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片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww  作者: 康成


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37話「救出作戦」

「今日はリシアン、遅くないですか?」

 仕事が終わるとトピリア侯爵邸に帰る前に必ず僕のところに立ち寄ってくれるのに。毎回会えるわけではないから、ここ数日は来ていたことを伝え聞いているだけだが。

 今日こそはと思ったんだけだけどなぁ。

「二代目ならうちの班員も声掛けたみたいだけど、もうちょいでいけそうって言ってまだ残ってるらしいよ?レオナリスくんのブラコーン」

 ……王弟殿下の甥たちへの溺愛ほどではないと思うけどなぁ。


 この時間だからお腹を空かせているかもしれない。何かあったかな……と手荷物をしばらく探すとミレアさんからもらった飴が出てきた。

 色とりどりの丸い穴の開いた飴は目にも楽しい。

「何その飴、おいしそう!」

 手を伸ばす王弟殿下から飴の入った瓶をさっと避ける。


「王弟殿下、これはリシアンのなので。あと王族がいきなり食べ物を口にしようとしないでください。子供じゃないんですからね?」

「レオナリスくんが持ってるやつならいいじゃん。毒とか入ってるわけないじゃん?」

 困ったお人だなぁと思っていると、光の粒が集まって風乃の姿になった。


『…………!』

 ぐいぐいと僕を引っ張りながら、懸命に何かを伝えようとしているけれどその言葉は分からない。

「シュテート、いるかい?」

 僕の契約精霊のシュテートを呼び出す。風乃から話を聞いたシュテートも揃って僕を外に連れ出そうとする。


「リシアンに何があった?」


 鼓動が早くなる。落ち着け、と自分に言い聞かせる。

 風乃が何かを食べる真似だろうか……そしてパタッと倒れる。シュテートが倒れた風乃を引き摺る……。


「失礼します、ルミスです」

 影からルミスくんが現れる。

「王弟殿下、レオナリス様、第一王子殿下がお呼びです。リシアンが……王城内にて行方が分かりません」

 リシアンが、攫われた。頭から冷水をかけられたように……自分から血の気が引くのが分かった。




 ❖――❖――❖――❖――❖


「いやー、やっぱ頭いい人って違うんですね!さすがっすね」

 さっぱり分からんが延々と相槌はうっている俺。うん……前世、上司らしき存在からよく分からんままに叱責を受けたときのぼんやりした記憶が役に立つときがくるとは。

 何だっけ?さすがです、とかすごーいとかそんな感じで話せば乗り切れたはずのアレ。

 今、めっちゃ役に立ってる。とりあえずこいつが誰なのかも分かんないけど。


「すみません、ちょっと腹減って頭回んなくて」

「睡眠時間って大事なんですよ。そろそろ休まれませんか?」

 あれだよな、さ行で話せば間違いなかったはず。

 

「煙に巻こうとしてもそうはいきませんよ?」

 さっさと出てけよ、この野郎!

 ……これはさ行だけど、絶対に今言っちゃいけないやつ。危なかった、うっかり言いそうになった。

「すみません、まだ何か薬?残ってみるたいですげぇ眠たいです」

 実際疲れてるし……せめて出て行ってくんないかな?

 謎の小太りのオッサンと俺の戦いは続く……。



 

 ❖――❖――❖――❖――❖


「……リシアンがいなくなった。王城を出ていないことは確認は取れている」

 レオナリスの顔色が悪い。囮になればいいとは思ったが……ルミスが離れた隙をつかれた。

 私の周辺で同時多発に騒動が起き、そちらに人手を取られた。狙いはリシアンだったのか。


「ザファルド殿ですか?」

 静かな怒りを感じさせる、いつもの穏やかさが消えた低い声で尋ねてくるレオナリス。

 レオナリスの感情が揺らぐことは本当に珍しい。

 

「まだ確定ではないがな……。ルイシン、やつと接触してどうだったか?」

 弟のルイシンにそう尋ねる。秘密裏にルミスに連れてきてもらった。

「何とかしてリシアンを捕縛したいと躍起になっていましたよ。薬師を不正に名乗ったのではとか、勝手に貴族を名乗っている別人ではないかと……王国法をなめんじゃねぇって話ですよ」


