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6話「兄上、熊を狩りました」

 拝啓 兄上


 ここ辺境もすっかり春です。兄上は王都でいかがお過ごしですか?俺の方はというと春と言えば熊狩りの季節なので、今シーズン初の熊を仕留めてきました。ゴルディと精霊たちにも手伝ってもらいました。もちろん、俺もゴルディも無傷なので安心してくださいね。



 *──*──*──*──*


 今日も俺は日課の冒険者ギルドで依頼用紙を一通り眺めている。冒険者登録もしているし、依頼をざっと見ることで必要そうな薬草の採取や薬を多めに調合をするために来ている。あと、採取がてらに達成できそうな依頼があればついでにこなす。

「そろそろありそうだけどなー」と思いながら依頼用紙を眺めていると見つけた。


 ◆◆ー【緊急】【討伐】ー◆◆  ★★★☆☆


大牙熊(グラズバルト)の討伐」


依頼主:冒険者ギルド

報酬:討伐人数より変動(最低一人当たり銀貨8枚は保証)

内容:中層部にて大牙熊の目撃情報が複数あり。浅層部に向けて移動していると思われるため早急な討伐が必要

募集内容:Cランク以上※原則として、Cランクの場合は合同パーティー推奨


依頼の詳細は受付にて対応します。依頼用紙は剥がさず、受付に申し出てください。

 


 ……ここまで読んで受付へ急ぐ。

「待ってろ、俺のユウターーン!!」

 いやー、春と言えばやっぱ熊だよな。ユウタン、熊から採れる素材なんだけど冬の間は採れないからずっと待ってたんだよな。ご機嫌でギルドの受付に向かう。

 

「はい、この依頼お願いします!これ、ギルドタグね」

「……えーっと、パーティーメンバーをお伺いしても?」

「え、ソロですけど?何か問題でも?」

 初めて見るな、この受付のお姉さん。新人さんかなー。

「えーっと……Cランク、ですよね?ちょっとギルド長に確認して来ますね」

 

 パタパタと二階に上がっていく新人さん。

 ★3つの依頼ならCランクで受けても問題ないけど、今回は緊急依頼だから通常とは違うのかもしれない。それか原則として、Cランクの場合は合同パーティー推奨の部分の確認かな。


「Cランクのソロが大牙熊の討伐依頼持ってきたってぇ?」

 まだ階段の上から聞こえるこの声はギルド長だな。ひょいと顔を覗かせたその人にヒラヒラ手を振ってみせる。

「やっぱりリシアンか!」

 ギルド長がこちらにやって来た。

 

「久しぶりっすね、ギルド長。今年も熊狩りに来ました」

「たまにはうちの冒険者どもにもその依頼は残しておいてほしいんだが……まぁ仕方がないな」

 ギルド長自ら、依頼用紙に受注の押印をしてくれる。

 

「あぁ、こいつが持ってきた依頼は次からそのまま通していいぞ。こいつの対応はこのまま俺がするから」

 新人さんはそれを聞いてから、ペコリと頭を下げて別の冒険者の対応へと向かって言った。


「俺も冒険者登録してるんですけどー」

「本業薬師でほしい素材の依頼しか受けないやつを冒険者とは思わん」

 ひどいなぁーなんて軽口を叩きながら依頼の詳細を聞く。

「……なぁ、リシアン?前も言ったがそろそろランクアップしないか?さっきは冒険者とは思わんとは言ったが、Bランクの実力はとっくにあると思っているんだ」

 ギルド長が俺をじっと見つめてきてそう言う。

 

 俺はランクにこだわりはない。現状でもほしい素材の依頼は受けられるし。あと、Bランクってあんまり依頼を達成しないと降格するからな……。降格したときの手続きが面倒くさそうでランクアップは断っている。

 

「ほら、俺今は耳がこれだから。無理っすね」

 耳飾りを指で揺らしながらそう言う。ギルド長も俺の耳のことは知っている。

「そうか……そうだよな、まだ慣れないよな。まぁいい。気を付けていくんだぞ?」

 よし、今回も無事に断れたと思いつつギルドを出た。


 装備を整えて、ゴルディそして今日の討伐に協力してくれる精霊たちを集める。

「いいか、お前ら。作戦通りにやるぞ。まずは他の冒険者より先に熊を見つけないとな」

 冬の間に新しい武器を作ってもらった。鹿や猪で試しはしたけれど、初めて熊が相手だから少し緊張する。

「目標を見つけたらゴルディに知らせろ。深追いは禁止だ。よし、行け!」

「「「ピニァー!」」」

 一斉に精霊たちが散らばって飛び立っていく。


「ゴルディはここで待機な、精霊たちが熊を見つけたら頼むぞ。で、水の精霊のお前たちはここでこう……水の膜を張ってそれで俺たちの姿を隠せ」

「「ピニァー!」」

 何かやたら張り切ってるな、精霊たち。魔獣とは相性が悪いにしても何でこんな乗り気なんだろ。手伝ってくれて助かるしまぁいっかと思いながら、俺は木に登って待機する。

 

 ……思ったより熊が見つかった報告が来ないな。想定より森の浅層部に近いところにいるのかもしれない。そう思いながら待っていると、ゴルディが片耳をピクッと動かしてから駆け出した。熊が来る!


