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片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww  作者: 康成


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後日談「新年祭」

 新年祭。王城には多くの貴族が色とりどりに着飾り、華やかな光景が広がる。

 壁の端、見慣れぬ青年が佇んでいる。20代前半くらいで歳の頃は近そうだが、見たことがない顔だ。

 角度を変えるとくすんでいた茶の髪は金色にも見える不思議な色合いで、片耳には贅沢にもドロップ型に研磨された魔石が揺れる派手な耳飾り。

 クラバットを弛める姿に見惚れる令嬢もちらほらといる。一見地味だが仕立てのよい礼装に身を包んだ彼は、ある人が近くに寄ると一気に表情が柔らかくなり……私も彼から何となく目が離せなかった。

 記者としての勘が、彼から目を離すなと言っている。



 ❖――❖――❖――❖――❖ 


「聞いてないんだけど!まだ秋はおいしいものいっぱいあるから嫌だって」

「我儘を言うんじゃない!」

 鈍い音で師匠からのゲンコツが炸裂した。

 新年祭には行くよ。表彰もあるから絶対に来いって言われているし。でも、こんな早くに王都に行って準備をしなきゃいけないなんて知らなかった。


「貴族としては未熟だろうが!この際、きっちり学んでこい。エヴァンハルトが手配しているから大人しく行け!」

「ちゃんと言葉遣いとか食事のマナーは大丈夫なんだってば」

 ミレア姉さんがいないとこんな感じ。大体は何か言い合ってる。

「ダンスは出来るのか?!」

 ……ダンス?社交にまつわるあれこれの教養はないわけで。


「……そう言う師匠は踊れるわけ?」

「無論」

 力強く言われた。師匠の体幹はダンスで培われたって嘘だろ……?

「王都にも色々名物料理はあるぞ?川魚ではなく海の魚料理もあってな、秋から冬は脂がのっていてうまい」

 魚料理。醤油があるから刺し身が食べれるかも?やっべ、ギンさんも誘わなきゃ。

 

「師匠も侯爵なんだから新年祭に行かなくていいの?」

「もう少ししてから行くから安心しろ」

 いや、むしろ安心できないんだけど。

「王都から数人の薬師が来るので、それを待ってから行く。お前が会った薬師たちから手紙が届いている」

 例の「王都薬師連合合同演習」の面子の数人か……熱心なのが多くてどれが来るか分からないな。辺境の植生に興味があり、しばらく移り住みたいとのことだ。

 薬師が増えるなら、それを理由に王都行きを引き伸ばすのも難しそうで諦めた。あと思い出したらやっぱ刺し身が食べたいしな。


 そうして再度王都のトピリア侯爵邸にお邪魔することになる。ヴァルディリア子爵家は王都にタウンハウスとかないからなぁ。

 トピリア家が俺の後ろ盾?みたいな感じになってくれるらしい。王都の滞在場所についてはフェルネス男爵家からの打診もあったけれど、話せないこともいっぱいあるから事情を知っているトピリア侯爵家に今回はお世話になる。


