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天空門のルシフィス  作者: かみちん
惑星イオ 光国編
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第89話 ツベツ平原防衛準備

空と美加の背後から、名前を呼ぶ声が響いた。


「空さん! 美加さん!」


振り向くと、エバが風を切って空を飛んでくるのが見えた。


「エバさん……!」


空が手を振ると、エバは鋭く着地して駆け寄ってくる。


「天界から戻って来ていたのですね」


エバは空に声をかけながらも、その視線はぴたりと美加に向けられていた。どうやら激おこで、空を天界へ連れて行った張本人なので、ことが済んだのか美加の様子を伺う。 エバの視線に気づいた美加は、微笑みながら「もう大丈夫」と目で伝える。


エバはそれを受け取り、安堵して本題に入った。


「それにしても、どうしてここへ?」


「ミラー城を目指していたんだけど……なぜか、ここに着いてしまって」


「なるほど……。私は半蔵さんから、ツベツ平原に魔物が大量に湧いていると聞いて、エレバン帝国の兵士を転移で送っているところです」


「でも、それだけの兵士をどうやって……」


空が不思議そうに聞くと、エバは少し得意げに言った。


「世界は狭いようで広いもの。兵士たちを歩かせていたのでは様々な事に対応出来ません。そこで、彼らには緊急時に転移可能なアイテムを持たせています。これは本来、僧侶や魔法使いが危険時に強制転移する“帰還魔法石”の応用版。転移先はこの宝珠がある場所に出来ます。 緊急時用なので一度使うとしばらく使えませんが……」


「すごい仕組みだね……」


「――あまり話している時間はないわ」


美加が周囲の様子を見渡して言う。


「そうだった……エバ、あの魔物たちの中に、魔物化した人が混じっているみたいなんだ」


「では、戦いながら救出、ですね」


エバが頷く。


「私がスキルで、魔物化した人たちの正気を戻す。姿は……あとで戻せるので……」


魔物化を治す、空の脳裏に浮かぶ天使の雫……のためちょっと歯切れが悪くなるのだった。


「わかりました。先陣が魔物と接敵した頃合いでお願いします。あまり早く戻してしまうと、混乱して逃げ出しかねませんから」


「了解した」


「では、兵士たちの後方へ」


エバの指示に従い、空と美加は兵士の列の後方へと下がった。


ツベツ平原はほとんど起伏のない広大な草地で、見通しは非常に良好だった。魔物の群れは、すでにニキロほど先に姿を見せている。


斥候兵が報告する。


「魔物までの距離、約ニキロ。魔物は魔虫軍隊オオアリの群れです!」


魔虫軍隊オオアリ、体長四十センチくらいのアリ型の魔物で、複数体で獲物を噛み、動けなくしたあと解体担当が、獲物を解体して巣に運んでいく習性がある魔物。

野生で誕生した種は主に大陸中央にある樹海におり、倒した後素材やアリ蜜などが取れる。召喚で呼ばれた種は、倒すと体は無くなり魔石になる。



第一師団師団長・オルクスがすぐさま命令を飛ばす。


「第一師団、シールド兵と魔法兵に対魔虫の準備を! ザンザには『要救助者あり』と伝え、左翼から陽動をかけるように!」


「はっ!」


連絡兵が駆け出していく。



第一師団師団長・オルクス。ハリス皇帝と同じ歳で、若い頃から親交のある旧知の仲だ。かつてはハリアの教育係でもあったが、ハリアの無謀なゴブリン討伐計画を咎めた後、左遷され訓練係を務めていた。しかし今回、エバの招集により師団長へと復帰していた。


