31話「兄上、王城に出仕することになりました」
さて、本日からは王城に出仕することになった。
お土産にって渡したディフレイアの採取方法と育成について、エヴァンハルト様に話した野菜の品種改良。これらを教えてくるようにだって。
王都薬師連合の演習の一環ということで、どんな魔法を用いたのかを研究・発表としてくるようにとのことです。
とりあえずいつもの格好で行こうとしたら、トピリア侯爵家の使用人たちから止められた。
王城への出入りに武器はいけませんと……あと、中のシャツとかもちゃんとしたのではないといけませんって。
エヴァンハルト様が用意してくれた服に着替えさせられた。ブーツだけはギリギリ許された。
ローブが薬師の正装って言ってたのに、ジジイの嘘つき。
きちんと感があるボタン付きのシャツはどうにも苦手だ。馬車に揺られての王城勤務が始まった。せめてゴルディに乗りたい。
師匠が何で「研究」と称してあちこち旅に出たがるのかが分かった。
王城には大きな温室とけっこうな規模の畑があった。どんだけ王城広いんだよ。
かつての籠城戦の名残りで今は、薬草栽培と品種改良の研究の場となっているそうだ。
集まっている薬師たちは年齢も様々で、金刺繍と銀刺繍のローブをそれぞれ纏っている。
年齢は様々だけど、皆俺より年上で気まずい。
それでも仕方ないから、採取と品種改良の実践を行う。
「ディフレイアは基本的に花弁や実を採取します。少し効能は落ちますが、それでも十分な効果は発揮します。効能を落とさないためには全体を採取する方法がありますが、その根の一つでも欠けたら効能は大きく損なわれます。だから土と木属性の魔法でこうですね」
分かりやすいように土は綺麗に落として、根が見えるようにする。細く長い根が枝分かれをしている。薬師たちの目の色が変わった。
「この透明な花弁は完璧だ!」
「魔力操作はどのようにしているのですか?」
「どうやって根の形状を把握されているのですか?」
質問が飛び交う。……ジジイ、これは「薬師の基本」じゃなかったのかよ?!
とりあえず練習にと比較的、根の短い薬草で試してもらう。
「慣れるまでは水属性の魔法で土を柔らかくしてください。あぁ、別に魔法じゃなくてフツーに水を掛けても大丈夫ですが多めで」
薬師たちに声を掛けて、それぞれの質問に答えながら歩き回って……俺はどうしてこうなった?と思っていた。
昼は王城内の食堂を使っていいことになっていたので、そちらに移動する。
その間もずっと薬師たちに質問攻めは続いた。
休まらねぇ……。とりあえずさっさと食べ終えて、撒くことにした。
どう見てもあいつら普段は運動してねぇだろ。走ればこっちのもんだと思った。
そして……
「確実に迷ったな、これ」
気が付いたら見知らぬ場所にいた。おかしい。来たときと同じように曲がってきたはずなんだけど。
何か広い演習場?みたいなところに来た。行き交う人も体格のいい、見るからに騎士だ。
「あぁ、お前が例の冒険者か?」
呼びかけられたと思って振り向いてしまった。
「辺境冒険者ギルド出身のやつで間違いないな?」
「そうですね」
うん。辺境で冒険者ギルドに登録しているしな。
「それならこっちだ」
とその騎士の人が言うから、温室に連れてってくれんのかなと思ってそのままついて行った。
「おーい、辺境冒険者ギルドから新人が来たぞー!」
違った。やべぇ、どうしよ。
「第三騎士団へようこそ!まずは腕試しだな!」
超いい笑顔なんだけど。第三騎士団っていうと対魔獣特化部隊だっけか……。アグニスが魔獣に関してはここが1番強いって言ってたとこじゃん。
さて、ここは正直に「いや俺は薬師で道に迷っていました」とか言っても大丈夫なんだろうか。
でも戻ったら戻ったでまた薬師たちからの質問攻めが待っている。
てか、冒険者登録もしているから別に間違いではないし……と考えていたら
「おいおい、挨拶もなしか?ビビってんのかよ!」
野次られた。
うん、ちょうど最近体も動かしてなかったしちょうどいいかもしれない。
とりあえずは、腕試しとやらをやってみようと思った。
「辺境から来たリシアンです。よろしく?」
さすがに騎士たちは強かった。アグニスと違って無詠唱のやつもちらほらいたし、足場を崩してもそれなりに粘るしさぁー。
あとめっちゃ連携とってくるから、すごいやりにくいんだけど!