 そして待っていた地獄のダンスレッスン。

「リシアン様、表情もちゃんと意識してください!」

 初老の女性はダンスレッスンにおいてはプロとのことで、エヴァンハルト様が手配してくれた方だ。

「だらしがない姿勢で立たない!」

 ちなみに超厳しいことでも有名だということは後で知った。


「真っ直ぐ立ってると咄嗟に動けないじゃん?」

 だらしがないわけではない、癖だ。

「ここで何かに襲われることはありません」

 新年祭の夜会では、おそらく誰かとダンス必須みたいでマジしんどい。てか、俺と踊ってくれる奇特な貴族令嬢とかいねぇだろ。

 俺はデビュタントもしてないから、それも兼ねて必ず踊らないといけないらしいよ。さすがに18歳の新成人とは同じタイミングじゃなくていいらしいけどさぁ。


「踊る相手がいない場合はどうしたらいいんですか?」

「その時は私がお相手をします」

 ……それはそれでやだ。リズム感とか体幹は褒められた。ただ、優雅さが足りないと散々に注意を受けた。

 何だよ、優雅さって。そんなんどうすれば身に付くんだよ。

 お手本としてエヴァンハルト様が一曲踊ってくれたのを見て、これが優雅さかと理解した。


「エヴァンハルト様、さすがですね」

「兄と比べたら私のダンスの腕前は大したことはないのですよ」

 なんて言うからめっちゃ納得いかないんだけど。先生もエヴァンハルト様もすげぇ師匠のダンスの腕前を褒めているのは嘘だと言ってほしい。

 優雅に踊る……筋骨隆々の2メートルはあるジジイ。うん、全く想像がつかない。


 合格をもらえるのに1か月近くは要した。

「あの辺境の野生児がついにここまで……!」

 感動しているけど先生、本音がダダ漏れです。俺のこと辺境の野生児って呼んでいたんですね……。


 やっとダンスレッスンは終わったが、貴族あれこれの勉強は継続中。

 新しい貴族名鑑で、まだ覚えていない貴族の顔やら名前の暗記。子供の頃の記憶とはやっぱり印象が違う人も多くて大変。

 そして会話のマナーについてなど学ぶべきことは多い。


「疲れた……」

 俺、辺境の野生児だからマジで森に帰りたい。

 そんなタイミングでエヴァンハルト様からおいしいお菓子をもらったり、息抜きにと第三騎士団のとこに遊びに行ったりはして何とか過ごせた。

 忙しく過ごしていたから、師匠とは完全にすれ違いになって同じ邸内にいるはずなのに見かけなかったことだけはよかった。……それだけ俺が学ばないといけないことが多かったからだけど。


 そして今夜、新年祭で夜会デビューなわけだが気が重い。王家からの表彰ってめっちゃ目立つじゃん……毎年あるようなものではないみたいだしさぁ。

「リシアンお兄様、素敵です!」

 キラキラした目の妹を前にしたら頑張らざるを得なくなったけど。

「久しぶりだね、リシアン君。今日はよろしく頼むよ」

 まだ籍はフェルネス家にあるので、夫妻と共に入場する。王城の夜会会場に着いたら兄上とも合流する約束だし、頑張ろ。


「私も一緒に行きたかったわ。リシアンお兄様とダンスを踊りたかったのに」

 ルナリアはまだ夜会に参加できない年齢だからなぁ。

「ルナリアがいたら私もダンスを申し込める相手がいたんだけどね」

 マジで俺の相手がいない問題だよな。ルナリアは「本当に?」とうれしそうに笑っているから、ちょっと拗ねてたご機嫌も直ったかな?

 

「私のデビュタントのときはお兄様がお相手をしてくださいね?約束ですよ!」

 デビュタントの相手は婚約者か身内だったよな。これは兄枠として参加しろってことだな。

「ルナリアがその時も私を選んでくれるなら喜んで」

 その頃には婚約者もいるかもしれない。義弟のソランもいるし、俺に声が掛かるのか微妙なところ。

 こうしてご機嫌なルナリアと……置いていかれることが不満なのかむくれたソランをあとに出発した。


 入場まではフェルネス夫妻と一緒にいたんだけど、商会を持っている2人はあちらこちらから声を掛けられることも多く忙しそう。

 兄上と合流する約束もしているし、別行動とさせてもらった。

 いやー、貴族との会話とか無理だって。すげぇ疲れるしさぁ。クラバットを少し弛めて壁側でのんびりしてる。


「リシアン、やっと見つけた」

「兄上!」

 久しぶりに兄上に会えたし、初めてくる夜会はやっぱり緊張していて……やっとホッとする。

「兄上じゃなくてレオ兄さんでしょ?ほら、クラバットもきちんとしなさい」

 きゅっとまた堅苦しいなぁと思うところまで結ばれるけど、されるがままになっておく。

 

「はーい、レオ兄さん。あれ?少し痩せました?」

「敬語もなしって言ったでしょ?最近は忙しくてねぇ。甘味もそこまで好きってわけじゃなかったから、止めたからちょっと痩せたかも」

 レオ兄さん呼びにも、敬語なしにもまだ慣れないけどそんなことより。兄上って甘いものそんなに好きじゃなかったの?!

「兄上……甘いものそんな好きじゃなかった?」

「リシアンほど甘味好きっていうわけじゃ……そんなことより、僕たちはもうちょっと前の方で待機しなきゃいけないから行くよ!」


 兄上に連れられて……表彰もあるから会場の前の方で待機よりも!

 えぇー……甘いの好きじゃなかったら今までのは?もしかして俺に食べさせるために付き合ってたとか?そっちの方が断然、気になるんだけど!



 ❖――❖――❖――❖――❖


 久方ぶりに王家から褒賞を与えられる貴族がいることに会場がざわめいた。

レオナリス・ヴァルディリア様は聞いたことがある。学年は違っていたが、学生時代から医学の分野において非常に優秀な成績を収めていた方だ。

 この度、副医官総長になることも若いが納得の人選だ。伯爵位への陞爵もまた彼ら兄弟の功績ゆえにだろう。


 ただ同時に表彰されたリシアン・フェルネス様についてはほとんど聞いたことがない。ヴァルディリア家への復籍を認められたことからも、何らかの事情でフェルネス男爵家に移籍していたのだろう。

 この2つの家に接点はあったのだろうか?

