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片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww  作者: 康成


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40話「裁定」

 白銀の光は暖かくて、やさしかった。


 眩しくて目を瞑っていたけれど……淡い光の粒が消えていく。


「グッ……!」


 低い唸り声とともにハゲ散らかった頭が消えた。ザファルドが倒れたんだろう。

 で、俺は無傷?手にはくったりと横たわった精霊が乗っている。セイラン殿下の精霊に似ている。これは……。


「王族の守護魔法ってマジ半端ねぇ!!」


 絶対これそうじゃん!ギンさんが卵をレンチンの魔法で爆発させたときもだけど、オート発動ってエグくね?

 ザファルドが倒れたのを機に、第三騎士団が一斉に捕縛にかかる。いや、ルミちゃんが一番捕まえてる数多いかも。


「なぜ!私の精霊を奪った?!貴様何をしたんだ!」

 組み敷かれたザファルドが喚いているけど……

「お前のじゃねぇよ。セイラン殿下の精霊じゃん。はい、本当の主人のもとへ帰りな」

 そっとセイラン殿下に精霊を手渡す。一対というだけあって、よく似た2体が手を繋いで飛んでいる様子は綺麗だ。

 片方は少し小さく弱々しいけど、セイラン殿下と一緒にいたら大丈夫なんじゃないかな。


 セイラン殿下の顔色も精霊が戻ったからか、今まで見た中で一番いい。

「セイたん、お熱?!」

 ギンさんは慌てているけれど

「いや……今までで一番いい。こんなに呼吸も何もかも楽だったことはない」

 年相応の笑顔って初めて見た気がする。


「リシアン……」

 涙目の兄上から胸ぐらを掴まれた。思い切り引っ張られたせいで、掛けていたネックレスが飛び出て揺れている。

「何で……!何でそんな飛び出して……」

 俺にしか聞こえない小さな声で、死んでしまうかと思った……そう言った兄上の声は震えていた。

 床がポツンと一雫分、濡れた。

「無事でよかった……」


 震えを抑える兄上に、俺はどれだけ心配を掛けてしまっていたのかを今更ながら気が付く。

 そっか、俺の行動で兄上はここまで傷付く……自分が傷付く以上にそれはつらくて。

 

「ごめんなさい」


 俺はいつも自分のことばっかりで、兄上の気持ちに気が付いてなかった。いや、気が付いてずっと甘えていただけだった。心配させないようにと思って、ずっと間違ってた。

「兄さん、ごめんなさい」

 心を込めて、ずっとこれが言いたかった気がする。


 高笑いで思考は途切れたし、思わずビクッとした。

「玄蜘蛛!玄蜘蛛、リシアンを殺せ!」

 そう言って暴れるザファルドのところに兄上が真っ直ぐと向かって行って、殴った。

「僕の弟に二度と手を出すな!」

 ぽかんとその様子を見ていた。兄上が、人を殴った?てか、俺もこいつは蹴りの一発くらいはと思っていたけど……今見たのは夢か何かかな。


「いたぞ!蜘蛛はあそこだ」

 第三騎士団はやたら目がいいんだなーと思いながら、先程見た光景の衝撃が抜けないまま眺めていた。

 そして……


「チュンッ」


 正確無比なビームが一点を貫いた。 

 小さく床が焦げ、玄蜘蛛は一瞬にして消し炭となった。このビームって?


