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017 ノノちゃん師匠

「ノノちゃんは可愛いですねぇ!」


 ノノとマリーを連れて昨日の広場に向かっているのだが、マリーはノノを小動物を愛でる様に可愛がっていた。

 最初こそ拒否しようとしたノノだったが。


「…私は子供じゃない」


「あ、えっと、嫌でしたか…?」


「…別に嫌な訳じゃない」


 悲しそうな顔をするマリーを前に、強く拒絶出来なかったのである。その結果、何かに付けてノノを撫でるマリーが誕生していた。


「…」


 ノノは不服そうな顔をしているが、それが好意から来るものだと分かっている為どうにも出来ない様だ。

 その様子を横目に見ていると、ノノと目が合う。その目は何かを訴えている気もしたが、俺にはよく分からなかった。分からないと言う事にしておいた。


「…マリーは何の武器が得意なの?」


 ノノは何かから気を逸らす様に質問をする。


「うーん、得意と言う程の武器はないかもですね…使いやすいのでダガーを使ってます!」


「…剣は使わないの?」


「一応使った事はあるのですが…私にはちょっと重たかったです」


 あははと、恥ずかしそうに頬を掻きながらマリーは答えた。

 確かに、昨日一日見ただけでも筋力はかなり低そうだった。ショートソードでも振るのに苦労するだろう。

 そう考えると、今の彼女がダガーを使うのは理に適っている。


「…そうなんだ、マリーは何で冒険者をやってるの?」


 確かに、それは俺も気になっていた。その辺りの町娘に毛が生えた程度の実力の彼女が、何故危険な冒険者を生業としているのか謎だったのだ。


「実は…半年程前に父が他界しまして、母と弟たちを養う為に冒険者になったんです!」


 そう、マリーは明るく言っているが、父を亡くし悲しむ暇もなく家族の為に働く決断をするのは楽な事ではなかっただろう。


「…そっか、マリーは偉いね」


 恐らく、ノノも俺と同じ様な事を思ったのだろう。立ち止まったかと思うとマリーの事を抱きしめた。

 ノノが小さい所為で、妹が姉に抱きつく様な格好になっているのはご愛嬌だ。


「ノノちゃん…ありがとう!でも私は大丈夫です!素敵なししょーに出会えましたから!」


 そう言ってマリーは俺の方を見る。や、辞めてくれそんな純真な目で俺を見ないでくれ…ノノに任せて一人で素振りをする計画を実行し難いじゃないか。


「…私も、マリーに戦い方を教えてあげる」


「えっ、ノノちゃんがですか?」


 マリーはノノの言葉に意外そうにしていた。その反応にノノは不服そうな顔をする。ちょっとほっぺたが膨れていた。


「…私もそれなりに強い」


「そうですよね!ノノちゃん!よろしくお願いします!」


 マリーはノノの言う事を全く信じていない様だった。完全に小さな子供に対する対応だった。


「…」


 ノノから何かのスイッチが入った音が聞こえた気がしたが、きっと気の所為だろう。



------



 クロの弟子だと名乗る少女と出会って、私は驚いた。

 ブレイブの話では、クロはずっと生まれてからイカナ山に在る村で過ごしていたと聞いていた。

 いつの間に弟子なんて、と思っているとその弟子本人が教えてくれた。何でも昨日弟子になったのだとか。

 クロは昨日は森で剣を振っていただけだと言っていたのにどう言う事だろうか。

 彼は言葉が少な過ぎる。それが良い事でもあるし、基本的には言いたい事は伝わってくるのだが、こう言う肝心な事は言葉にしない。

 ブレイブはクロは自分たちとは違う世界を見ている様だと言っていた、それも分からなくもない。

 彼は最小限の行動で、最大の成果を出している様に見える。あの時赤龍に会ったのも、本当に偶然だったのだろうか。

 ともあれ、クロの弟子、マリーと共に森へと行く事になった。その道中でマリーはやたらと私の事を撫でてきた。

 私はエルフだ。エルフは長命種であり、人間の二倍以上の時を生きる。そして私は、先月エルフの成人の年齢である三十才になった。

 この歳で子供扱いされるのは、かなり恥ずかしかったので辞めて欲しかったのだが、マリーの悲しそうな顔を見るとそう強くも言えなかった。

 その気を逸らす為にした質問によって、マリーが亡き父に変わって家族を養う為に冒険者になった事を知り、私は何か力になりたいと思って戦い方を教えると言えば、彼女は幼子を諭すような物言いでお願いすると言ってきたのだ。

