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003 聖龍の守る村

「あれぇ?こんな所に人が居るなんて初めてだねぇ…」


 今この場に全く似つかわしく無い、のんびりとした声が聞こえる。

 声の主は作業着を着ており、つばの広い麦藁帽をかぶっている男であった。

 歳の頃は四十程度に見え、この様な場所に居るのは、余りにも不自然であった。

 突然の来訪者に、ブレイブは思考を停止させていたが、今の状況を思い出し、その男に向かって声を出す。


「逃げて下さいっ!あいつらは竜種ですっ!!」


 簡潔に要点だけを伝えて、この場を離れて貰うようにと伝えるが、男の反応は思っても居ないものだった。


「ん〜、ああ、大丈夫大丈夫。あんな“トカゲ”大した事ないから」


「は、はぁ…?」


 ブレイブは男の放った言葉をすぐには理解出来なかった。

 確かに在る意味、竜種は大きいトカゲと言えなくもないかも知れないが、少なくとも大した事のない存在等では無い。


「ガァ…ガァァ…」


(竜が怯えている…?)


 ブレイブは男が登場してから、竜達が先程よりも距離を取っている事に気が付いた。よく見ると、竜は震えており、怯えている様にも見える。


「子供を殺しちまったのは悪かったと思うけどよ、今日の所はどうかひいてくれないかねぇ?」


「ッ…ガァッ!」


 男の言った事を理解しているのか、二匹の竜は一鳴きすると、一目散に逃げて行った。

 何が何だか分からない様子のブレイブであったが、一先ず命の危険が去った事を理解し、限界であったその意識を手放すのであった。







「お?目が覚めたかい?」


 ブレイブが目を覚ますと、麦藁帽の男が声をかけてきた。

 男は先程ブレイブが討伐した幼竜を、解体していた様だ。慣れているのだろう、素材を無駄にする事のない、完璧な手捌きだ。


「あ、えっと…ありがとうございます」


「おお!ちゃんと余す事なく解体しといてやったぞ〜!」


 命を助けられた事に対する感謝だったのだが、男は竜の解体に対してのお礼だと思った様だ。


「えっと…その事も何ですけど、竜から命を助けて下さってありがとうございました」


「ああ〜、なんだそんな事かぁ、全然気にしなくていいぞ!にしてもあんた村の人間じゃ無いよなぁ?どっから来たんだ?」


「俺は帝都から来ました」


「ほぇ〜テイトねぇ…何処にあるか知らんが何でまたこんな所に?」


 男は帝都と言う言葉自体にピンと来ていない様子だった。この国人間であれば、必ず耳にする筈の言葉だと言うのに。

 ブレイブは少し訝しんだが、先ずは命の恩人の質問に答える事にした。


「ここには剣の修行の為に来ました」


「おお〜、そうかいそうかい!良くまあここまで生きて来れたねぇ、大抵の人間はここに来るまでに命を落とすんだよ〜」


「まあずっと逃げていたお陰でなんとか…」


「いや、それで良いのさ。生きてこその剣の腕。考え無しで挑んで死ぬなんて馬鹿のする事さ」


 男のその言葉にブレイブは自分を恥じた。

 剣の腕前を上げる為にと、考え無しに禁足地へと足を踏み入れ、結果としてこのザマだ。

 余りの自分の情け無さにブレイブは涙を堪えることが出来なかった。


「俺はッ…自分が情けないですッ!」


「若い内は、失敗するもんだ。疲れただろ〜?俺の家に来ると良い」


 男は村に案内すると言って歩き出した。ブレイブも慌ててその後に着いていく。


「そう言えば、名前を聞いていませんでした。俺はブレイブ・グラディウスって言います」


「お〜、ブレイブ君ね。俺はトナリ・イエーガーだ。ま、トナリって読んでくれや」


「はい!トナリさん!!」







 トナリに着いて歩く事一時間程で、村に着いたブレイブだが、そこで見たあまりの光景に絶句していた。


「トナリさん…これは一体なんの“骨”何ですか!?」


 それはあまりにも異質な光景だった。

 頭蓋骨だけでも十メートルはゆうに超えるであろう高さがあり、その他の骨も一つ一つが、ここまで来る時に見た竜よりも圧倒的に大きい。

 その大きすぎる骨達が村を守る様に囲っているのだ。

 死して尚、圧倒的な存在感を放つ骨。こんな巨大な生物は“絵物語”でしか聞いたことが無い。

 凡その検討は付いてはいるものの、ブレイブは聞かずにはいられなかった。


「ああ〜、これはね、村の守護龍。“聖龍ネツァク”の遺体だよ」


 トナリは、それがかつてこの地を護っていた龍の物であると話した。死して尚、それが放つ圧倒的なプレッシャーを前に、近づいてくる生物は居ないのだと言う。

 そして、ブレイブはトナリが竜を“トカゲ”と言った理由を、理解出来た。

 確かにコレに比べたら、他の竜などトカゲも同然である、と。


「さ、ウチはこっちだ」


 そうして再び歩き出したトナリにブレイブは着いていき、彼の家だと言う建物が見えてきた時、ブレイブの目に運命が飛び込んで来たのだ。


「何と言う事だ…!」


 それは余りにも美しい剣技であった。

 無駄の一切見当たらない剣筋。

 音が全く聞こえない足運び。

 二メートルはあるか、と言う大剣をまるで軽枝の様に振るう力。

 そして、その圧倒的な剣技を繰り出しているのは、自分よりも若いであろう男であった。

 それを見た瞬間、ブレイブの心はその剣技の虜になったのだ。そうなれば、彼の取る行動は一つだった。

 その男の元へと駆け寄り、開口一番にこう言った。


「正しくこの出会いは運命だ!どうか俺と一緒に来てくれませんか?」


 それはまるでプロポーズの言葉だった。トナリはそれを見て笑いそうになるのを必死に堪えていた。

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