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第13話 ボッチじゃなくても捻くれてる人間なんて山ほどいるじゃない

「……幽くん、本当に連れてきたんだ」

「人望と人徳がなせる業だな」

「どこにそんなものがあるのよ」


 呆れ顔の姫宮を席まで連れてきて、一条を含めた三人で机を囲んで座る。

 昼食に誘えたのはいいが、全員ほぼ食べ終わった後だ。

 やることは雑談が八割以上を占めてしまう。


 しかし、それでよかったのかもしれない。


「とりあえず人馴れしてない姫宮は自己紹介からした方がいいんじゃないか?」

「人を勝手に猫みたいに扱わないで。……急にお邪魔してごめんなさい、一条さん。姫宮茨乃です」

「一条瑠璃。姫宮さんとお話できるなんて思ってなかったから、嬉しい。ところで、幽くんと仲いいの?」

「……色々あったのよ」

「姫宮は友達って認めてくれたからなあ」

「お願いだから余計なこと言わないで。話がややこしくなるから」


 友達判定は余計なことじゃないだろ。

 本当の余計なことは姫宮が家出して俺の家で泊まってるって方じゃない?


 けれど、一条は追及することなく「仲良さそうだね」と口にする。


「俺と姫宮は仲良しだぜ? 昼飯一緒に食おうぜって誘えるくらいには」

「幽深くんが強引に連れてきたんでしょ……私が断れないような言葉選びまでして、一体何が目的?」

「誘い文句の通りだよ。姫宮ともっと仲良くなりたいなと思ってさ」

「彼っていつもこうなの?」

「大体こんな感じ。真面目な顔して結構なお調子者」

「お調子者とは酷い評価だ。俺くらい大人しい男はそうそういないぞ」

「あと、嘘ばっかり。信じ込まない方がいい」

「本当にその通りね」


 一条に同意した姫宮がジト目で俺を見てくる。

 俺は詐欺師かなにかと思われてるのか?

 あんなにも誠実な言動を心掛けていたというのに。


 ……まあでも、嘘も悪いことばかりじゃない。

 綺麗事だけじゃ解決しない問題は山ほどある。


「けれど……嘘ばっかりなのを差し置いても幽深くんのことは信用できると思うわ。本当に不本意だけどね」


 ジト目を俺に送りながらパンを食べ切った。


 おや。

 おやおやおや?

 姫宮に信用できると言わせられたのは日々の努力の賜物ですかね?


「……意外。幽くん、いつの間に姫宮さんを落としたの? ずっと狙ってた?」

「落ちてないから。これはただの正当な評価よ」

「別に狙ってないし、勝手に落ちられても困る。俺のタイプは素直で清楚なお方だからなぁ。姫宮はかけ離れてるだろ?」

「素直でも清楚でもないって言いたいの?」

「強いて言うならツンデレ辛口美少女……属性的にはそれはそれでありだと思うが、単純に好みの違いだな」

「ツンデレは強い。デレた時のギャップで刺すのがベスト」

「……人を勝手にツンデレ呼ばわりしないで。ツンはともかくデレたことなんて一度も――」

「本当にそうかな? 俺なんかが飯に誘って来てくれたのは一種のデレじゃないのかね?」


 これまでの姫宮なら俺の誘いもすげなく断っていたはずだ。

 断われないような言葉選びをしたのは俺だろう、ってのは置いといて……それでも姫宮には断る選択肢が残っていた。

 その上で断らなかったのは姫宮の意思だからデレたと称してもいいのでは?

 家でのあれこれとか、昨日の夜の添い寝とかも俺の認識ではじゅうぶんデレの範疇に入るのですが?


 秘密に関わる部分は言葉にせず目線だけで尋ねてみれば「余計なことを」と言いたげな鋭い視線が返ってくる。


「……じゃあもういいわよ、それで。めんどくさい男ね」

「めんどくさい女に言われてもなぁ」

「二人とも仲いい。いつの間にこんなに話すようになったの?」

「…………色々あったのよ」

「そういうことだ」


 二度目の言い訳を姫宮と合わせれば、一条も「色々、ね」と繰り返す。

 詳しい内容を言わないのではなく、言えないと伝わってくれれば嬉しいが、一条はそういう察しのいいやつだ。

 線を引けば、その先には踏み込んでこない。

 俺たちだけの話をして申し訳ない部分もあるけど、これは俺と姫宮が今後も安心して学校生活を送るための予防線。


「姫宮さん、弱みを握られてるの?」

「人聞きの悪い言い方はやめなさい俺が全男子から目の敵にされるでしょ」

「心配しなくても大丈夫よ。幽深くんにはちょっと助けてもらっただけだから」

「ならいいけど。困ったことがあったらわたしにも相談して」

「……そんなに迷惑はかけられないわ」

「迷惑じゃない。友達なら、当然」


 一条が姫宮の手を握り、頷く。

 姫宮は困り顔でされるがまま。


 いきなり友達判定をされたら、その手の経験の薄い姫宮はついていけない。

 俺を含め男からの言葉なら切って捨てていたのだろうが、相手は一条。

 物怖じしない同性のクラスメイトに言われては姫宮も断り切れなさそうだ。


「私なんかを友達って言っていいの?」

「幽くんと姫宮さんが友達なのに、わたしが姫宮さんと友達になれないのはおかしい。ずるい。わたしも美少女とお友達になりたい」

「人生諦めが肝心なんだろ? 観念して友達増やして学校生活楽しくしていけ」

「……本当に、お節介な人ね。このために私を誘ったの?」

「一条なら流れを読んでくれると思ってたぜ。ナイスだ」

「駅前のパフェ奢りで手を打つ」

「外出る気ないのに?」

「それはそう」


 代わりに軽くハイタッチをすれば、姫宮も表情を崩した。

 そして、学校ではほとんど見られない穏やかな笑みを浮かべながら、


「……じゃあ、一条さん。私と友達になってくれる?」

「もちろん。美少女の友達は何人いてもいい」

「でもその美少女って言うのはやめてもらえたり――」

「じゃあ茨乃ちゃんって呼ぶ。茨乃ちゃんも瑠璃ちゃんって呼んで」

「え……? わ、わかったわ。ええと……瑠璃、ちゃん?」

「もう一回」

「……瑠璃ちゃん」

「今度は愛を込めて」

「……ふふっ、何よそれ」


 遂に軽く噴き出した姫宮へ、満足そうに一条がピースを見せつける。


 仲がいいのはよきことかな。

 美少女同士なのがなおよろしい。


 しっかしまあ、この短時間でここまで姫宮を絆すとは……一条さんマジぱねぇっす。

 俺はあれだけ話してもまだ名前呼び出来ていないのに!

 ……したいかどうかを聞かれると別にいいかな、って気になるけども。


「幽くん、羨ましい? 先に名前呼びしちゃった」

「俺より先どころか全校生徒含めて一条が初めてだろ。姫宮はこれまでボッチだったんだし」

「いきなり刺してこなくてもいいじゃない。ボッチの何が悪いのよ」

「そういう捻くれた精神性を作る原因になるのが悪いんじゃないか?」

「ボッチじゃなくても捻くれてる人間なんて山ほどいるじゃない。幽深くんとか」


 鼻で笑いながらのカウンターパンチ効く~!


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