011 冒険者になろう!
生まれて初めて他の町を見たけど、めちゃくちゃデカいな〜。町を囲う壁も、町を囲ってた龍の骨くらいデカいし。
人もめちゃくちゃに多い。人間ってこんなに数居たんだなぁ。
後この冒険者協会と言う建物がめっちゃデカい。こんなにデカい建物何に使うんだ。
ブレイブに着いて建物の中に入ると、更に驚かされる。中は吹き抜けになっており天井が兎に角高い。
右手にはボードがあり、そこに様々な紙が貼られていた。魔物の絵なども描いてあったので、あれがクエストと言う物かも知れない。
奥には受付と書かれたカウンターがあるので、恐らくそこでクエストを受けたりするんだろう。
そして一番気になるのが、左手にある長いカウンターである。冒険者と思われる人々が、魔物の素材をカウンターの上に出していた。
恐らく魔物の素材の買取をしているのだと思うが、凄い熱気に溢れていた。丸く加工された金属受け取ってたし、多分あれがお金ってやつだろう。
はえ〜、すっごい。
「…ほぉ」
「そうか、クロは村から出た事が無いから初めてだよね。この位の大きさの町のギルドだと、この時間はいつもあんな感じだよ」
ふと俺は谷に落ちる前に剥ぎ取ったトカゲの皮が、ポーチの中に入っている事を思い出した。
まあ割と一般的な素材だしそんなに値段は付かないだろうけど、もしかしたら食事代の足しくらいにはなるかも知れない。
「…何でも買い取ってくれるのか?」
「魔物の素材なら基本的に買い取ってくれるよ」
「これもか?」
そう言って腰のポーチからトカゲの皮を取り出す。
「!そうか!飛ばされる直前に剥ぎ取ったから持ってたんだね!きっといい値段で買い取ってくれるよ」
おお、それは良かった。正直お金の価値等全く分かってないが、ブレイブがそう言うのならばそうなんだろう。
「でもその前に冒険者登録をした方が良いね。素材の買い取りもランクを上げる為の評価に関わるからね」
「…成程」
正直ランクとやらはどうでも良かったが、どの道冒険者登録はするのだ。先に行った方が良いのならば、そうしようではないか。
買取は一先ず置いておいて、受付と書かれたカウンターに向かう。
「こんにちは。今日はどの様な用事でしょう?」
カウンターの前に立つと若い女性職員に声を掛けられた。
「…登録をお願いする」
「はい、かしこまりました。ではこちらに記入をお願いします。文字の読み書きは大丈夫ですか?」
「…問題ない」
読み書きに関しては村で教わった。旅好きのババアが何かと本を持って帰ってくるので、その本を読む為に皆覚えた。
村には娯楽が少ないのだ。
「ほう、クロは読み書きが出来たのか」
ブレイブが意外そうに聞いてくる。そんなに驚く様な事なのだろうか?
「…ああ、村の皆、出来る」
「それは凄いな…帝都でも出来ない者も、少なくはないんだけどね」
…もしかして帝都って物凄い田舎なのか?確か本には国の中心地と書いてあった気がしたのだが…行くのちょっと怖くなって来たな。
まあ良いか、気を取り直して渡された用紙に目を通す。書く項目は結構少ないな、名前、年齢、出身地、主に使用する攻撃手段か。
名前はクロ・スミス、年齢は多分十八、出身地は…え?何処だ?そう言えば村の名前とか知らないな…
書く手が止まり悩んでいると、職員さんから声が掛かる。
「大体で構いませんよ」
あー、そうなのね。なら出身地は森、と。書いた瞬間、職員さんとブレイブから『んぐっ!』っと何かを我慢する様な声が聞こえたけど多分気のせいだろ。ノノは『私も』って言ってた。
と言うかノノよ、いつの間に俺の肩の上に登ったんだ…まあ面倒臭いからこのままでいいや。
得意なのは剣っと。これで良いかな。書き終わった用紙を職員さんに渡すと、『少々お待ちください』と言って半笑いで奥に消えて行った。
「クロ…村の名前とかは分からないのかい?」
「…聞いた事が無い」
外から来る人も居なかったし、わざわざ名前呼びする機会が無かったんだよなぁ。
村で皆通じるし。
「君も意外と抜けてる所があるんだね」
ブレイブは何処か安心した様に言った。何のことかはよく分からなかった。
少しすると職員さんが戻って来た。
「お待たせしました。申し込みは完了になります。冒険者証についてはまた後日、取りに来てください。もしその間にクエストを受けたり素材を売る場合は、こちらのカードを提示してください」
そう言って職員さんは一枚のカードを渡してくれた。そこには俺の名前とランクが書かれていた。
「正式な冒険者証が出来るまでの仮の物となります。そちらを提示して頂ければ、冒険者証と同じ手続きが出来ますので」
「…成程」
なるほどね?
「それから冒険者協会に所属して頂く事になるので、説明をさせていただきますね」
「…ああ」
…うーん、お腹すいた。
「まず、最初はランク十からのスタートになります。達成したクエストや、討伐した魔物の強さ等に応じてランクを上げさせて頂きますが、上位のランクになると、加えて試験を受けて頂く事もあります」
おーん。
「また、問題を起こした場合は降格処分、もしくは永久除名等もあり得ますので振る舞いには注意ください。ランクに応じてギルドから緊急要請を出させて頂く事がございます。拒否していただいても構いませんが、普段よりもランクの上昇のポイント等は多くなりますので、なるべく従って頂けると助かります」
ほう?
