拾っておいた木の実を、焚き火の中に放り投げる。
「クロ、今何を入れたんだい?」
「…獣避けの実だ、鼻の効く奴らが苦手な匂いを出す」
「成程、魔物達が寄って来なくなるって事だね」
これを入れておかないと、腹を空かせた魔物どもが四方八方から寄って来るのである。
基本的には大した事の無い奴らばかりだが、偶に面倒臭いのを引き寄せる事も有るので、外での調理には必須レベルだ。
「…そろそろ食べれそう」
「そうだね!頂こうか」
良い感じに焼けて来たので、ハーブなどを使い軽く味付けをしてから俺達は一気にかぶり付く!
うーん!これこれ!やっぱり久しぶりの新鮮な肉は、体に沁みるなぁ〜。
全て食べ切るまで、俺達は一言も発する事も無く、一心不乱に肉を味わった。
「そう言えば、人里からは離れているのなら、余計に一人でこの山にいる理由が分からないな」
食事も終わり、各々がリラックスしていると、ブレイブがノノに質問をする。
確かに外見だけを見れば、ノノはすぐに魔物にやられてしまいそうな感じがするが、その内側から感じるマナの量は尋常では無かった。
単純な量だけでも相当な物だが、その密度も異常だった。
それだけの量のマナが体内に在れば、マナによる身体の強化量は相当な物だろう。
この山で生き延びるのは問題無い様に思える。
とは言え、確かにここに居る理由は気になる。
旅好きのババアに聞いた話だが、外の人間は基本的にはこの山を避けると言う。
外の人間には、この山の濃いマナは慣れていないとキツいらしい。確実に外から来たであろうノノが、この場に居たのは確かに気になる。
「…ここにはマナが沢山あるから…マナの方へ歩いていたら…いつの間にかここまで来てた」
「えっ?それだけの理由で?」
「…そう…私はマナを多く貯めれる体質だから…マナが多い場所が好き」
「成程…確かにここのマナは濃いらしいからね、そう言った体質なら可笑しくない…のかな?」
「…多分?…それよりもブレイブ…“濃いらしい”って言うけど、この場所はかなりマナが多い…らしいって言葉は不自然」
ノノの言う通りである。今この場所のマナは、村の近辺よりも濃い様に思える。それを感じない様な発言は、確かに不自然であった。
「ああ、それは…俺がマナを感じにくい体質だからかな、確かに今までで一番マナを感じるけど、正直俺には殆ど分からないな」
「…成程」
ノノと打って変わって、ブレイブからはあまりマナを感じない。
恐らく全体的にマナとの相性が良くないのだろう。
話はそこで終わり、皆休む準備をし始める。
俺は寝ている間も魔物が近付いて来れば、勝手に目が覚めるので、見張り番を立てる必要がない。
なので、皆同時に眠りにつくのであった。