最初は一対一だったからよかったんだけど、向こうが劣勢になっていくごとに増えていくのはズルいと思う。
さすがにこれ以上は怪我するなぁってとこで
「参りました」
俺は降参した。
腕試しが終わったら途端に騎士たちはフレンドリーになっていた。
「まだ若そうなのにやるなぁ!」
「全部無詠唱って無茶苦茶なやつだな」
「そうだ、俺のとこの部隊に来いよ?」
めっちゃ勧誘された。
「いやー、冒険者の中にもこんなやつがいるんだなぁ……」
「あ、俺薬師です。冒険者登録もしてますけど、今日は薬師連合の演習に来てて……ちょっと道に迷って」
さすがにこの勧誘は断らないとまずい。
「はぁ?!そんなわけないだろう」
「薬師のローブ着てんだけど!」
ざわつく騎士たち。……窮屈でシャツを着崩していたのが悪かったんだろうか。
え?俺ってそんなに薬師に見えないの?
「リシアン様!なぜこんなところにいるのです」
あ、アグニスの兄ちゃんだ。
「道に迷ってつい……」
「ついではありません。ほら、温室に帰りますよ!第三騎士団の皆様、ご迷惑をおかけしました」
突然に現れた第一王子の護衛騎士登場で、第三騎士団はすっかり大人しくなっている。
俺はそのままアグニスの兄ちゃんに連れていかれた。
「ルミスから報告を受けたときは驚きましたよ……」
やれやれと言うようにアグニスの兄ちゃんがそう言う。
「あ、ルミちゃんが俺の場所を教えてくれたんですか?」
さっすが王家の影。アグニスの兄ちゃんから「くれぐれも目立つような真似はしない、勝手に1人で出歩かない」と念押しされて温室に帰った。
そんなわけで俺はもうくたくた。薬師の質問攻め……頑張った。
頑張ったのに、今日もまた第一王子殿下からのお呼び出し。え?王族って忙しいはずじゃないの?
「……リシアン、随分と目立つ真似をしたようだな?」
「そこはセイたんの目論見が甘かっただけじゃない?二代目のスペックを考えたらそりゃあ目立つよ。ここぞとばかりに上手く使おうとしたのが仇に出たねー」
ギンさん、なぜ火に油を注ぐような発言をするんですかね。
「いや、もういい……。明日からはなるべく派手に立ち回れ。温室だけではなく第三騎士団のところへ顔を出してもいい」
「え?」
「好きに過ごせ、と言っている。ただディフレイアの採取と育成、品種改良については他の薬師にも必ず教えることは条件とする」
好きに過ごせと言われても……何で?
「とりあえずまた迷われたら困るからな。明日からはアグニスを連れて行け。話は以上だ」
よく分かんないまま話は終わった。
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リシアンが退室した後、叔父上と2人になる。
「セイたんさー、二代目を囮にするの?」
私はそれに笑みを返す。
リシアンは想定外の動きばかりをする……叔父上とどっちがマシなのだろうかというくらい。
今日もまさか第三騎士団のところにいるとは思わなかった。それも馴染んで、部隊の勧誘まで受けていたという……。
ルミスから報告を受けてすぐイグナートを向かわせた。……第一王子の護衛騎士を、だ。
ザファルド一派の目に止まればいいと判断してのことだ。
リシアンのことだから、そのうち何かするとは思ったがまさか初日からあれほど目立つとは思わなかった。
合同演習に参加した薬師たちの間でも評判になるだけでもと思ったのだが、まさか第三騎士団にまで接触するとは思わなかった。
ルミスをリシアンに付けておいて正解だったな。
近いうち、ザファルドはリシアンの存在に気が付くだろう。
そうなると、接触も試みるはずだ。リシアンはこちらの切り札となり得る者だ。
「セイたん、悪い顔してるなー」
子どもにするように叔父上が頬を引っ張ってくる。
叔父上を押し退けながら……切り札は二枚もいらないかもしれないと思った。