 異例の王家から貴族に、彼への不干渉の通達があったことには驚いたばかりだ。

 さらに驚くべきは「自由の保証」という規格外の褒賞だ……。


 会場は続いてあったセイラン第一王子殿下の王太子任命に大いに盛り上がっている。

 しかし、私は「リシアン・ヴァルディリア伯爵令息」……彼についての記事を書かねばという使命に燃えた。

 誰に渡りをつけて、どんな質問をすべきか……考えているうちにも王弟殿下と親しげに話す彼は私の興味を引いてならない。

 記者の先輩達も多くいる……新人の私が割って入るのは難しいかもしれない。

 でも、こんなにも誰かが気になって記事にしたいと思ったのは初めてだから……負けたくないと思った。



 ❖――❖――❖――❖――❖


 デビュタントの儀礼も終わり、後は最難関のダンス……。すげぇ気が重い。先生……どこにいるんですか?相手してくれるって言ったよね。

 やべぇ、頭一つデカいからジジイがこっちに来てんのすぐ分かるんだけど。

「リシアン、待て!」

 そろーっと逃げようとしたら、さすがに声を掛けられて止まる。そして振り向いた俺は固まった。

「リシアン、似合っているわ」

 師匠にエスコートされてきたのはミレア姉さん……いつものきちんと纏めた髪ではなく、綺麗に編み込まれた複雑な髪型に結い上げている。


「相変わらずミレアに見惚れている場合じゃない!マナーを覚えてこいと言っただろうが、小僧」

 さすがに夜会でゲンコツは落ちなかった。

「いや、違っ……びっくりして。まさかミレア姉さんが来るとは思わなかったから」

 

 綺麗すぎて直視できないんだけど。


 思わず小さく声に出たそれは、きっちり聞こえたらしい。

「リシアンも素敵よ。ありがとう」

「……お手を」

 ダンスに誘う仕草はこれであっていたはず。ミレア姉さんもそって手を乗せて応じてくれて、曲が始まった。


「リシアン、上手ね」

 楽しそうに笑っているミレア姉さん。

「ミレア姉さんが上手だからだよ。ねぇ……姉さん?その、こういうとこ大丈夫?」

 離縁されてからずっと……ミレア姉さんは夜会に参加していない。トピリア侯爵家の養女になってからもそれは変わらなかったのに。

 あのクズでクソな元旦那がいるから。最初に会ったときのミレア姉さんは、男性不信って感じだった。

 次第に慣れていってくれたけれど、俺は夜会にこうしてやって来たミレア姉さんが心配。


「私ね?師匠のことはお父様でリシアンのことは弟だと思っているわ。2人ともとっても強いんだもの……だから私も平気よ?」

 綺麗なターンをするミレア姉さんのドレスがふんわりと揺れる。

「それよりも今日、リシアンの表彰の方が心配したわ」

 そう言ってくすくす笑うミレア姉さん。俺も力になれたのなら、それは本当にうれしい。

 長いようで短かった曲が終わって礼をする。初めてのダンスはすごく楽しかった……かもしれない。


「ミレアさん、次は私とお願いできますか?」

「喜んで」

 兄上と手を取って踊りだすミレア姉さんを見て、本当にもう大丈夫になったんだなと思って安心した。

 時折、何か楽しげに会話をしている。


「二代目ぇぇぇ!!」

「うわ、ちょっ……何なんですか、ギンさん?」

 そこの王族。急にやって来るのはマジでやめてもらえませんか?

「あちらの!レオナリスくんと踊っている麗しい女性は?!」

「……師匠の養女で、俺の姉弟子のミレア・トピリア嬢ですよ」

「レオナリスくんの次は俺もダンスにっ」

「ダメです」

 何か嫌だったから断った。穏やかな兄上ならともかく、ギンさんはダメだ。


「何でもするっ!何でもするから一曲だけでも」

「俺と師匠を倒してからならいいですよ」

 間髪入れずにそう言ったら

「それ何て無理ゲー……」

 うん、まぁ……師匠に物理で勝つのとか無理だしな。これで諦めてくれるだろうと思った俺が甘かった。


「ならば二代目、お相手を願おうか?」

 そのままギンさんに捕まって踊る羽目になる。

「何で、女性パート完璧なんだよ?!」

「王族の嗜みっ☆」

「絶対嘘だろ、それ!王族の嗜みって言えば何でも通ると思ってんじゃねぇよ。後でセイラン殿下とルイシン殿下に聞くからな?」

 それでもしっかり体に叩き込まれたステップで……俺は何が楽しくてギンさんをリードしているんだろうか。


 師匠は腹を抱えて笑っているし、兄上とミレア姉さんも楽しげにしている。

 おい、愛しの甥っ子たちの顔を見てみろ!あれは絶対に呆れてるからな。

 こうして俺の初めての夜会、最後の思い出はギンさんとのダンスとなった。

 




レオナリス兄上は口さみしいときに、かつてリシアンに差し入れてた名残で甘味を食べていただけ。

周りも「レオナリス様は甘味がお好きなんだな」と誤認。辺境の野生児ほどの運動量がなかったのでふくよかになった模様。


今後については不定期に後日談や過去エピソードなどを上げていく予定ですので、よろしくお願いいたします。

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