表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww  作者: 康成


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/51

27話「兄上、服は選ばないでください」

 王都までの道中も中々に順調だ。このままのペースだと予定より少し早く着くかもしれない。

 今日は道中で初めて街に立ち寄る。商業都市として栄えている街だから、余所者が来ても目立たない。


「王都に着く前に、リシアンの服をどうにかしないといけないからねぇ」

 と兄上がにこにこしている。いや、俺はこの薬師のローブさえあれば大丈夫なんですけど。

「そうだなぁ……どうにもリシアンは冒険者感が強いから、王都に着くまでに何とかしておかないとな!」

 

 だから薬師のローブ着てんだけど?!

 ほら、このオリーブグリーンに銀の蔦模様の刺繍の!

 ちなみに刺繍の色で初級、中級、上級薬師は一目で分かる。生成りが初級、銀刺繍が中級、金刺繍が上級な。

 銀刺繍からが一人前の薬師って感じ。ローブは師匠から贈られた。


「薬師のローブだけでその粗暴さが隠せると思わないでください。どこの薬師がそんな冒険者仕様のゴツいブーツに、実用性しかない服を着ているというのです?」

 ルミちゃんまでもが冷たい目線を送ってくる。

 

「そこはほら、冒険者活動もしてるからー……」

「それはリシアンとトピリア侯爵が特殊なだけで、一般の薬師は冒険者活動はしていません」

 

 一蹴されたし、俺の服を買うことは決定事項だった。王族と顔を合わす可能性が非常に高いから、それなりのものを着ろと。

 時間がないから既製服にはするが、王都に着いたら仕立てる場合もあると……やめて。

 成人してからは着たことないんだけど、貴族な服。


 初めて入る服飾洋品店は、いつもの冒険者用の衣類を取り扱う店とはまるで雰囲気が違ってた。

 いつもは雑多に掛けられた中から合いそうなのを探したり、ここに内ポケットを付けてほしいとか相談する感じだったんだけど……。

 同じ洋品店でもほぼ店内に衣服がない。店先に数着だけトルソーに着せたやつ、あとは壁掛けの棚に帽子やバッグなんかが並んでいるくらい。


「この子に合うものを一式、いくつか見せてほしいのですが」

 兄上が慣れたように店員さんに声を掛けているけれど……この店、何か俺だけ浮いてませんかね?

「王都で薬師の合同研修があるでしょう?この子も参加するのですが、このままでは浮いてしまうので揃えさせてください。こう見えてもさる貴族の御子息なのですよ」

 兄上がにこにこしながら説明している。俺、さる貴族の御子息ではないです。かつては御子息だったけど?


「そのご年齢で銀刺繍の薬師とは有望なのですね」

 なんて店員さんにお世辞を言われながら、はいはいと聞く。

「リシアン、これなんかどうだろう?」

 兄上が持ってきたのは首周りに優雅なフリルのついた華やかな淡い水色のシャツ。

 ……やめて。マジやめて?!兄上が選んだとしてもそれはさすがに無理だって!


「いや……兄上それはさすがに」

 何と言って止めたらいいんだ?

「レオナリス様、フリルはリシアンには致命的に似合わないのでやめましょう!」

 爽やかな笑顔でアグニス、お前……!言い方はアレだけど助かった。


「かわいいと思うんだけどなぁ?」

 とにこにこしながら兄上が手渡してくるから断れなかった。一応、試着してみる。

 うわぁ……首元が詰まって気持ち悪い。


「……無理じゃね?」

 アグニスは見た瞬間、盛大に吹き出してルミちゃんは驚きの速さで顔を背けた。

 おい……こっちも分かって着てんだよ。手をぷらぷら揺らすと、袖元のフリルもまた邪魔くさい。

 風乃は仲間を呼びに行った。やめろ。

 

「……兄上。首も詰まって慣れないですし、できればもうちょい動きやすそうなのがいいです」

 そっとお伺いを立てると「慣れないなら仕方ないかなぁ」と言いながら別の物を見繕いはじめてホッとした。


「アグニス、ルミちゃん……頼む。兄上より先に俺に合いそうなの探して!俺、こういうとこ初めてだから何選べばいいか分かんない」

 兄上チョイスはヤバそうだと察した俺は2人に必死に頼む。2人は神妙な顔をして頷いてくれた。


 アグニスとルミちゃんが選んでくれたのは、シンプルな白シャツに黒のトラウザー。

 茶色のベストは同色でいくつか切り替えがあり、焦茶のウェストコートには暗い銀色の刺繍が入っていた。

 