「ブルルルルァァァァ!!」

「グオオオオォォォォ!!」


 怪獣大決戦かよ。互いに吠えて威嚇している。大牙熊は威嚇の声でも攻撃してくるんだけど、ゴルディも一向に引かない。むしろ互角。

 4メートル……ちょいくらいかな。まだ小さめだし若い個体なんだろう。じりじりとゴルディの方が押している。もうちょい、もうちょっと近付いたら射程範囲に入る。俺は息を殺しながら、腕をすっと上げて射出機の照準を合わせる準備をする。


 来た!


「第一陣、いけ!」

 俺の号令とともに土の精霊と木の精霊が熊の足場を絡め取って身動きを取れないよう捕縛する。止まった獲物は狙いやすい。すぐさま照準をピタリと合わせる。


「……ピイィィン!」

 と微かに音を立てて、手首に付けた装置から高速で発射されたそれが熊に当たる。

「グッ!!」

 よっしゃ、狙い通りに眼球に刺さった。発射された反しがついた針は、ちょっとのことでは外れはしない。光があたると刺さった針先から俺の手首にある射出機まで細い糸が繋がっているのが分かる。

 

「撃て」

「「ピニァー!」」

 ガイド線となった糸と同じ軌道に風の精霊が圧縮した空気弾を放つ。同時に、水の精霊が空気弾に魔法を纏わせる。

 綺麗に眼球から脳天に向けて空気弾は突き抜けていった。熊は声を上げることもなくそのまま倒れた。

 木の上から完全にとどめを刺せたかを確認し、ゴルディも頷いているので木から降りる。


「熊狩り大成功、イエーイ!!」

 ゴルディを撫で、精霊たちとハイタッチをする。

 熊は完全に事切れている。精霊たちが放った空気弾……水の精霊の魔法で突き抜けた跡は凍っている。血も滴り落ちないし、余計な傷もないし完璧な仕上がりだ。

 これで素材も丸ごと採取が可能だ。仕留めた獲物がボロボロに傷付いていたらこっちまで汚れるし嫌だったんだよなぁー。何ならそれと解体とが嫌すぎて冒険者じゃなくて薬師を選んだまであるし。


 風と土の精霊が持ち上げた熊を木の精霊がゴルディにくくり付けて固定する。

「よし、帰るか」

 待ち時間が長かったせいで、早い冒険者はそろそろ森の麓まで帰ってきそうな時間帯だ。

 急いで帰って開店の準備をしなければならないので、時間短縮のため熊の上にさらに俺も乗る。

 大丈夫、ゴルディは3人乗りもできるくらいの巨大馬だ。今日のより大きな熊を狩った時にもフツーに走っていたから問題ない。


 麓まで下りると、俺達を見た冒険者が二度見をしてくるからさすがにゴルディの手綱を引くことにした。

「うっわぁ!え?大牙く(グラズバル)……馬?!」

「何だこれ、新手の魔獣か?!」

「………………」


「またお前らか、ゴルディのことを魔獣って言うなっつってんだろ!」

 この間の3人組がまたゴルディのことを魔獣とかほざいている。……あいつら、マジ次の新薬ができたら試しに付き合ってもらお。そう決めた。


「ギルド長ー、ちょっと解体依頼を出したいんだけど!」

 ギルド内に入りきれない熊を入口のところに置いてきてから、声を掛ける。

「おう、リシアン戻ったか。大牙熊はどこだ?」

「こっちこっち」と入口の方までギルド長と向かい、倒れた熊をじっと見つめているギルド長。


「……リシアン、えらく綺麗だがこれは死んでいるんだよな?」

「もちろん!見てよ、ここ。穴が開いてるでしょ?で、ここだけ凍ってんの。それ以外は傷もないし、すげぇ綺麗に狩れたと思わねぇ?」

 ギルド長は俺に向き直ってにっこり笑った。

「依頼達成の手続きをするからギルドタグを出せ、リシアン」

 確かに解体依頼よりそれが先かと思いながら、ギルド長にタグを手渡す。


「やっぱお前、今日からBランクな。断るならこれは返さん」

「えっ。……はぁ?何でだよ」

 ずんずんと大股でギルド内に戻るギルド長を追いかける。

「うるさい」「Bランクのギルドタグにして返してやる」と言われながら……ギルド長権限で強制的にランクアップした。

 

 ちなみに熊は解体依頼に出して待望のユウタンなど必要素材を貰ってから残りは売った。肉も少しお持ち帰り。

 これはミレア姉さんに料理してもらおう。熊肉、調理は大変だけどめっちゃおいしいから好きなんだよね。……調理する人の腕次第だけど。

 熊肉料理の見返りにミレア姉さんにはどの素材を分けようかなーなんて思いながら家へと帰った。

 

 薬店を開店させないといけないし、傷みやすい素材はなるべく早く加工もしないと。

 熊狩りはおいしい依頼だけど、その後が忙しい。

主にリシアンのせいで依頼文に「原則として」が追加された模様。

リシアンがいなかったら「Cランクの場合は合同パーティー推奨」としか書かれなかったことを、彼は知らない(・∀・)

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