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片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww  作者: 康成


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閑話「父の思いとフェルネス姓」

 拝啓 父上


 私は今、ある事情によりリシアンのいる辺境に来ています。3年ぶりに彼に会いましたが薬師として、また冒険者としても活躍しています。

 薬師としては辺境大森林の麓で冒険者や猟師向け薬店をバルドレム・トピリア侯から任されており、日々新しい薬の研究開発をして私も彼の成果には目を見張るものがあります。

 冒険者としてはBランクに昇格し、ギルド長も認めるほどの実力者です。



 *──*──*──*──*


 精霊魔法簒奪研究の阻止……この事態が収束するまでこの手紙は出せないけれど、久しぶりに父上に手紙を書いている。

 リシアンは父上に手紙は書かないから、僕がリシアンから届いた手紙を書き写しては父上のもとへ送っている。現物は僕の手元に残しておきたいので、書き写して送っている。あとリシアンはもう自称が完全に「俺」だからさすがに……と思って「私」に書き換えたりはするけれど。


 父上は不器用な方だけど、リシアンのことも気にかけている。母上がリシアンのことを疎んでいるから、あまり手出しも口出しもできないのを歯がゆく思っていることを、僕は知っている。

 


 ◇──◇──◇──◇──◇ 

 

 母上の実家は伯爵家。格上の貴族だから、父上は母上の言うことに逆らえない。庶子のリシアンの存在を認めることも本来は許したくなかったという事情から、これ以上なにか言うとリシアンが処分されかねなかった。

 正統な貴族教育を受けさせること、周辺領の子どもたちとの交流、貴族に相応しい贈り物や服飾品など。僕と父上がリシアンにしてあげられたのは、そのうちのいくつなんだろうか。


「このような貴族教育がなっていない者を弟と呼ぶだなんて……少しはまともな教養がないと、私が恥ずかしい思いをするのです」

 母上にはそう進言した。これを言うのには表情を取り繕うのも難しかった。でも、父上からより僕が進言したほうがリシアンに貴族教育を受けさせることの成功率は上がると思って耐えた。

 

「……そうね、貴方にとってもそれはよくないわね。いいわよ、手配してあげるわ。貴方は完璧でないといけないもの」

 そう笑って言う母上から目を逸らして「なるべく早くしてくださいね」と言い捨ててその場を去った。今世での母であるその人の……そんな顔はこれ以上見ていられなかった。


 庶子のリシアンが気に食わないことは理解できる。でも、理解できることと……何の罪もない幼子を虐げることを受け入れるのは別だった。

 そして前世の弟でもあるリシアンのほうが……僕にとっては大切だった。彼を今度こそ守るんだと強く思っていたから。


 貴族学院は王都で、子爵領を離れることとなった。あの家にリシアンを残していくのは心苦しいけれど、父上がいるから最悪の事態にはならないだろう。

 

 貴族学院には王弟殿下が創設した「特待生制度」がある。各学部若干名は金銭面への援助があった。語学科は留学費用を、淑女科は舞踏の授業でのドレス代をといった感じで低位貴族や高位貴族でも爵位継承権のない次男以下などにとってはありがたい制度だった。

 

 一定の成績を保持しないと制度の対象外となる。それに加えて特待生は王城勤めが確約されているので、皆必死だ。

 幸いにも僕は3年間、特待生の座を守り抜き王城医官見習いとして登用されることとなった。

 学生時代に「聴診器」の発案をしたことが大きく影響したのだと思う。ずっと側にいた光の精霊様には「シュテート」と名付けて契約に至り順風満帆だった。


 1年早く見習いから正式に医官として登用された頃。父上から「リシアンを貴族学院に行かせることを反対された」と手紙が届いた。

 ……母上は、リシアンのことを社交デビューもさせず表に出す気は全くなさそうだったから予想できていたことではあった。

 子爵家に来てから3年ほど、リシアンに教えていたが彼は覚えもよく賢い子だった。


「特待生制度を利用できないだろうか?」と父上に聞いてみたが、リシアンはそこまでのレベルに達していないようだという。それに母上がリシアンの除籍を匂わせてきているそうだ。


