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016 アキラ

 朝、窓の外の鳥の鳴き声で目が覚める。隣のベッドを見ると、ブレイブはまだ寝ている様だった。

 窓から外を見ると、まだ日が上がったばかりの様だ。

 この時間だとまだ食堂も開いていない。とは言え二度寝するには目が冴え過ぎている。

 ならば、こんな時にする事は一つしかないだろう!そう!素振りだ!剣を持ってなるべく静かにしかし気分はるんるんで外に出る。

 宿の外に出ると、朝特有のなんとも言えない気持ちの良い空気が体を包む。いつもは人の多い通りも、この時間だと全く人気が無い。

 流石にこの時間から町の外に出る気は無いので、丁度良い広場でも無いかと町をぶらぶらと歩く事にした。

 途中でギルドの前を通ったが、中から何やら声は聞こえるが、流石に日中程の活気は無かった。

 そのまま少し歩くと、広場が見えてきた。ここで良いかと思い広場に近づくと、先客がいる事に気が付いた。

 乱雑に、よく言えばワイルドに切られた橙色の髪。剣士がよく着ている様な長袖長ズボンのシンプルな服装。

 ブレイブと同じ位の身長の細身の青年が、剣を振っていた。

 振っている剣は恐らくロングソードと思うが、一般的な物よりも剣身がかなり細い様に見える。

 空いている場所で俺も剣を振ろうと広場に入ると、その人物もこちらに気が付いた。


「おー、あんたもこれか?」


 俺が剣を持っているのが見えたのだろう。青年は自身の持っている剣を指差し、ニコニコと人好きのする笑顔で話しかけてくる。


「こんな時間に同士に会うなんて珍しいなぁ!」


 確かに周りには散歩をしている老人が一人居るだけで、後はこの青年と俺の二人だけだった。


「てかあんたの剣めっちゃデカいな!本当に振れるのかそれ!」


「…ああ」


「なあ、振ってる所ちょっと見せてくれよ」


 人に寄っては嫌味に聞こえる物言いだが、不思議と彼からはそういった嫌な物を感じなかった。

 振れるように剣を持ち直し、振り慣れた体制になる。


「へぇ…」


「ふっ…!」


 いつも、家の庭でやっていた時と同じ様に剣を振る。青年は最初は静かに見ているだけだったが、自身の剣をもって素振りを始めた。

 ああ、分かるよ。人が剣を振っているのを見ると自分も振りたくなるよな。もしかすると彼と俺は似た者同士なのかも知れない。

 どの位の時間剣を振っていただろうか、気が付けば太陽も大分高くなっていた。人通りも段々と増えてきていた。

 俺達はどちらとも無く、剣を振るのを止める。


「あんた相当強えだろ」


 青年は汗を拭いながらそう言った。どうだろう…正直俺は自分の事を強いとは思っていない、剣の腕なら多少自信はあるが、村には俺よりも力の有る人間は沢山居たし。弱いわけでは無いと思っているが、ババアにも勝てたこと無いしな。

 俺以上に強い人間なんて、ごろごろ居るんじゃないかと思っている。


「…そうでもない」


「謙遜…って訳じゃ無さそうだな。そうか、あんたは真の強者を知ってるんだな」


「…まあな」


 真の強者と言うか、知ってるのは怖いババアだが。


「いいね、気に入ったぜあんた。俺はアキラ、一応冒険者やってんだあんたは?」


「…クロだ」


「クロね、覚えたぜあんたの名前」


 アキラと名乗った青年はこちらに手を差し伸べる。俺はその手を取り握手をした。


「なあクロ。俺と一戦…」


「あ~!お兄ちゃんここに居た!!」


 アキラが言葉を最後まで発する前に、それを遮る者が居た。

 突然現れアキラを兄と呼んだのは、綺麗に切り揃えられた白髪がよく似合う、溌剌とした少女だった。


「も~、お兄ちゃん!とっくに朝ご飯の時間だよ!」


 そう言って少女はアキラの手を引っ張る。


「ま、待てヨウ!俺はクロと…」


「待たないよ!ご飯冷めちゃうでしょ~!ツキも待ってるんだから」


 そう言ってアキラを引っ張りヨウと呼ばれた少女はどんどん離れていく。


「クロッ!また今度俺と~ッ!」


 最後にアキラは何かを言おうとしていたみたいだが、その言葉は喧騒に飲まれ聞こえることは無かった。

 何と言うか、騒がしい兄妹だった。アキラと共に剣を振った時間は自分でも驚くほどに楽しかった。

 案外俺も、同好の士を望んでいたのかも知れないな…。アキラの去った広場で俺は柄にもなく、センチメンタルな気分になった。

 だが、どうしても俺には気になることが有った。


(何故妹の方はメイド服を着ていたのだろうか…)