「刺繍ってやっぱ入ってないとダメ?」

「ある程度の格式を保つのに必要だな。薬師のローブと合わせて、これでも同色で飾りは少ないものを選んだぞ?」

 ……なるべく、俺に合わせて選んでくれたのか。いいやつだな、こいつら。

 視界の端に、鮮やかな紫色にガッツリと金の刺繍が入ったフロックコートを持っている兄上が見えた。

 

「ありがと。アグニス、ルミちゃん!俺、これがいい!」

 兄上に聞こえるように言った。

「リシアン、それにするのかい?少し地味ではないかな?もっと華やかなのも似合うと思うよ?」

 残念そうにしないで、兄上。俺にはそのレベルのは無理です。

 

 なお一応、羽織ってみるがド派手な刺繍のそれは……

「あれか?劇団員にいそうだな」

「悪徳商人の役ですね」

 アグニスとルミスはうんうんと頷いている。誰が悪徳商人だよ。


「レオナリス様、華やかさをお求めならクラバットで選ぶのはどうでしょうか?」

 諦めがたい様子の兄上を、ルミちゃんがいい感じに誘導してくれてる。マジ助かる。

 2人がクラバットを選んでいる間に俺は靴だな。こればかりは試着がいるから、2人もどれがいいとか選べなかったみたい。


 ゴトン。と鈍い音を立ててブーツを脱ぐ。

「随分と重そうですが、これは……?」

 店員さんが不思議そうにしている。

「あぁ、爪先と靴底に鉄板入ってるんですよ。魔獣とか踏まれたら危ないので怪我防止ですね」

 冒険者装備としては一般的なものなんだけど。


「なるほど……これがあればダンスの時に御婦人に爪先を踏まれても!」

 店員さんの目が輝いている。

「素晴らしいアイデアの靴ですね!是非ともこの仕様で新しい商品を作りたいのですが」

「……いや、それ一般的な冒険者装備なんでご自由に?」

 

 冒険者装備自体を見たことがなかったらしく、いたく喜ばれた。てか、俺が履き込んでいる靴をマジマジと観察するのは何かいたたまれないからやめて。

 紙とペンを借りて、中の鉄板の形とか展開図とかを描いて渡した。

 喜んだ店員さんが、靴代をサービスしてくれた。

 

 あとクラバットはルミちゃんの健闘のおかげで、ローブより深い緑色に銀色の刺繍のものになってた。兄上は何かちょっとしょんぼりしていた。

 手には鮮やかな金色のクラバットを持っていた。ルミちゃん、グッジョブ。


 思ったより時間がかかったので、今日は街の宿に泊まることにした。道中も半分を過ぎて、馬たちもここらでゆっくり休ませてあげたいということで。

 宿屋で今日買った服を着てみたけれど、違和感しかなかった。


「あれか?髪型なのか……」

 アグニスが唸っている。

 貴族は長めの髪が基本らしいけど、この場には兄上だけだ。アグニスもルミちゃんも髪は短い。

 アグニスが言うには騎士だと短髪もだいぶ多いらしい。王弟殿下の影響で髪が短い貴族男性は増えつつあるそうだ。

 文官は伝統的に長髪の方が主流らしい。貴族の流行りは分からん。


「これは少し体裁を整えないと無理がありますね、服だけでは取り繕えません」

 ルミちゃんがサイドの髪を編込みにしていく。器用だな、おい。

「任務で必要なこともありますので」ってどんな任務なわけ?


「あとは目付きがなぁ……」

「目付きですね」


 手は尽くしたのにと残念な目で見るんじゃない。俺は一つため息をつく。


「御二人とも、本日はありがとうございます。私が至らなかったばかりにご迷惑をお掛けしました……如何でしょうか?」

 兄上を意識して、できるだけ穏やかな笑みを浮かべる。


「「誰」」

  

「誰じゃねぇよ、やれば出来るんだよ」

 やれやれと堅苦しいクラバットを指で引っ張って、くつろげる。

「王都ではずっとそうしてろ」とか言われたけど、無理だろ。疲れるっての。

 夕飯も貴族マナーを駆使したらそちらも合格ラインだそうだ。だから、やれば出来るんだって!


 あと慣れるためにと道中の残り……食事の時だけは貴族モードをすることになった。

 俺が慣れるためじゃない。アグニスとルミちゃんが慣れるために、だ。

 珍獣を見る目で見るんじゃない。

 あと風乃たち精霊もこっちを見て爆笑している。

 

 とりあえずお前ら全員、兄上を見習え。

 見ろよ、兄上だけがいつもの穏やかな微笑みのままだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