一方の第ニ師団師団長・ザンザは、シールド領出身の元冒険者。ランクA昇格を機にオルクスに見初められ、軍へ。馬術と槍剣の腕を買われて師団長に上り詰めた逸材である。


そのザンザの元にも、連絡が届いた。


「ザンザ様、オルクス様より伝令です!」


「ほう、オルクス様が師団に復帰とは……で、内容は?」


「敵は虫型が多数。中に魔物化した人間がいるそうです。先頭は軍隊オオアリ、左翼からの陽動を要請とのことです!」


「ふむ……要救助者ありか。軍隊オオアリなら、司令役がいる可能性がある。つまり、それを炙り出せということだな。了解したと伝えてくれ」


「ははっ!」


ザンザはすぐに騎馬隊に命じる。


「陽動をかける。十人ほどで構わん。騎乗して、敵の側面から様子を見るぞ!」


「了解!」


その頃、第一師団の準備も整っていた。


「シールド兵と魔法兵の準備完了です!」


「よし、横陣隊形で前方に対魔虫罠を展開しろ!」


「ははっ!」


魔法兵たちが詠唱を始めた。


「アースバンク!」


地属性魔法アースバンク――地面に緩やかな下り坂と急な上り坂を作り、進行を遅らせる罠だ。上り坂には滑りやすい細かな砂粒が撒かれており、魔物たちは滑って登れない構造になっている。その上り坂の上には、シールド兵たちが整列し、迫り来る魔物を迎える。


「さすがに横一列に並ぶと壮観だな〜」


「前の罠に落ちるなよ」


「分かってるさ。でもあの魔物、どれくらいいるんだろ」


「こっから見ただけでも五千……奥までいれば、十万はいそうだな」


「十万!? こっちは師団全部合わせても五万くらいだろ!? 大丈夫なのかよ」


「虫型が多いからな。俺たちが引きつけておけば、アタッカーたちが一気に仕留めてくれるさ」


「頼むぞ〜、アタッカー部隊!」


兵たちが士気を高める中――中央の第一師団司令本部では、オルクスとエバが話していた。


「エバ様、お久しぶりです」


「急な呼びかけに応じていただき、感謝します」


「いつでもお呼びください。……ハリア様の件は、本当に残念です」


「あなたが気に病むことではありません。彼が悪魔に魂を売ったのが、全ての原因です」


「……はい。ところで、そちらのお方は?」


「熾天使様です」


「私はルシフィス。空と呼んでください」


「ミカイルです。私は美加と呼んでください」


「かしこまりました。熾天使様が直々に……感謝の極みです!」


「挨拶はそこまで。あまり時間がないので、簡潔に説明します」


エバは要点を告げた。


「大群の中に魔物化した人がおり、空さんのスキルで魔物化した人間を正気に戻します。姿は戻らないが、魔物は赤く、魔物化している人は青く光るようになるので、まずは青く光った個体を回収し、その後に赤く光る魔物の殲滅へ」


「承知しました。全軍に伝えます――あ、失礼。念話が」


オルクスが耳に手を当て、ザンザとの通信を受けた。


「ザンザからです。敵は脇目も振らずゆっくり、エレバン城へ向かっていると。騎馬隊がちょっかいを出しても無反応だったそうです」


「……それは、好都合ですね」


「はい。罠にかかり止まったところで、魔物たちはスルーして、魔物化した人たちを救出できますな」


「そのように頼みます」


「かしこまりました」


「空さん、全体にスキルをかけても構いません。お願いします」


「わかりました」


空は両手を掲げ、《無空間》と《調律》のスキルを発動した。穏やかな光が、戦場全体を包む。


そのとき、連絡兵が報告をあげる。


「報告! 魔物たち、まもなく罠に突入します!」


「全軍に伝えろ! 青く光る魔物には攻撃するな! 赤く光る魔物は敵だが、今は様子を見る救出が先だ!」


こうして――

エレバン帝国に進行してくる魔物は魔虫軍隊オオアリと判明し、軍隊オオアリたちは縦に長い長方形の隊列を組み進行して来ていた。


対するエレバン帝国軍は、最前列に第一師団の防御に特化したシールド兵を、左翼、中央、右翼に渡り、横に長く三列に布陣していた。


中央は、第一師団シールド兵とファランクス隊と第三師団と中央指令本部


左翼は、第一師団シールド兵と第ニ師団騎馬隊とアタッカー隊(攻撃特化した歩兵)と第三師団と司令部


右翼は、第一師団シールド兵と第四師団魔法兵(魔法使い、魔法剣士)と回復兵(僧侶や神官)と第三師団と司令部


第三師団、戦場全体の後方支援とエレバン城、外城壁上にて作戦本部を設けて、遠距離支援の準備をしていた。


各師団が準備を整え、ツベツ平原での防衛戦の幕が、静かに上がろうとしていた。



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