「では、今後ともよろしくお願いしますね。ご活躍をお祈り致します」
「…ああ」
職員さんが綺麗なお辞儀をしている。気が付いたら話が終わってた。九割位話聞いてなかったけど、ブレイブも居るし、多分大丈夫だろう。
「さて、登録も終わった様だし、買取に行こうか?」
「…ああ」
そのまま買取のカウンターへと向かう。正直お腹も空いてるし、長い説明も聞いたしで、頭が全く回らない。
「買取をお願いしたいのだが」
「はい!ありがとうございます!こちらにどうぞ!」
いつの間にかカウンターの前に着いていた。さっきの職員さんは落ち着いた感じだったが、今度の職員さんは元気一杯だ。
「…これだ」
俺はポーチからトカゲくんの皮を取り出し、仮冒険者証と一緒にカウンターの上に置く。その瞬間周囲がざわついた気がした。
「これは…!少々お待ち下さい!!」
職員さんは皮を見た瞬間目を見開いたかと思うと、皮を持ってばたばたと裏に向かって行った。
『おい、あれって本物か?』
『そんな訳無いだろ、あいつさっき冒険者登録してたぜ?』
『だが、持ってる剣は剣と呼ぶには余りにも太いぞ?』
『あんなもん、使える訳ねーだろ。使えたとしても切れ味なんて殆どない、精々が盾の代わりだろ』
『後肩に乗ってるちっこいのは何だ?』
何やら周りの冒険者が騒いでいる。肩に乗ってるのは俺もよく分からん、見た目は可愛いから妖精かも知れない。
力はゴリラだが。
「…」
肩から無言の圧力を感じる。死の危険を感じたのでこの事を考えるのは辞めた方が良いかも知れない。
少しすると、奥から筋肉の凄い、ザ親方な見た目のスキンヘッドの男が出て来た。
こっちにもゴリラか…
「おう、これを買い取って欲しいってのはお前らかい?」
「…ああ」
そうだよゴリラ。
「ほう?冒険者証を確認したらまだひよっこじゃねーか。どうやってこいつを手に入れた?」
「…斬った」
「きった?お前がか?」
「…ああ」
「ほぅ」
ゴリラは気になる事があるのか、俺の事をじろじろを舐め回す様に見ている。
「確かにそれなりの実力はありそうだが…まあ良いか。なかなか手に入らない物ではあるが、死体が川に流れ着く事もあるしな」
それ近所歩いてたら死ぬ程手に入るよゴリラ。ゴリラの発言を聞いて周りが一層騒がしくなる。
「それよりも俺を見てもビビらないとは、新人にしては肝が座ってるしな!」
『気に入った』と言いながらゴリラは俺の肩をバンバンと叩いてくる。俺はゴリラに好かれやすいのだ…イタタタ!!肩が痛ぁい!!!
「…何?」
ノノを見ると不機嫌そうにそっぽを向かれた。くっ!このゴ…麗しい天使め。
「しかしえらく状態が綺麗だなぁ…何発で仕留めた?」
「…一発だ」
「ははは!言うじゃねーか!もし坊主の言う事が本当なら、お前はきっと剣聖になれるな!」
ははは!ゴリラも言うじゃねーか!剣聖ってあれだろ?凄く剣が凄い人の事だろ?ババアにも勝てない俺じゃ無理だよ。
「かなり状態もいいし、こいつは二十万ドルゴーってとこだな」
なんだドルゴーって、ゴリラの言葉か?ああ、お金の単位の話か。
「二十万!?そ、そんなにするのか?」
「ああ、イカナの竜の素材なんてそうそう入ってくる物じゃ無いからな。状態の良さもあるし、これくらいは付く。この値段で良いかい?」
「ああ…大丈夫かいクロ?」
「…問題ない」
ブレイブに確認されるが、そもそもそれが良いのか悪いのかも分からん。反応的に晩御飯くらいは食べれそうだな。
「じゃ、ちょっと待ってな」
そう言ってゴリラは再び奥に戻っていく。と、思ったら小さな袋を持ってすぐに戻って来た。森に帰ったんじゃ無いのか。
「ほら、一万ドルゴー金貨が二十枚だ確認してくれ」
「…ああ」
受け取って中を見ると、金をコイン型に加工した物が二十程入っていた。
うーん、全く分からん。まあ二十個入ってるから問題無いでしょ。
俺はそのまま袋をブレイブに渡す。
「えっ?!」
「…任せた」
金の使い方も、何も分からないので全てブレイブに任せる事にした。
「!分かったよクロ!任せてくれ!」
「…あ、ああ」
予想外に気合の入った返事が返ってきて少し困惑してしまう。お金の管理好きなのかな?
「また面白いもん持ってこいよ坊主!」
『ガッハッハッ!』と大きな笑い声を上げながら、ゴリラは今度こそ奥へ消えて行った。
まあ、いいや。今日は疲れたからそろそろ休みたいなぁ。
「…宿を探そう」
「そうだね。ちょっと受付で聞いてくるよ」
ブレイブが受付に行こうとしたその時、何者かが俺たちに話しかけて来た。
「もしかして君たち、イカナから来たのかい?」
俺たちはその声のする方へと向き直る。そこには全体的にゆったりとした服を着て、長い金色の髪を肩のあたりで結んだ男が立っていた。
「貴方は?」
「これは失礼。僕はランク四冒険者のエノクだよ。よろしくね」
人好きのする笑顔でその青年は名乗った。