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片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww  作者: 康成


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17話「兄上、証拠隠滅を手伝ってください」

 俺は実のところ少々不服だ。森の深層部まで兄上を連れて行くわけにはいかないから、スノウモスルァーをこっちに連れてきたのにすぐに「元いたところに返してきなさい」だってさ。

 そんな捨て犬とか猫を拾ってきた子どもを諭すみたいに言わなくてもいいと思う。ガリガリと口の中に残る笛飴のベリー味を噛み砕く。これもこれで歯にくっつくしさぁー。これはやっぱミレア姉さんに相談しよ。


 とりあえず、兄上がなぜかスノウモスルァー(本体)はダメみたいだけどその繭ならいいのでは?と思い至り私室にある鍵付きの箱を開ける。この中には俺の取っておきの物が入っている。こないだの耳飾りに使った魔石とかな。スノウモスルァーから新しくもらった繭もこの中にある。前にお蚕さんからもらったのは師匠に取り上げられたからない。たぶんどっかに隠してんだと思う。


 熊狩りのときの射出機に少しと、丈夫なロープを作りたくて減った繭だけどまだ半分以上残っている。幻蚕の繭と判明した今、これは師匠が戻ってくるまでに全て使い切って証拠隠滅をしとかないと。

 兄上なら王城の医官だし、きっと俺が知らない使い道なんかも知っていそうだから……兄上に相談しよう。

 繭も……スノウモスルァー(本体)と比べたら劣るけれど、しっとりふわふわな手触りだし兄上も気に入ってくれたらいいなぁ。



 なんて思っていた俺ですが、なぜか今は床に座っています。正確には座らされています。それも反省をしめす兄上発案の正座という姿勢で、です。

「リシアン……幻蚕の繭について何も知らないのかい?」

「……薬師が、手を出して加工してはいけないことは知っています。その……薬にするとかそういうのはダメだってことは」

 兄上は穏やかな微笑みのままだけど怖いです。


「そうだね、幻蚕の繭を医療用として使えるのは医官と神官だけだね。あとは?」

「あとはって?」

 師匠から習ったのは薬師は絶対に使ってはならない素材っていうことくらいじゃないの?思い返してみる……。あ、あれか。目からビーム以降は「はいはい、伝説だからって盛りすぎかよ」って聞き流したところ……!

「……幻蚕は、目からビームを発射します?」

「リシアン」

 ダメだった。


「子爵家にいたとき習わなかったかい?成人の儀のときに国王陛下と王妃陛下から下賜されるものがあるだろう?」

「……いや、兄上が出てからはほぼそのへんの勉強進んでないんですよね。俺の覚えが悪いから……って言われてました!」

 項垂れる兄上。子爵家は出たから時効かと思って言いつける俺。

「……僕が貴族学院に行ってから家庭教師たちは何を?」

「兄上から教わった王族、高位貴族、周辺の領、親族以外は貴族名鑑は一通り目を通したくらいですね。で、いつもこのくらいのことは兄君なら一度で覚えましたよって。こんな事も分からないんですか?って言うんで途中から意地になって覚えたのが全体の6割くらいですね。歴史の流れも大体いけるんですけど、王国法はさすがに厳しかったです」

 

 王国法は無理だったわ。法改正があるせいで、順を追って説明されてもかえって混乱するというか……。人名はそこそこ覚えたはず。

「あ、あと15歳からはほぼ冒険者活動と兄上がくれた教本を読んでいました」

「……家庭教師は僕がいた頃と変わっていなかったのかな?」

「いや……その、変わりましたけど」

 継母上が変えたとは言いづらい。兄上にとっては母君だし、なぁ?


「……ごめんね、リシアン。もう正座はいいから椅子に座ってお兄ちゃんと一緒に勉強しようか?」

 穏やかな兄上に戻ってホッとした。

 

 

「幻蚕の繭はね、王国法によって定められた禁制品なんだよ」


 兄上の説明をまとめると、希少な素材である幻蚕の繭は原則として国が買い取るんだって。

 状態にもよるけど売れば最低でも金貨10枚はするらしい。完全な状態の繭は滅多に見つからないらしくて、半分あればいい方。

 だから幻蚕のテイムに成功したら、王都に邸が建つレベルらしい。……か弱いスノウモスルァーたちを守らねば。目からビームは見たけど、何かいちいち仕草がか弱いんだよ……!

 

 また個人で採取した繭に関しては、他者への金銭及び物品との交換は違法であり譲渡のみは可能。譲渡先の人物が売買をした場合は連座で罪に問われる。

 私的利用での加工は衣類、小物、武器、防具、道具は合法だけど売ったら違法だって。

 とりあえず……俺が作った射出機とロープはセーフ、あっぶね!