「ルイたん、王族らしからぬ口調になってるぞー、このぉー」

「叔父上が一番王族らしくないんで。あんたも普段そんな感じに喋ってるんで、人のことは言えないから」

 ルイシンは本当に叔父上と仲が良いな。あの野心家の側妃の子だというのに、歪まずに育ったのは叔父上がいたからだろう。

「セイたんもルイたんも反抗期かな」


「叔父上はしばらく黙っていてください。話が進まないので」

「王弟殿下、リシアンが攫われたんですよ?あの子が今どんな思いをしているのか……」

 レオナリスが、その手が白くなるほどに固く拳を握りしめている。痛々しいまでだが……私にはどうもあの飄々としたリシアンが大人しくやられている姿は想像がつかない。


「ルイシン、なるべく早くザファルドと接触しろ。そしてある情報を流せ」

 レオナリスの様子を見るになるべく早く事を進める方がいいだろう。

 情報でおびき寄せて一気に叩くしかあるまい。

「リシアンの精霊は話せるんだ、そうだろう?風乃」

 

「……リシアン」


 精霊の声を聞いたレオナリス以外は全員固まる。精霊の声は聞こえないのが常識だが……リシアンはなぜか精霊にこちらの言葉で名前を呼ぶことを契約の条件としたらしい。

 レオナリスから風乃が「リシアン」と呼ぶ声だけは聞こえると報告を受けたときは半信半疑だったが。

 彼の名前だけは……こちらの言葉だから私たちにも確かに聞こえる。


 決行は翌日。父上の……国王陛下の裁可が下り次第とする。

「兄貴に一生のお願いを使うときが来た!」

 と言って飛び出していった叔父上に任せていいものだろうか。

 私が知る限りでも叔父上の「一生のお願い」は何度も聞いているのだが……たぶん叔父上なりに必ずこの願いは叶えたいときに使う言葉なのだろう。


 叔父上が飛び出すと同時に、よくリシアンの周りに集っている精霊たちもまた部屋を出て行った。

 私たちが話している間、精霊たちもまた話し合っていたことに気が付くのは翌日になってからだった。



 ❖――❖――❖――❖――❖


「そんなわけで、ベリー摘みは熟しきる前っていうのが鉄則なんですよね」


 気が付いたら話はだいぶ脱線していた。主に俺のせいだとは思うけど、何でこうなったのかは分からない。

 小太りのオッサンもなぜか大人しく聞いているし、鞭は床にもう置いてあるから一安心かな。

 さすがに夜通し尋問……だったはずのものを続けるのは無理みたいで、この話が落ち着いたところでオッサンは出て行った。


 1人になってため息をつく。咳もまた出る。あれから飲まず食わずだから喉もカラッカラだし。

 空気悪いんだよなぁ、ここ。

 何でも罪を犯した王族の霊廟なんだって。今ではほぼ使われていないし、誰も来ないようなところ。

 いくつかある霊廟の中で、ここだけがもうほとんど放置されている状態。掃除くらいしろよ。


 まだ王城内にいるってことは分かったけど、来たことない場所だしどこにあるのか検討もつかない。

 運良く脱出できても場所が分かんないとなるとなぁ……。てか、魔法も使えないなら逃げ出すのも無理っぽいし。

 寝て体力の回復をしたいものだけど、横になると咳がひどくなるし何なら手枷とか繋がれてて体勢を変えるのもだりぃ。


 こんなところにも精霊はいるみたいで……オッサンがいるときはいなかった水属性のやつに話しかけてみる。

『なぁ、そこの水のやつ。ちょっとここから出たいんだけど。あと喉乾いたし腹減った』

『何で人がわたしたちの言葉で喋るの?!……喉乾いてるの?』

 そろそろと近付いてくるその精霊に、理由も分からんうちにこの場所に連れてこられたことを話す。


『リシアンかわいそう……。わたしのご主人も一緒だったよ』

 悲しそうなその様子から、この霊廟に眠る罪を犯した王族の契約精霊だったんだろうなと思った。何も知らずにってことは冤罪かもしれない。

 精霊が自らの意思で水を出す魔法に関しては、手枷は発動しなかったので、やっと水を飲めてひと心地つく。


 大人しく助けを待つのはやっぱ性に合わないし?兄上も心配しているから何とかしないとな。

『お前の主人の名前は?ここから出たら、本当に罪を犯して連れてこられたのか調べてやる。何もしてなかったら、お前の主人の名誉を守る。だからちょっと協力してくれない?』


 どうせ俺をこんな場所に連れてきたのはザファルドのやつだな。あいつはもう許さん。

 出たらどうしてくれようかと考える。


『……リシアン、悪い顔してる。やだ』

 水の精霊に断られそうだったから、俺は必死で頼み込むことから始めた。


 

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