13話「リシアンチャレンジ」
拝啓 兄上
先日のお手紙、拝見しました。兄上、もしかしてお疲れですか?お忙しいとは思いますが、無理はしないでくださいね。
熊狩りですが、大牙熊を狩っています。そっちのほうが採れる素材も大きく、効果が高いからです。大牙熊はちょっと大きいだけで、兄上が心配するほどの危険はないので安心してください。
最近、俺にも契約精霊ができました。いつか兄上にも紹介したいです。
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「ィ゙ピルァーン!」
「それのどこがリシアンなんだよ。やり直し」
やって来た風の精霊を呆れたように見る。
「ビビデュァ゙!」
「お前はもっとひどいな?!」
先日から俺のところに契約を求める精霊はこんな感じで「リシアンチャレンジ」とか周りのやつらも囃し立てている。ちなみに大量の山鳥は自分の食べる分、ミレア姉さんにお裾分け、いくつか燻製を作って……残りは売った。
今日は燻製の山鳥なんかを食べるときに使う、薬草と岩塩を調合している。毎回、そのときあるものでテキトーに作るもんだから味は違う。それなりの味にはなるからいいんだけど。たまにめっちゃおいしくできても、再現性がないのがつらいところ。
『ねぇ、リシアン。風のにしてやりなよー』
『あの子、ずーっとリシアンと一緒にいるんでしょー?』
精霊たちの中では風の精霊推しが一番多い。何でも俺がヴァルディリア子爵領にいるときからいたんだとか。
……俺が7歳の頃、レンチンの魔法のときに協力してくれたらしい。で、そのとき俺が「ポチ」って呼んだんだって。いや、覚えてねぇよ。レンチンの魔法のことは覚えてるけどさぁ。
『火のがいたらリシアン助かるよー?』
『調合のお手伝いには水のがいいよ!』
『木のは薬草のお手伝いできるんだからね』
『土のだってそうゆうの得意だもん!』
口々に各々の属性である精霊を推してくるな。最近やっと、よく会う精霊の個別認識ができるようになってきたのに増えるな。うるさいから店の裏手にある畑の様子でも見に行こ。森に行ったらまだ精霊の数が増える気がする。
店の裏手には栽培可能な薬草やらいくつかの野菜や果樹がある。ゴルディにはいつだって新鮮でおいしいものを食べさせたいからな!ちょっと手入れをサボったせいで雑草も生えてきたから抜かないと。
木と土属性の精霊がこんなときは活躍する。瞬く間に雑草を抜いていく。風と火属性は集めた雑草を乾燥させて燃やして処分をするし、水属性のは野菜に水やりを始めた。
え、超楽なんだけど。先着一体とか言わなければよかったかもしれない。
『リシアンもゴルディアスを見習って野菜も食べなきゃだめだよー?』
『そーだよ!ちゃーんと食べないと大きくならないよー』
いや、やっぱ一体でいいわ。口うるさい母親かよ。
『だって野菜、えぐいし苦いしあんまおいしくないもん』
そう言ったら『仕方ないなー』と言いながら木と土属性のが何やら魔法をかけ始めている。
『収穫のときには甘くなってるからねー』
『いっぱい食べるんだよー』
と言ってケラケラ笑っている。俺の畑、勝手に品種改良まで始まったんだけど。
木か土属性のと契約したらすっごい便利なのかもしれない。
時間が余ったから街に出て散策でもする。何か久しぶりに色んな店をゆっくり見て回れた。最近はちょっと忙しかったから、たまにはこうやってのんびりするのもいいかも。
街にいるときは前にした約束どおり、精霊たちも話しかけてこないしな。
託児院にも顔を出して、この間新しく作った「笛飴」を差し入れた。丸い穴が空いた飴は吹くと「ピーピー」音が鳴って楽しい。
子どもたちも喜んでくれて「次は別の味も作って!」と新たな課題までもらってきた。まぁ子どもたちのためにならいくつか別の味を作ってもいいかな。冒険者のためにはやらねぇけど。
笛飴は冒険者や猟師に非常食兼緊急時や合図の笛として新しく店に出そうとしている。子どもたちの反応もよかったし、ミレア姉さんレシピの菓子店にも置かせてもらってもいいかもしれない。
ちなみに、笛飴は失敗作から派生したものだったりする。
先日、自分でベリージャムを作ろうとしたときのこと。やたら粘度の高い固形の何かが出来上がった。どうにかならないかと薬草を混ぜ込んで、煮詰めていたら飴になった。