 医療用としては医官、神官のみがその加工及び使用が許可される。


 ふむふむとメモを取りながら兄上の話を聞く。

「兄上、成人の儀のときに下賜されるのって何ですか?」

「男性はチーフを国王陛下から、女性はコサージュを王妃陛下から下賜されるんだよ。成人のお守りなんだ。一部に幻蚕の繭から作った糸で小さな刺繍が入っているんだ。王族の衣装の一部も幻蚕の繭が使われているよ」

 ガチ高級品じゃん。手元に残っている繭はまだ半分以上ある。……やはり、証拠の隠滅をしなくてはいけない。師匠にバレたらヤバいどころじゃない代物だった。


「分かりました。兄上、ありがとうございました」

「いいんだよ、リシアン。じゃあこれは」

「というわけで、さっさとこれは全部加工しちゃいましょう!兄上なら医療用にもできるんですよね?研究用ってことでパーッと使っちゃいましょう!」

 あれ?兄上、何か言いかけてた?

 とりあえず研究室から取ってきた桶にたっぷり水の精霊に頼んで水を張って……繭をその中に投入。


「ちょっと、リシアン?!」

「え?前もロープ作ったときにこうやって解したんですけど、違いました?」

「違わない、違わないけど何をしてるの?!」

「とりあえず全部糸にしよっかなって思いました」

 

 兄上が何やら悩んでいる。俺は繭をザバザバ洗い解しながら待つ。

「……ちょっと失敗するかもしれないけれど、試してみたいものがあるんだけどいいかな?」

 どうやら兄上の中で研究欲が勝ったらしい。師匠もよくそんな感じの目をしてた。「辺境は素材使い放題だからいい!」ってよく言ってた。医官ってそういうとこあるよね。


「お好きなだけどうぞ、兄上。師匠のとこでも俺のとこでも使いやすい研究室で作業されていいですよ。とりあえず俺はここで全部糸にしちゃうんで」

 いくつか手頃な束が出来たので兄上へ手渡す。兄上はうれしそうに……ちょっと迷ってから師匠の使っていた研究室へ行った。


 風乃たち精霊とともに糸巻きをすることしばし。やっと終わりが見えてきた。少しなら自分の分も確保しといていいかも、また何かに作るのに使えそうだし……ちゃんと合法でな?

 

 最後にコロンと小さな珠が転がり落ちてきた。何だろ?魔石?

 綺麗な丸い珠はスノウモスルァーの翅と同じ白銀で淡い輝きをしていた。

「魔石、何だろうなぁ。たぶん」

 スノウモスルァーのボス就任祝いでもらった繭から出てきたことだし……記念にと、一束の糸とともに鍵付きの箱へそっとしまった。


「リシアン?ちょっと見てほしいんだけど」

 と兄上の声がしたから、慌てて返事をして立ち上がる。その拍子で近くにあった包帯が転がって桶の中にポチャンと落ちた。「ヤバい」と思ったけど、どうせ消耗品だしとそのままにして部屋を出た。


 兄上が師匠の研究室で見せてくれたそれは四角いめっちゃ薄い布のような物だった。兄上が言うには酷い火傷に貼ると皮膚の代わりになるんだそう。

 詳しいことはよく分かんないけど、皮膚の代わりになるってすげぇなと思った。これがあると火傷も跡が残らず治癒魔法で治るかもしれないんだって。治癒魔法もある程度、人の手で応急的な処置をしてからかけると治りがよくて効果が高いらしい。


 兄上のいる王城では騎士が訓練などで負う怪我としては切り傷や打ち身の次に、火傷が多いらしい。魔法を使った訓練で起きる事故で火傷を負うことがあるという。

 だからこの「人工皮膚」があるとそうした事故にあった騎士も退団せずにすんだり、回復が早くなるのでは……と。兄上はやっぱりすごい。

 

 あと糸だけでも「縫合糸」として使えそうだから切り傷にたいしても有用なのではと語ってくれた。

「でも、縫合針とかがないんだよね……残念だけど」

 と兄上が言うので、それなら

「俺の行きつけの鍛冶工房なら何とかなると思いますよ。ほらこの耳飾りを作ってくれたところなんですけど」

 と言うと繊細な蔦模様が透し彫りで入った耳飾りをじっと見て兄上はうれしそうに

「その凄腕の職人さんならぜひ頼みたいな」

 と言ってくれた。明日の予定が決まった。


 兄上がこんな器具がほしいと色々描いてくれたけれど……歪んだその線は微妙で。

「兄上、この鋏みたいなやつってこんな形でホント合ってます?」

 と聞いたら

「……理想をそのまま描けたらいいんだけどねぇ」

 とのことだったので、兄上の指示のもと俺がデザインは描くことにした。言われるがままに描くけど、針も謎のカーブがあるしこの形で合ってるのか疑問に思う。

 でも兄上が「それはもう少しきつめのカーブで」とか迷いなく言ってくれるから、そういう物なんだろう。完成したそれを見て

「リシアン、完璧だよ!」

 と兄上がほめてくれたから大丈夫なんだと思う。俺にはどうやって使うのかすらピンとこないそれを、思いついて実際に使おうとする兄上ってやっぱりすごいんだなと思った。

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