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トゲあるカノジョの甘いとこ~泣いていた『茨姫』を拾ったら、トゲある甘さが止まらない~  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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Epilogue

「はぁ……これでやっと落ち着いたわね」

「ほんとにな。数日、事情聴取やらなんやらで休む暇もなかったし」


 姫宮が病院でストーカー男に襲われかけた夜から数日経った後のこと。

 諸々の後処理を経て日常に戻ったはいいものの、休日まで休む間もなく疲れ果てた俺と姫宮は部屋でぐったりとしていた。


 結末だけを簡単にまとめると、あの男は逮捕された。

 俺が姫宮の元に到着して殴り飛ばした後、鬼の形相で追ってきた男から「変態ストーカーに襲われてます!!」などと叫びなら逃げ回り、何事かと集まってきた警備員によって男が取り押さえられた。

 俺と姫宮も参考人として警察のお世話になったのだが、繋いだままだった通話の録音と姫宮が殴られた際に服に付着した男の皮膚のDNA鑑定の結果、駐車場内に設置されていた防犯カメラの映像が証拠となり無罪放免。

 男を殴り飛ばしたのも姫宮の証言により正当防衛として認められ、前科がつくこともなかった。


 姫宮の母親からも謝罪と感謝をされ、色々話をしたところ姫宮も和解できたみたいで安堵した。

 これで姫宮も安心して家に帰れるな……なんて思っていたのだが。


「んで、姫宮は当然のように居座ってるんだな」

「そうね。あんなことがあった後だから、お母さんが私のところにいるより幽深くんのところの方が安全だろうって」

「普通逆じゃね?」

「家の場所が割れてるんだもの。あの男のお仲間が来ないとも限らないでしょ? それなら幽深くんの家の方が安全かな、とは私も思うわ」

「理屈はそうなんだが……これさぁ、親公認の同棲にしか思えないのは俺だけ?」

「…………私もほんのちょっと思ってたことをわざわざ言わないで貰える?」


 気まずそうな姫宮と目を合わせ、ため息が揃う。


 男子高校生がクラスメイトの美少女と一つ屋根の下、なんて漫画みたいなシチュエーションを喜ばない人はいないだろう。

 俺だってその一人だけど……ここまでガチ感が出ると、逆に「なんか騙されてない?」とか考えてしまう人間なわけでして。

 その上、一応俺の中では恋人的な好意が芽生えないままこんな状況になってしまい、嬉しさよりも戸惑いの方が強かったりする。


 え? お前は好きでもない女をストーカーから助けたのかって?

 俺しか頼れない人を見殺しにするのはちょっと違うと思うんですよ。

 何より「助けられたかもしれない」って後悔をするのも良くない。

 夢見が悪いのは嫌いなんだ。

 その相手が少なからず関わった友達ならばなおのこと。


 だが。

 だとしても。


「……母親直々に頼まれたら断れなくね?」

「…………そうよね」

「姫宮まで諦めたら本当に同棲ルート一直線だぞ? いいのかよ本当に」

「それを聞かれると困るんだけど……正直、いいか悪いかなら私もいい寄りの考えなのよね。お母さんが引っ越すまではこっちにいた方が安全だろうし」

「クラスメイトの男がいるのに?」

「幽深くんは自分がしたことを忘れているみたいだから今一度教えてあげる。私をストーカーから助けたの。息を切らして駆けつけた挙句、顔面ぶん殴ってまで。……その程度、問題にならないくらい信用するに決まってるでしょ、バカ」


