閑話「俺が薬師になった理由」
拝啓 ヴァルディリア領冒険者ギルド長
お久しぶりです、リシアンです。引退されて冒険者ギルド長になったと聞きました。
ギルド長の仕事は大変かと思いますが、元気にしていますか?
俺はめっちゃ元気です。そして!この度Bランクになりました。
ついにあなたを超えましたよ!
ヴァルディリア領であなたにお世話になったおかげです。
*──*──*──*──*
15歳。平民になるなら冒険者か薬師だなって思った。
冒険者になろうと思ったのは、魔法は得意だったから。前世のゲームでイメージが掴みやすかったからだと思う。
薬師になろうと思ったのは、少しでも兄上との共通点を残したかったから。貴族教育もろくに受けてないし、貴族学院に行かないのなら……薬師が1番近そうだったから。そんな理由。
ヴァルディリア子爵領は王都からは遠く田舎で、緑が多いそんな場所。
辺境大森林とまではいかないけれど、それなりの大きさの森には魔獣が生息していて小規模な冒険者ギルドがある。
その魔獣の危険度も低いから、最上位でもCランクの冒険者で……まだ駆け出しだとか引退間際の冒険者しかいないそんな場所。
とりあえずは登録をしないと冒険者活動もできなくて。「リシアン・ヴァルディリア」と記載した登録用紙を見てギルド内はざわついた。
「ヴァルディリアって……領主様のところの?」
「……そうですけど」
貴族も冒険者登録ってできるはずなのに何?
「領主様のところの隠し子という……」
「本当に貴族か?あの身なりで……」
田舎ではこういう噂はすぐ広まる。
身なりは他の貴族のことなんて知らないから分からないし。……兄上がいないときの俺なんて、誰も世話をしてくれるわけもない。
別に1人で着替えられないわけもなく、むしろ楽だからいいんだけど。
それにうっすらとある前世の記憶のおかげで、特に困ることもなかった。
一通り冒険者ギルドの説明を受けて、1人でも受けられそうな「薬草採取」の依頼を受けることにした。
新人とはいえいきなり1人で依頼を受けるのはどうかとは思ったけれど、遠巻きにされているのにこちらから声をかけることはできなかった。
……俺にはゴルディがいるからいい。
兄上からいただいた薬草図鑑で覚えた薬草を採取する日々。最初は根が途中で千切れたり、薬草でもないよく似たのが混ざったりしていたけど次第に慣れていった。
こつこつ依頼をこなしていくうちに、冒険者たちから声をかけてもらえるようにもなった。
ランクがFからEに上がった頃、魔獣の討伐にと他の冒険者から誘ってもらえた。
俺がけっこうな威力の魔法を使えるからだって。
初めて狩った魔獣はウサギみたいなやつだった。火魔法で消し炭にして怒られたっけ。
それならと風魔法を使ったら、毛皮がボロボロになってまた怒られた。
水魔法で何とか仕留めたらそれは褒められた。
けれど、解体が待っていた。さすがの俺も手順は冒険者ギルドで学んで知っていたんだけど、やったことはなかった。
大型のウサギって感じのそれはまだ温かかった。
一緒に来た冒険者からここに刃を通してとか教えられながらしたけれど、血抜きの時点で今まで嗅いだことのない臭いとまだ残る温かさが何とも言えない気持ちにさせた。
「これだから貴族の坊っちゃんは」なんて言われたくなかったから、無心で作業をした。
内臓に少し傷をつけてしまって、そこでもまた怒られた。
解体、だっる。でも自分たちでしないと……解体費用まで払うと、せっかくもらえる報酬が減る。
報酬もパーティー内で分配だから取り分がさらに減る。分配だって均等ではないわけで。
「解体の指導料な!」と皆より少なく渡された報酬に「仕留めたのは俺の魔法でなんだけど」と思っても言えなくて。
……うん、俺は薬師になるわ!
