第97話 新・・・兵器?
ザンザたちは、魔虫アブンブとユスリカ、それに軍隊ハネオオアリの猛攻に晒されていた。 煽られ、集られ、掴まれて引きずられるようにして、もはや踏みとどまるのが難しい状況に陥っていた。
一方、中央ファランクス隊のオルクスにも、同様に魔虫の被害が出始めており、戦場全体が混乱の兆しを見せていた。
「うわー大混乱ですよ、セシリア様!」
ラキの叫びに、セシリアは渋い顔で呟く。
「だから進めって言ったのに……だけど、もう遅いかな……」
ザンザたちとオルクスたちは、中央観測棒の付近まで後退しており、右翼側でも魔虫たちが進行を続けて中央観測棒の位置にまで迫っていた。
「ラキちゃん!」
「はっ、はいっ!」
「これ以上魔虫が進行するとどうなるかね?」
「え〜と、エレバン帝国外城壁に到達し、空を飛んで城壁内に侵入すると思われます!」
「その通りだ! 城壁内に侵入されたらどうなるかね?」
「一部な城へ侵入し、一部は王都へ進行し、エレバン帝国内で、大大混乱が起きます……」
「そうだ! その大大混乱を避けるため、我々第三師団は今、このタイミングで攻撃をしなくてはならない! しかし攻撃対象がいる場所には多数の兵士たちがおり、攻撃に巻き込まれて負傷または犠牲が出るやも知れない。だが、エレバン帝国並びに国民を大大混乱から守るために、我々はやらねばならんのである!」
「……なんですか? この先に言い訳をしている空気感は……」
「ラキちゃんに証人になってもらうために、大義名分を先にね。おほん! では、攻撃開始!」
セシリアの号令と共に、戦場に響き渡るファンファーレ。
パパラパッパラパッパッラパパパパー!パパラパッパラパパパパ〜!
その大仰な音に、ラキは驚愕した。
(なんですこの大仰な仕掛け……しかもレーカさんのメイド隊が戦場に向かって、私とセシリア様の前で盾構えたし、一体なにが起きるの〜〜)
「今の、第三師団攻撃の合図だよな?」
「……ああ、間違いない」
離れた場所にいるザンザとジンも、ファンファーレに気づき目を見交わす。
「こんなに距離があって大丈夫かよ」
そう言った瞬間、左翼側面のボウガン隊と左翼本陣の弓隊の方向から、
「シュッヒューーーン!」という鋭い音が響き渡った。
直後、ザンザたちの頭上わずか一〜二メートルの空間で――
「バンッ!」
何かが炸裂。
次の瞬間、アブンブやユスリカが二十匹ほど、羽をもがれた虫のように地面へと落下し、消えていく。
「なっ、なんだ……?」
それは、ボウガン隊と弓隊が放った『爆投矢』の威力だった。
爆投矢は、やや太めの矢軸に推進剤を仕込み、射出時の摩擦熱で導火線に着火。
内部の推進剤が燃え上がると、矢尾から白い光を噴き出しながら加速し、
ヒューという鋭い音と共に標的へと迫る。
そして矢尻に詰められた風魔石の粉が起爆し、半径二メートルに衝撃波を放つ。
飛行型の魔虫は羽が脆く、衝撃波で容易にもぎ取られてしまう――
この矢は、まさにその弱点を狙い撃つ切り札だった。
「やるじゃないか。俺たちは体制を低くし、そこにある棒に敵を引きつけるぞ」
「分かった」
しかし、ザンザはその棒がただの目印ではなく、観測用に設置された重要な装置だと、知る由もなかった。
中央ファランクス隊にもファンファーレが届き、オルクスはセシリアの「後ろから石をぶつけるぞ」発言を思い出し、叫んだ。
「後ろから飛んでくる物に気をつけろ!」
その指示と同時に、蛍光塗料が塗られた小さな物体が、シールド兵の方角から飛来。
「なんだあれは、あんな小さい物飛ばしよって!」
手のひらサイズの石だと軽視した瞬間――バーン!と音を立てて破裂し、アブンブとユスリカが三十匹ほど吹き飛んだ。
それは、カタパルト隊が投石器を使い発射した『手投爆球』だった。
直径十センチの黒い球体で、内部に風魔石の粉、外部に柔らかい信管部を持ち、そこを押し込むと五秒後に爆発。 半径五メートルに衝撃波を放つこの兵器を、今回は手投ではなく、投石器に三個ずつ乗せて後方から発射していた。
「こんなのを開発しているだなんて……なかなかやるわい!その長い棒が目印だな……」
オルクスはそう言って、観測棒を単なる射撃の目印だと勘違いし、隊をその後ろに下げて再編成。 だが、その判断が後に重大な事態を招くことになるとは知らずに。
右翼側では、セシリアの伝令どおり、初撃の地点から部隊は一歩も動かなかった。
中央観測棒付近に兵士はいなく、魔物たちが光魔法陽光兵で光る、中央観測棒に集り始めていた――そして第三師団バリスタ隊の新兵器、通称「カチューシャ」が咆哮をあげた。
固定された大型馬車の荷台、その上に据え付けられた新型バリスタが唸りをあげる。
放たれたのは、大矢ではなく短槍をさらに太くした特製の弾――内部に推進剤と風魔石の粉を詰め込んだ代物。
「発射!」
轟音とともに槍は空を裂き、瞬く間に推進剤が点火。
背後に白い炎の尾を引きながら、猛禽のような速度で標的へ迫る。
――直後。
閃光。
中央観測棒付近で、空気が破裂するような衝撃波が四方八方へ叩きつけられた。
「バーーーーーンッ!」
鼓膜を貫く炸裂音とともに、半径二十五メートルにいる魔物が吹き飛び、地面から土煙と破片が空高く舞い上がる。
シールド兵たちは思わず身をかがめ、口を固く閉じ、舞ってくる土煙をやり過ごす。
その威力は、中央で使用されている手投爆球の五倍――爆心地は地形ごと抉られ、そこには少し焦げた大穴だけが残った。
土煙の向こう、その様子を後方の高台から黙って見ていたオリバルは、まるで時代の境目を目撃したかのように目を細める。
そして、感慨を押し殺すように、低く呟いた。
「……新時代の幕開けかのう」
その声には、勝利の喜びと、古き戦場の終焉を惜しむ寂しさが、確かに同居していた。
その頃、第三師団の攻撃開始に合わせて、エバは中央指令本部から空を外に連れ出し、戦況を見せていた。
「……これは」
空の目が見開かれる。
「他の世界で見たことがあるかもしれませんが、惑星イオの人間たちは、飛行する敵に対抗できるようになりました」
「……ああ」
短く返事をする空の目には、なぜか涙が溢れていた。
(ルシフィス様が天使と悪魔に分かれてしまった事件――)
エバは心の中で思う。
(あれは、人間たちが飛行する魔虫に為す術なく襲われるのを見て、すべてを守ろうとしたルシフィス様が、間に合わなかった無念から心が引き裂かれた結果。
でも、今……人は進化を遂げ、自分たちの力で空からの脅威に立ち向かえるようになった。
だから、もう心配しなくてもいいよと……それを、空の中にいるルシフィス様に伝えたかった)
そして、その想いは、きっと空の奥深くにいるルシフィスに届いたはず……。




