表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/19

013 ゴブリンの老婆②

「嬢ちゃん…エルフだね?」


 老婆から掛けられた言葉にノノは驚いた。確かに自分はエルフと呼ばれる種族であるが、一般的に言われるエルフとは全く外見が一致しないからである。

 にも関わらず、一目見ただけでそれを看破してきた老婆に警戒心を覚えるのは当然の事であった。


「…そうだけど」


「おっと、すまないね、怖がらせるつもりじゃ無かったんじゃが」


 老婆はやれやれと戯けた様子で肩をすくめる。


「…貴方は」


「ああ、儂は見ての通りゴブリンじゃよ、ちょっと歳を取っただけのな」


 いきなりすまんかったの、そう言って老婆はノノの横を通って行った。老婆の事が気になったノノは少し着いていく事にした。

 老婆は少し歩いて、先程までノノが居た場所で足を止めた。


「…貴方もイカナ山を調べてるの?」


「ほう?嬢ちゃんはイカナの事が気になるのかい?」


「…そう」


「そうかそうか、儂はこれでもイカナについてはそれなりに詳しい、知りたい事があれば教えてやってもいいぞ」


 そう言って老婆は、閲覧用のスペースへと向かい、椅子を引いて手招きをする。

 正直かなり怪しいが、これと言った成果を得られなかったノノは老婆の口車に乗る事にした。


「…じゃあ聞いても良い?」


「ああ、儂の知ってる事ならな」


「…あの山に赤龍が居ることを知ってる?」


 ノノがそう問うと、老婆は少し驚いた顔をした。


「ほぅ、まさか嬢ちゃんあの山に入ったのかい?」


「…うん」


「それで赤龍に会った、と?」


「…そう」


「はっはっはっ!彼奴にあって良く無事だったのう!」


 老婆のその反応に、ノノは思わず体を乗り出す。


「!…知ってるの?」


「ああ、知っているとも、だが彼奴についての詳しい事は教えられん」


「そう…なら一つだけ」


「なんじゃ?」


「…あの赤龍は、そこの文献に載ってる守護龍なの?」


「儂はまだ文献を読んで無いが…載ってるのとは違う龍じゃな」


 文献を読んでいないと言うのにも関わらず、違うと即答した老婆にノノは驚いた。


「…読んで無いのに分かるの?」


「ああ、分かるとも、彼奴の存在はその辺の本などには載っとらんよ」


「…そっか」


「そうじゃ、それと赤龍の話はあまりしない方が良いぞ。お主の為にもな」


「…分かった」


 あまりに真剣な顔で語る老婆に、ノノは頷くしか無かった。


「さて、そろそろ閉館の時じゃな」


 老婆はそう言って席を立つ。確かに先程六時の鐘が鳴ったのだから、閉館の時間は近い。


「…わざわざ閉館時間ギリギリに来たの?」


 この老婆はイカナの文献を探しに来ていた筈である。そんな時間の掛かりそうな事をするのに、閉館時間ギリギリに来るだろうか?

 そう問うと老婆は笑って返した。


「はっはっはっ!ここには懐かしい気を感じて来たんじゃがの、気のせいじゃったわ!」


「…そう」


「ま、嬢ちゃんの中にイカナの地のマナを感じるから、それに引き寄せられたんじゃな」


 確かに自分の体質的は外からのマナを貯め込む物だ、マナに敏感な者であれば感じる事は出来るかも知れない。

 じゃあの、と言い残して老婆は去って行った。少ししてノノは、老婆の名前も聞いていない事に気が付く。


(まあいいか…なんだかまた会えそうな気がするし)


 そうして、ノノは宿への帰路に着いたのだった。




------




 久しぶりに剣だけを振る時間が取れるとあって、俺はワクワクを抑えられなかった。

 村を出てから一番早い速度で地をかける。町の中だとどんな邪魔が入るか分かった物では無いので、念の為に近くの森で振る事にした。

 あまり町から近過ぎても良く無い、丁度良い場所は無いものかと森の中を駆ける。一時間程走った所で丁度良い広場を見つけので、そこで振る事にする。

 やはり素振りは良い!!生物を相手にするのとは違った良さがある。自分のタイミングで好きなだけ、それだけに集中して剣を振る事ができる。

 あゝ、何と素晴らしき時間だろうか。この場に着いてからあまり時間は経っていないが、振った回数は既に百を超えているだろう。

 これだ!俺はやはりこの時間を求めていたのだ!村を出てから早二週間、始めの一週間は森を抜ける為に、後の一週間はお金を稼ぐ為に剣だけの時間を取ることが出来なかった。

 つまり禁欲明けの素振り。意図せず素振り禁をしていた俺にとって、この久しい素振りの時間は麻薬の如き快楽であった。

 麻薬とか話でしか聞いた事が無いから想像だけど。


「ふっ…!ふっ…!ふっ…!」


 なんかテンション上がって来たぞ!捻りとか加えてみるか。下から振ってみたりして!おらおら!回転してみちゃったりも!?

 た、楽しい…!やはり、一度離れてみたからこそ分かる良さと言う物もあるのだな…!そう考えてみると素振り禁の日々も悪くは無かったかも知れない。


「綺麗…」


 ん?何か今人の声がした様な…?まあ気の所為かな。俺の素振りは佳境に来ていた。素振りの佳境とは何だと自分でも思わなくは無いが、とにかく佳境だった。

 下から振って、横から振って、はいここでジャンプしてターン!完全に決まった…!満足感と共に顔を上げると、金髪の少女と目が合った。

 ひょ?