 そう、ヨウと呼ばれた少女は何故かメイド服を着ていたのだ。それもスカート丈のかなり短いタイプの。

 まあどんな服を着るかは個人の自由だしな。例え剣の同士だと思っていたアキラが、妹にミニスカメイド服を着せる様な変態であったとしても、俺は気にしないよ。

 さて、そろそろ宿の食堂も開いた頃だろう。俺も宿へと戻ることにした。







 宿に戻ると、入口にノノが居た。彼女は俺を見つけると、小走りでこちらに駆け寄って来た。


「…何処か行ってたの?」


「…ああ」


「…剣?」


「…ああ」


「…そっか」


 何と言うかノノとの会話は凄く楽だなぁ。何となく俺はノノにシンパシーを感じていた。

 俺は正直喋るのが苦手だ。面倒くさいと言うのも有る。そして俺は彼女も同じなのでは無いかと思っていた。

 コミュニケーションが苦手な者同士特有の何か感じるものがきっと有るのだろう。だから彼女は俺の少ない言葉から全てを察してくれるのだ。多分。


「…食堂開いてる」


 ノノはそう言うと俺の手を引っ張って食堂へと歩き出した。丁度俺も食堂に行こうと思っていた所だ。

 特に抵抗をすることも無く、ノノに着いていくことにした。

 食堂に着くと、既に席に着いていたブレイブと三人で食事をする。

 皆が食べ終わった所で、『今日は帝都に行くための情報を調べてくるよ』と言ってブレイブは何処かへ出掛けて行った。

 ノノは今日は俺に着いてくるらしく、食事が終わると肩に張り付いてきた。最近何かとノノが俺に引っ付いてくる。

 一度何故かと聞いた事が有るが、その時はマナを補充したいからだと言っていた。なんでも俺の体からはそれなりに濃いマナが漏れ出ているらしい。

 なんかそれだけ聞くとちょっと汚い気がする…。正直ノノは軽いので引っ付かれても特に気にならない。なので特に何も言わずに引っ付かせていたのだが、最近は魔物の討伐の時以外はいつも引っ付いている気がする。


「…今日は何処に行くの?」


 引っ付いているが故に、至近距離からノノの声が聞こえる。

 今日は昨日と同じ森の広場に行こうと思っていた。あそこなら思う存分剣が振れるからな。


「…森に行く」


「…分かった」


 本当ならば一人で行きたい所だが、まあノノ一人が着いてきた所で問題は無い。何かを忘れている様な気もするが…まあ大した事では無いだろう。きっと。

 ノノを肩に引っ付けたまま宿を出ると、俺を見るなり近づいてくる影が一つあった。


「ししょー!おはようございます!!」


「…おはよう」


 マリーだった。何かを忘れている気がしていたが、彼女の事だったか。それにしてもいつから待っていたのだろうか、朝帰ってきた時には見かけなかったのでその後からだとは思うが。


「…弟子が居たの?」


 俺の肩から疑問が投げかけられる。なんと答えた物かと考えていると、俺の代わりにマリーが答えた。


「はい!昨日から弟子にしてもらいました!ししょーのお仲間さんですか?」


 流石は俺の弟子だ。師匠の代わりに答えてくれるとは…その時俺に電流が走った。そうだ、自分で喋るのが面倒くさいならば弟子に喋らせれば良いのだ。

 天才的発想では無いか!


「…そう、あなたは?」


 ノノはいつの間にか肩から降りていた。


「私マリーって言います!」


「…私はノノ、よろしくマリー」


「はい!ノノちゃんですね!よろしくお願いします!!」


 マリーはノノの手を取ってぶんぶん振る。ノノは小さく『ちゃん…』と呟いていた。

 見た所ノノとマリーは同じ位の歳だし、ちゃん付けでもおかしく無い様に感じるが。

 その時、更に俺に電流が走った…!そうだ、マリーの事はノノに任せておけば、俺は一人でゆっくり素振りが出来るのでは?と。

 な、なんて事だ…あ、悪魔たん。悪魔的発想!勿論弟子にした以上俺も本気で剣を教えるが、ノノから学べる事も多い筈だ。

 そうなれば善は急げだ。なるべく早く行って、なるべく多くの時間剣を振ろうでは無いか…!ハッハッハッ!!


「…行くか」


「はいししょー!」


「…うん」


 そうして、マリーを入れた三人で昨日の広場へと向かうのだった。

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