デカい塊になったから、割って小さくした。食べてみると少し、薬効がある?くらいの物になってた。ミレア姉さんのところに持っていって、成分分析をしたらやっぱり少しだけ薬効があった。でも薬として使用できるほどではなく、製品にはならないかと思っていたらめっちゃ褒められた。
「いつもは加減して効果を落としなさいって言うのに……リシアン、これはうまくできているわ」
だって。
「お年寄りから子どもまで大丈夫そうだけど、この形だと何かの拍子で……。窒息が怖いわね」
とミレア姉さんが少し配合を変えて柔らかくし、真ん中に穴を空けて成型した物を作った。溶ける早さはこれから調整を重ねるそうだ。
その形を見て、俺はピンときた。これ中を空洞にしたら「ピーピー」音が鳴るやつできるじゃん!と。早速、成型してできた穴の空いたちょっと柔らかい飴を
「ピーーーーッ!」
と鳴らす。
「お薬で遊んだらいけません!」
ミレア姉さんからガチで怒られた。それで、薬効がないならいけるかなと思って蜂蜜で作ったのが笛飴。
冒険者や猟師たちの非常食になるし、緊急時に鳴らせば便利!って説明したら非常に困った顔をしながらも実用性もあるしとオッケーは出た。改良して、持ち運びの際に割れないように強度は上げた。
帰ってからはいつものように冒険者たちに薬を売る。やっと店を閉めたらまた精霊たちがリシアンチャレンジを再開させてきた。
「リピャ゙ァン」
「何か……惜しくなってきたよな、お前」
ゴルディも横で褒めるように頷いている。
「ゴルディアス!」
「何でゴルディアスは流暢に言うんだよ、お前!わざとなのか?」
そう……つい、怒鳴ってしまったら
「リピャ゙アンノ……バカー!」
そう言って風の精霊は飛び出して行った。森へ向かう精霊を
「バカってなんだよ、バカって!」
そう言って追いかけようとしたら、ゴルディに止められた。
今は夜。外は真っ暗だ。森の中だとさらに暗いだろう。ちょっと前までなら、耳さえ聞こえていたら夜の森だって平気だった。
見えづらくても、音を頼りにして歩けたから。今は目に見える情報と……さっきの風のやつがだいぶ音を届けてくれたから何とかなってただけで。
この暗さだと見える情報も限られてくるから……夜の森へは入れない。
「分かってるよ、ゴルディ。森へは入らないから離して……」
そう言って家に戻った。思えば今日も風のやつは俺が託児院の子どもと話すときとか、街で買い物をするときとかずっと手伝ってくれていた。不便さを感じることがなかったのは、風のが手伝ってくれたから。
「風のやつに言い過ぎた。ごめん……」
そう言って、朝を待つ。
翌朝、風の精霊は他の精霊たちに連れられて戻ってきた。
『リシアン、ゴルディアスに止められたけど追いかけてたんだよ!』
『ほら、リシアンも反省してるよー』
『言い過ぎてごめんって言ってたよ』
……お前ら全部、バラしていくのな。
『風のやつ……ごめんな。昨日は言い過ぎたし、お前が頑張ってるのは分かってるから』
「……リシ、アン!」
風のがそろそろと俺のところにやって来る。
「お前、今ちゃんとリシアンって言った?!マジお前すげぇな!」
「リシアン!」
何だろ、これめっちゃうれしい。この風のと契約する!俺、こいつのこと大事にする。
で名付け、か。さすがにポチがダメってことは分かっている。でもいつも「風のやつ」とか「そこの風属性の」とかだったからな……。懐かしい呼び方を思い出した。
「……風乃でいい?お前の名前」
ニホンだかニッポンだったか……その時の発音でそう呼ぶ。変わった響きに聞こえるだろうけれど、意味は今までと変わらず「風のやつ」のままだ。
『ありがとう、リシアン!これからもよろしくね』
風乃もすごくうれしそうだからいいだろう。
『こちらこそ。あといつもあいがとぉ、風乃ぉ?!』
待って?!何で「ありがとう」だけ発音うまくいかねぇの?周りの精霊たちはキャッキャと笑っている。
「おい……ありがとうだけ発音できないんだが、この中に理由を知っているやつはいるか?」
近くにいた火のやつを掴む。
『……リシアンがぁ、ありがとうの発音だけいつまでも辿々しくてかわいかったからー』
『お願いしてそれだけそのままにしてもらったのー!』
そう言って『キャー』と言って散り散りに逃げ出す精霊たち。
『待て、何してくれてんだよ?!逃げんな!』
やつらを追い回しながら……俺は絶対に『ドゥ゙ゴピニャ』の発音は完璧にしてやると誓った。