そう決めた瞬間だった。
あと、ここからちゃんと自分の取り分も主張しないと勝ち取れないなって思った。それに今までの口調だとなめられる。
別に貴族な言葉遣いだりぃなと思っていたから、そこは自然と切り替えられた。
いくつかのパーティーにたまに混ぜてもらったけれど、うまくいかないことの方が多くて。
そんな時、ベテラン冒険者の人が声をかけてくれたんだ。
冒険者にしては珍しく落ち着いたおじさんで「孤立してる新人に教えるのも俺らの仕事なんだよ」って言ってくれた。
魔獣の討伐も「すごい魔法だなぁー。お前はBランクも夢じゃないぞ」って褒めてくれた。
俺が1人でいることも多かったから、ゴルディもその頃には蹴りで魔獣を仕留めることも増えていた。めっちゃ褒めてくれるおじさんが渋い顔をしたのは報酬分配のときだった。
「ゴルディの分は?」
そう聞く俺に何とも言えない顔をしていた。
「……ゴルディは馬だろう?」
「ゴルディアスって言って!」
おじさん以外はいつものように「めんどくさいやつだな」って顔をしていたけれど、おじさんだけは違った。
「ゴルディだって何体も魔獣を仕留めてるじゃん!何でゴルディを数に入れないの?」
「……お前、いつもそんなこと言ってるのか?」
困ったような顔で聞いてくるおじさん。
だって、主張しないと勝ち取れないし。ゴルディだって活躍したのに不公平だなって思ってた。
「……ゴルディアスは冒険者登録をしていないだろう?だから依頼を受けたことにはならないんだ。気になるなら、リシアンの取り分からゴルディアスにも何かしてあげるといいよ」
そう言ってくれたおじさんの言葉を聞いて
「ゴルディも冒険者登録してくれないか聞いてくる!」
と言って受付けに走ったのは俺の黒歴史。
「申し訳ないのですが、馬は出来ないんですよ。テイムされた魔獣なら従魔としてギルドタグに記載されますが……」
やさしく断られた。あと何かすごく温かい目を向けられた。
おじさんを含むパーティーはその様子を見て爆笑していた。そしてかなりの期間、そのネタでイジられた。
「そんな笑うなってば!」
拗ねる俺におじさんたちは
「悪かったな、まぁ今回はコレで」
と俺に少し多めに報酬を分けてくれた。
「これでゴルディアスに林檎でも買ってやれ」
「蹄鉄もいいの買ってやれよ!」
「それには足りねぇだろ!」
……めっちゃ笑ってるけどさぁ、多めにもらえるならもらうよ?!
そこからはわりと他の冒険者ともうまくやれるようになって、子爵領を出る頃にはDランクまで上がった。おじさんのCランクには届かなかったけれど。
「リシアン、ここを出ても頑張れよ。お前なら俺が届かなかったBランクも夢じゃないけど……薬師になるんだったか?」
もったいないなぁ……なんて言いながら見送ってくれた。
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「ギルド長?その手紙、何が書いてあるんです?」
久しぶりにリシアンから届いた手紙を見ながらどうも笑っていたらしい。
「俺が前にここで面倒をみていた新人がな……辺境でBランクになったんだと」
「あの辺境で、しかもBランクってすごいじゃないですか!その人ここにいた時からすごい人だったんですか?」
ある意味すごい人ではあったなと思って、また笑いが溢れる。
「すごいやつだったよ。なんせ自分の馬の報酬も主張するわ、その馬を冒険者登録しようとするわで……むちゃくちゃなやつだったよ」
「それはまた……」と言い淀む声を聞きながら、あの受付けに走っていったのは何度思い出しても傑作だったなと思う。
「それでもあの頃から魔法の腕はすごかったし、今は辺境で薬師としても働いているよ」
「何者なんですか、その人?」と不思議そうに聞かれるけれど「あれはそういう生き物だから」と返すほかなかった。
相変わらずゴルディアスに乗って駆け回っているのだろう。その姿は簡単に想像できる。
あの孤立していた貴族の少年が、ずいぶんと立派になったものだと思う。