 父上とリシアンを親戚筋の男爵家に移籍させようと相談を始めたのもこの頃だった。

 せめて貴族籍だけでも残し、僕が爵位を継承する頃までに領地経営について学び……王都にいることの多い僕の代わりに子爵領代官となってもらいたかった。

 それに貴族籍さえあれば、母上やその親族から害される懸念も減らせる。貴族に何かあれば確実に第五騎士団からの調査が入る。

 将来的に……爵位継承が済めば、リシアンをまた子爵家の籍に戻す予定だった。


 予定が変わったのはまとまった休みが取れそうだと父上に手紙で報告したら「リシアンのことで相談があるので、子爵領まで来てほしい」とだけ書かれた返信。

 大急ぎで帰省した。僕も父上に相談がある。

 この間、リシアンから「冒険者か薬師になります」と書かれた手紙が届いたからだ。


「父上、どういうことです?」

「すまない……」


 父上いわく「貴族学院に行かせることはできない」とリシアンに伝えたら、リシアンが貴族学院に行かないということは貴族ではなくなる。

 成人後はまた平民になると思ったようで……

「俺、冒険者か薬師になります!」と宣言をしたらしい。

 そして15歳になるとすぐに冒険者登録をして、最近は子爵家にはほとんど寝に帰って来るような状態らしい。


「貴族学院に行かないなら馬がほしいと言い出して……初めてあの子に何かをほしいと言われたんだ。嬉しそうに笑っていてな、その馬とともに冒険者活動をしているようだ」

 珍しく微かな笑みを浮かべる父上に


「父上、うれしそうに笑うリシアンがかわいいことは分かりますが現実逃避をしている場合じゃありません」


 ちゃんと指摘した。

 馬が好きなリシアンだ。念願の愛馬にどれほど喜んだことだろうかということは想像はつく。

 ただ……リシアンから手紙が届いてから「もし本当に冒険者か薬師になりたいのなら応援しよう」と思って教材となりそうな本を贈った。


 でも、まさかこんなに早く冒険者活動を始めるとは思っていなかった。

 ほとんど子爵家に帰ってこないリシアンと、母上の目を盗んで話すことなどできず……しばらく様子を見ることにして王都へ戻った。


 リシアンの成人まであと1年。着実に冒険者として昇格しているらしい。

 母上の親族から「リシアンの移籍は受け入れないでいただきたい」との通達により、リシアンが移籍できそうな親族はなくなった。

 

 それでも何とか……父上が渡りをつけたのがフェルネス男爵家だった。

 王都の外れで商業を営む男爵家だそうだ。4代遡ると、何とか子爵家とは縁が繋がっているものの……今となっては何の関わりもない他家だ。

 

 フェルネス男爵家には5歳の娘さんがいて、原因不明の病だそうだ。

 何とか治療費を捻出しているというが、金銭的に中々厳しい状態らしい。

 そこで「治療費はいらない。治療が成功したらリシアンを……籍だけでいいのでそちらに置かせてほしい」と父上が交渉したという。


 そして父上から「フェルネス男爵家の令嬢の治療を頼む」と連絡があり……王都の外れならすぐに行ける距離だし、リシアンの将来もかかっている。

 令嬢を診に行くと、痩せた小さな女の子がベッドの上にいた。


 食べ物が原因かもしれないと色々と禁止事項が増え、今はほとんど食事が摂れないのだという。

 以前のように突然、体に発疹が出たり嘔吐することはなくなったというが……栄養失調に陥ってるじゃないか。


 その女の子……ルナリア嬢の食事やその日どう過ごしたかは全て記載するよう伝えた。

 また、可能な限り以前その発疹などが出たときの食事内容が分かればそちらも教えてほしいと伝えた。

 食事は原因が不明なら一度、禁止事項となった食べ物もごく少量から摂っていいと指示した。

 その場合は1つずつ試し、何か異変があればすぐに呼んでもらって構わないと伝えた。


 しばらくするとルナリア嬢も体調が落ち着き、突然の発疹も嘔吐もないままだという。

このまま元気になってくれればと思っていたタイミングで、またルナリア嬢に発疹が出た。

 斑で歪な形の発疹は……蕁麻疹か。何かアレルギー源となるものがあったのか。

 薬と治癒魔法とですぐに落ち着いて、眠っている。


 今日は何を食べていたのか、また何をしていたのか、前回の食事などのデータとも見比べていく。

 食後も元気に過ごしており、久しぶりに庭を散策していたというルナリア嬢。

 栄養状態も回復して庭に出て……


「……ルナリア嬢は走ったりしましたか?」

「そうですね、お嬢様は活発な方なので……今日は久しぶりに少し走って楽しそうにしていたのですが……」

 侍女が言葉を詰まらせる。 

「以前も走ったりと元気にしていたら、突然に発疹が出たり嘔吐を?」

「そうです……先程まであんなにも元気そうだったお嬢様が……」


 今までの食事の共通点。走ると突然に具合が悪くなる。

「フェルネス男爵夫妻を呼んでください。ルナリア嬢のことでお話があります」


 フェルネス男爵夫妻が来たので説明をする。

「ルナリア嬢は運動誘発性の小麦アレルギーかと思われます」

「運動誘発……?」

「えぇ、小麦を食べたあとに運動をするといった特定の条件を満たすとアレルギー反応……発疹や嘔吐といった症状が出ることです。安静にしていると症状が出ないので分かりづらいのですが……今までも全て日中に症状も発現していますね」


 確定のための検査はするが、運動誘発性小麦アレルギーなら……まだ5歳なら完治もできる。

 その後、確定診断もつき徐々に症状も落ち着いていった。

 フェルネス家もリシアンの移籍を受け入れてくれた。


 こちらは籍だけ置かせてくれればと言ったのだが、リシアンがいつ来てもいいようにと彼の部屋も用意してくれた。

 ルナリア嬢もリシアンの話を聞かせてとよく尋ねてくるから、定期診察の度に話して聞かせている。

「リシアンお兄様にお会いしてみたいわ!」

 毎回のようにそう言っている。


 ◇──◇──◇──◇──◇


「兄上ー、また研究ですか?そろそろできますよー」

 

 食事の準備ができたのか、リシアンがそう呼びかけてくる。

 ドアを開けると焼き立てのパンの……香ばしい小麦と甘いバターの香りが漂ってくる。

 食卓にはルナリア嬢が大好きなバターがたっぷりと入ったサクサクと軽い食感の三日月型のパンが、こんもりと並んでいた。




リシアン、兄上のために(`・ω・´)と着実にパン作りの腕前が向上している。

レシピの提供……ミレア。

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