 私は多少なりとも腕に自信がある。知らないとは言え、その物言いは私の中の何かに火を付けた。


「…ここだ」


 クロの案内によって、昨日鍛錬に使ったと言う場所に着いた。確かに程よく開けた場所で、鍛錬をするには申し分ない。


「…クロ、今日は私が、マリーに教えたい」


 もしかするとクロは何か考えがあってマリーを弟子にしたのかも知れない。

 断られたらその時だと思い、マリーの師匠である彼に確認を取る。


「…分かった」


 思った以上にあっさりと許可が出た。しかしこれで気兼ねなくマリーに指導が出来る。


「ノノちゃんよろしくお願いしますね!」


 幼子に向ける様な笑顔で、マリーは私に話しかけてくる。

 少し意地が悪いとは思うが、先ずは彼女のその度肝を抜いてやろう。ここまでずっと子供扱いされていたのだ、それくらいしても良いだろう。


「…マリーはマナを使って体を強化できる?」


「体をですか?」


 マナは大小あれど身体に影響を与えている。それを意図的に使えるかどうか、と言う話である。

 クロも弟子の事が気になるのか少し離れた場所で、私たちのことを見守っていた。


「…そう、自分の意思で意図的にできる?」


「出来ないです。考えた事もありませんでした」


「…なら、ちょっと見てて」


 そう言って私は少し太めの木の前に立つ。戦闘以外で無駄にマナを消費したくはないが、この程度ならば問題ない。

 私はマナによって体が強化、サポートされているイメージをする。するとマナはそのイメージを叶える様に動く。

 普段よりも、体に力が入るのを感じる。右の拳に力を入れて、左の掌を気に添える。一拍。そこから右と左を入れ替える様に動かし、右の拳を木に突き当たる。

 轟音。少し遅れて破砕音を出しながら木が倒れていく。


「…強化すると、こんな事も出来る」


 そう言って後ろを向く。するとマリーは信じられない物を見たと、驚愕の表情をしていた。

 これで子供扱いされた件はチャラである。


「…分かった?」


 未だ驚きから帰ってこないマリーに言葉を掛ける。


「えっ、あっ、はい!分かりましたノノちゃん師匠!」


 この反応なら私の言う事もしっかり聞いてくれるだろう。クロの方に視線を向けると、彼も真面目な顔で頷いていた。

 私の教えた事は間違っていなかったと言う事だろう。彼の弟子に間違った事を教えてはいないようで、私は内心ほっとしていた。


「…じゃあ、やり方を教えるから、来て」


「はい!ノノちゃん師匠!!」


 素直に言う事を聞く様になったマリーを見て思う。もしかするとこの結果もクロが思い描いた物なのだろうかと。

 ここに来るまでの道中、彼に視線で助けを求めたのだが、彼は何もしなかった。

 気が付かないフリをされたのかと思っていたが、もしかすると私とマリーの今後を考えての行動だったのかも知れない。

 やはり、彼は底知れない。







 その後マリーに身体強化の仕方を教えてみたのだが、なかなか上手くいかない。

 何となく自分の中にあるマナの事は感じれる様なのだが、それを上手く強化に繋げられないのだ。


「ノノちゃんごめんなさい〜…」


 なかなか上手くいかない現状に、彼女も少し疲弊している。私もまた、上手く伝えられていない事に焦燥感を持っていた。


「…大丈夫、最初はみんな上手くいかない」


 身体強化も得手不得手がある。人によってその強化量は疎らなのだ。

 その後もマリーとあれこれ試行錯誤してみるが、一向に強化されている様子が無い。


「…マナが体を、補強してる様な、感じ」


「う〜、よく分からないです…」


 私自身が身体強化をする時の感覚を伝えてみてはいるが、それも彼女の中ではなかなかイメージ出来ない様だ。

 完全にお手上げ状態である。どうしたものかとクロの方へと視線を向ければ、彼はいつの間にか素振りを始めていた。