「…」


「…」


 暫くその少女と睨めっこの状況が続いた。悠久の時経ち…実際には一分も経っていないが、少女がハッとして声を上げた。


「えっと、今の剣舞とても、とても綺麗でした…!!」


「…ありがとう」


 少女はとても興奮した様子だ。鼻息が大分荒い。ふんすと音が聞こえてくる様だ。

 まあ剣舞などでは無くただの素振りな訳だが、褒められて嫌な気はしない。


「えっと、えっと、それでですね!私にもその剣を教えて下さいませんかっ!?」


「…何?」


 教えてと言われても俺から教える事など無い。俺は心行くまで剣を振っているだけなのだ。


「あのあの!私、冒険者なんですけど、全然強くなれなくて…ししょーの剣すっごくすごいです!私もししょーみたいな剣を振りたいんです!お願いします!!」


 どうやらこの少女は冒険者であるらしい。改めて少女を見る。肩程まで伸ばした髪を後ろで一括りにしている。服装は上は肌色に近い長袖で、下はショートパンツを履いている。ブーツから伸びる靴下は、太腿の中程まである。そして腰には二本のダガーが下がっていた。

 うーん。正直俺と同じ様に、剣を振るえる様になるとは思えない。そもそものスタイルが違う様に思うし、それに最近ちょっとでも暇が出来ると、ブレイブが剣を教えて欲しいと頼んでくるのだ。

 これ以上俺の素振りタイムを取られたくは無い。後師匠では無い。まだ教えるとは言っていない。

 何よりも面倒臭い!!俺はなるべくなら、食べて寝て剣を振る、自堕落な生活を送りたいのだ。

 断ろう。


「…(君の気持ちは)分かった…だ」


「!やったぁ!ありがとうございます!!ししょーの言う事は何でも聞きます!!」


 !?いや違う!最後まで話を聞け!!


「嬉しいです!ししょー!」


「…ああ」


 そう言って彼女は俺の手を取って、上下に勢いよく振り始める。

 俺は悟った。これはもう断れない。彼女の嬉しそうな笑顔を見ていると、勘違いだと言うのはとても憚られた。ブレイブの時の二の舞である。

 だが、よく考えれば俺が教えられる事などそもそも無いのだ。精々がいっぱい剣を振ろうねって位だ。

 俺から教わる事が無いと分かれば、自然と俺の元を去って行くだろう。

 それに、隣で素振りをさせておけば、俺も素振りが出来る!完璧では無いか!


「…同じ様に振ってみろ」


「はい!ししょー!!」


 そうと決まれば行動あるのみ!俺はただただ剣を振る。それに対して少女は元気よく真似をし始めた。







 少女と共に剣を振り始めて一時間程経っただろうか。その間ずっと、剣を振りっぱなしだった為、少女は息を切らして倒れていた。

 正直ここまで着いてくるとは思っていなかった。見た目から推測するに歳の頃は十六歳前後と言った所であろう。

 筋肉などもそこまで発達しておらず、冒険者、と言うよりも剣を持ってからの日も浅い様に思える。

 ブレイブでも一時間も着いてこられなかったのだ。ダガーとショートソードと言った武器の重さの違いもあるとは言え、着いてこられるとは思わなかった。

 そこまで彼女を突き動かす何かがあるのだろうか。


「…水も飲んでおけ」


「はぁはぁ…ししょー…ありがと…ございます…」


 持って来ていた水筒を少女に渡すと、彼女は一気に飲み干した。余程喉が渇いていたのだろう。

 それにしても、無理をし過ぎている様に思う。正直適当なタイミングで勝手に休憩を取るだろうと思っていたのだが、俺の予想とは裏腹に倒れるまで剣を振り続けたのだ。

 無理をすれば後が続かない。楽しく程々に、そして地道にやる事こそ上達に繋がるのだ。


「…あまり無理をし過ぎるな」


「はぁはぁ…でも、私早く強くなりたいんです!!」


 強くなりたい、またもそう語る彼女の目は真剣その物だ。


「…怪我をすれば、振れなくなる…強くなるのが、遅れるぞ」


 今でこそ俺は一日中剣を振っていられるが、最初からそうだった訳ではない。

 昔無理をし過ぎて怪我をした時、剣が振れなくて悔し涙を流した物だ。その時から俺は楽しく、そして程々に剣を振る事に決めたのだ。

 無理をすれば体も心も不調になってしまう。それだけは避けなければならない。


「…はい」


 分かってはいるが、納得はしていない表情で少女は頷く。剣を教える気も無かった、ただ流れで引き受けてしまった師弟関係ではあるが、ここまで本気の彼女にはこちらも真剣に向き合わなければ失礼だ。

 俺の教えれる事なぞ大した事は無いが、それでも何もしないよりはマシだろう。


「…もう少し力を抜け」


「!はい!」


「…全身を連動させるんだ」


「こうですか?」


「…出来る様になるまで真似ろ、何回でも」


「はい!」


「…楽しく程々にな」


「分かりましたししょー!」


 その後は体の使い方等を教えた。休憩を挟みながら程々に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