「こら、先に行くんじゃない。……あぁ、お前の天敵がいたのか」


 透き通る白銀の長い髪、尖った耳の人外と思われる美しいその人はあの時の……と思っていたら、先程ビームを放ったスノウモスルァーがこっちに勢いよく飛んできた。

 そして「褒めて!撫でて」とでも言うように擦り寄ってくる。

「スノウモスルァー、留守番は?来ちゃダメって言ったじゃん」

 仕方ないなぁーと思いながらも、この毛並みを前にしたら撫でるしかないよね。


「怒ってやるなよ、リシアン?そいつは今日は裁定者としてやって来ただけだからな」

 高位の精霊さんに手招かれて、スノウモスルァーが付き従う。

 周りが随分と静かだと思って見渡したら……セイラン殿下とギンさん意外は跪いてる。

 武装集団に至っては意識がないのか……完全に倒れている。


「貴方様は……」

 セイラン殿下がそう言うと

「そうだよ、私の可愛い子。本来ならこのような真似をした者の前に私が出るまでもないんだが……我が血族に手を出す愚か者がいるとはな」


「裁定を始める」

 高位の精霊さんが告げるとスノウモスルァーがザファルドの周りを舞う。厳かで、怖いくらいに綺麗だ。

 淡い白銀の鱗粉はザファルドの体に触れる度に黒ずむ。

「お前はもう魔法は二度と使えない」

 ゾッとするほど冷たい声で高位の精霊さんがそう言う。


「なぜ!私が何を……!」

 先程まで魔法を使って抵抗していたザファルドが、呆気なく第三騎士団の手によって昏倒させられる。俺の蹴り……不発のままなんだけど。


「その子たちも随分と弱っているな……」

 高位の精霊さんが、セイラン殿下の精霊をそっと抱えると眩い光がクルクル回って吸い込まれていく。

 一対精霊は見違えるほど美しく様変わりした。これが本来の姿なんだろう。


「始祖の精霊様、ありがとうございます」

 深々と頭を下げるセイラン殿下……。始祖の精霊様って、何?

 セイラン殿下は王族で、それよりさらに偉い人なの……かも。え、俺フツーに喋ってたのヤバくね?


「よい。元の姿に戻しただけで大したことはしていない。お前たち、その罪人は目障りだから連れて行け」

 第三騎士団、脳筋だからなぁ……。フツーに返事してザファルド一派を回収していく手際がいい。

 あの人数で、あんなに人間を運べるんだ。ちょっと引くわ。


 そうしてその場に残ったのはセイラン殿下、ギンさん、兄上、アグニスとその兄ちゃんにルミちゃん。

 俺も第三騎士団に紛れて一緒に出ていけばよかったかも。でもゴルディに精霊たちもいるし、何よりスノウモスルァーがしがみついて離れない。


「リシアンだけ随分とボロボロだな?」

 笑いながら治癒魔法をかけてくれる高位の精霊改め、始祖の精霊様。

「ありがとうございます……」

 そりゃあこっちだってよく分からんままボロボロだよ、もう。誰か事情を説明してくれ。


「お前たちはもうゆっくり休みなさい。そこの従魔は明日には私が連れて帰るから、今日は共にいるといい。随分と主人を心配していたからな?」

 可笑しそうにしているけど、何が?

 とりあえずスノウモスルァーがしがみついているのは心配しているからなんだな。

 思えば精霊たちもゴルディもずっとくっついて離れない。何か……俺が攫われたばっかりにごめん。

 あとゴルディはどうやってここまで来たんだろうか……?


 話は帰ってからかな。王族の2人と……護衛騎士のアグニスの兄ちゃんだけが残り、俺たちはセイラン殿下の指示で王城の客間へと案内された。

 さすがにゴルディは王城内の厩舎に置いていかざるを得なくて……めっちゃ嘶くから、精霊たちの何体かは宥めるように付き添っていた。


「リシアン、一体何があったんだ?」

 普段はうるさいアグニスの声も……ふかふかのソファーに座った瞬間、もう眠気には勝てなくて。

 スノウモスルァーはもふもふで気持ちいいし……抗えぬ眠気でそのまま眠ってしまった。

 さすがの俺も疲れてんだよ。

「ちょっと、まだ寝ないでください」

 ルミちゃん、スノウモスルァーが苦手っぽいから触ってこないの知ってるし。今日はもうこのまま……。



 起きた……というか、起こされたらもう夜で。

「腹減った……」

 仕方ないなぁと兄上がくれたクッキーを頬張り、まずは身綺麗にしてこいと風呂へ連れて行かれた。

 そして待ちに待ったご飯!セイラン殿下とギンさんは始祖の精霊様とお話やら、今回の顛末の処理に忙しいらしく不在。そして……


「知らない人から出された物を食べちゃいけません」

「毒耐性も少ないだろう?警戒心を持たなくては!」

「何でそこまで迂闊になれるんですか」

 散々だよ……。全員からこれだよ。

 

「食べ物じゃなくてたぶん飲み物で……」

「そういう事じゃないでしょう、リシアン?」

「はい……」

 ギンさんからもらった珈琲豆って言ってたから油断した俺が悪いんだけど、1人くらい庇ってくれてもいいと思う。

「あと新薬の研究とかで多少は毒耐性もあるし……」

「リシアン?」

「はい……」 


 そういう事を言っているのではないと兄上、アグニス、ルミちゃんからの説教と注意事項は夜が更けるまで続いた。


『リシアンはもうちょっと反省して!みんな心配したんだからね』

『そうだよー、すーっごく大変だったの』

『ゴルディアスもそう言ってたからね!』

 右から兄上たち、左からは精霊たちの声がする。

 俺に逃げ場はない。いまだ俺から離れようとしないスノウモスルァーだけは……と思ってたら、ガジガジと服を囓って……怒ってる?


 王都では知らない人から貰ったものはもう食べないし、二度と飲まない。

 早く辺境に帰りたい……改めてそう思った。



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