 相変わらず美しい剣技である。マリーもクロの方へと視線を向け、その動きをじっと見ていた。

 じーっと穴が開くほどクロの剣技を見ていたかと思うと、マリーが唐突に飛び跳ね始めた。


「分かった!分かりましたよししょー!ノノちゃん!!」


 分かった分かったとぴょんぴょん飛び跳ねるマリー。その声が聞こえたのだろう、クロもこちらへ寄ってきた。

 一体何が分かったのだろうか。


「ありがとうございますししょー!お陰で理解できました!!」


「…ああ」


 マリーのその言葉に、クロは頷く。私だけが何も分かっていなかった。

 そのままマリーはダガーを持って、私が殴り折った木の隣の木の前に立つ。


「はっ!」


 マリーが気合いを入れた一声と共にダガーを振ると、強い風が吹いたかと思えば、一瞬遅れて木が静かに倒れた。

 何が起きたのか、まるで意味が分からなかった。だけど、今のは魔法を発動した時に似ている。

 だが、魔法とは強いイメージが無いと、まともに使える物ではない。

 例えば魔法で火を出そうとした時、どれだけ精巧にイメージが出来るかで威力も大きさも全てが変わってくる。

 大半の人間は出せても火の粉が精々なのだ。やろうと思っていきなり出来るものでは無い筈だ。


「やったやった!やりましたよししょー!ノノちゃん!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表現するマリー。一体クロの何を見て何が分かったのだろうか。

 クロは相変わらず頷いている。どうやら直接本人に聞いてみるしかない様だ。


「…マリー、今のは?」


「はい!私体を強化するイメージは全く分からなかったんです。でもししょーの剣を見て気が付きました!師匠は剣にマナを纏っているって!」


「…そうなのクロ?」


「…ああ」


 どうやら間違いないらしい。


「だから私はししょーの剣を頭の中でイメージして、そのままダガーにマナを纏わせる様に意識しました!そしたらちゃんと出来ました!!」


 それはもう完全に魔法その物だった。確かにイメージ先があれば、魔法はその精度を増すと言うが、それには才能も無いと出来る物では無いだろう。

 恐らく彼女は、内側へと出力は苦手でも、外側へと出力が滅法得意なのだろう。


「だから昨日ししょーは、俺の剣を見て真似ろって言ったんですね!」


「…ああ」


 クロは大きく頷く。まさかクロは一早く彼女の魔法の才能に気が付いて、自身の剣技を見せる事でそのイメージを固めていたと言う事なのだろう。


「…マリー、それってダガーを使わずに、出来る?」


「ダガーを使わずにですか?やってみます!」


 そう言うとマリーは左手を木に向けてむんむんと唸り始める。しかし、いつまで経っても魔法が発動する気配は無かった。


「…やっぱり、クロの剣のイメージが、大事なんだと思う」


「む〜ん、成程…あっ!それなら!」


 マリーは今度は右の手を手刀の形にして、木に向かって振り下ろした。

 すると、今度はダガーの時の様に風が吹いた後、木は縦に真っ二つになった。やはり完全に魔法が使えている。


「やっぱり!剣の形に近ければ出来そうです!ししょー!」


「…よくやったな」


「!はい!!」


 やはり、クロは全て分かっていたのだ。その上で私に身体強化を教えさせる事で、体の中にマナが有る感覚を掴ませ、その後彼の剣技を見せて自分で気が付かせる。

 敢えて全てを教えるのでは無く、自分で気が付かせる事でより自身の体験として強烈に残したのだ。

 私は今になってブレイブの言う事が分かってきた気がした。確かにクロには未来が、私たちの見ていない世界が見えているのかも知れない。

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