 照れたようにほんのり赤く染まる頬。

 それを悟られないためか、僅かに顔を逸らしながらのジト目が突き刺さる。


 自分がしたことはわかっていたつもりだった。

 それでもいざ言葉にされて、反応でも示されると……中々クるものがある。


 ぶっちゃけ中二病の痛い妄想かよって感じだ。

 でも、それをしたのは他ならない俺自身。

 姫宮も認めていて、こんなにもらしい言動をされると――


「……なんか勘違いしそうになるからやめてもらっていいか?」


 俺も俺で調子が狂う。


 自分がしたことが間違いだとは思わない。

 そうではなく、実感があまりにも薄かった。

 俺がそこまで姫宮に入れ込むことになるなんて、拾ってきた当初は全く思っていなかったから。


 友達ではあると思う。

 しかし、その先は? と聞かれると、答えに窮してしまうのも事実。

 なのにこうも思わせぶりな態度を取られると「もしかして俺のこと好きなの?」とか考えてしまうのが童貞の悪い癖だ。


 やめた方がいいよホントに。


 自嘲していると、姫宮は深いため息をつきながら「仕方ないわね」と呟いて、おもむろに俺へ手を伸ばしてくる。

 唐突なそれを避ける選択肢が何故か浮かばず、姫宮の手が俺の頬に添えられた。

 指先で頬をむにむにと揉まれて気が抜けそうになるも、姫宮の整った顔が目の前に。

 真っすぐと俺を映す青い瞳が空みたいで、眩しい。

 瑞々しい桜色の唇に、どうしようもなく意識が引き寄せられてしまって。


「私、恋愛なんてしたことなかったし、これからもしないと思ってた。そんな余裕はなかったし、その前段階の仲の人すらいなかったから。でもね、そんな私をぶち壊してくれた人がいるのよ」

「へぇ……そりゃあ凄い人がいたもんだ」

「その人は捻くれてて、本心を隠したままなの。でも、優しくて、必要以上に気を遣ってくれるのよ。ボッチだって揶揄いながら無理矢理引きずって友達の輪に入れてくるような、そういう人」

「多分そいつ悪いやつだぞ。騙されない方がいい」

「私もそう思うわ。口を開けばしょうもない嘘ばっかりで、ラッキースケベを望んでる変態で、どちらかと言えばろくでなしだもの。――それでも、ね。助けて欲しい時に助けてくれる、ヒーローみたいな人なのよ」


 微かに笑って、さらに迫ってくる。

 状況を呑み込めない……反射的に拒んでしまう俺は身を倒すも逃げられず、姫宮に押し倒されるような形になった。


 一周回って冷静になった頭が、一つの結論を導き出す。

 これ、逃げられないやつだな……と。


「だから、先に伝えておくわ。――いつか、司くんに私のことを嘘偽りなく好きだって言わせてあげるから」


 宣戦布告とも取れる言葉に俺は何も返せないまま、姫宮の顔が近付いてきて。


 頬に触れた柔らかさが何だったのかなんて、考えるまでもなく。


「……これは挑戦状よ。こんなこと、軽々しくしないんだから。くれぐれもそのつもりでいて」

「…………おう」

「だから、ね。その…………私、司くんのこと、好きよ?」

「……………………まあ、うん。なんていうか、あれだ」

「こんなの私の柄じゃないって言いたいの?」

「それもあるけど……姫宮は将来、悪い男に騙されそうだ」

「なら、司くんが騙し続けて。悪い男に捕まらないように」


 責任重大が過ぎるだろ。

 とはいえそれも悪くないなと思うあたり、俺も絆されているらしい。


「いつものトゲはどこいったんだよ。これじゃああざと可愛いだけだろ」

「飴と鞭は使いようなの。身を挺して守ってくれた恩人には、これくらいの飴が丁度いいと思わない?」

「……明日雹でも降るんじゃないか?」

「酷い言い草ね。ま、じきに慣れるわよ。……これからもよろしくね、幽深くん?」

これにて完結です最後まで応援ありがとうございました!

色々端折った感じになってスマンネだけど一応区切りつけたから許してクレメンス;;

Epilogueの前にもう一話挟むべきか迷ったけど……これはこれでいいでしょう。

やっぱりもうちょっとリハビリ必要そうだなあと思いました。

また何かしら書くとは思います。

この作品が少しでも面白かったと思っていただけたら星を頂けますと幸いです……!


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