表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空門のルシフィス  作者: かみちん
惑星イオ 光国編
86/101

第86話 地の底からの裁き

ハリス皇帝にとどめを刺そうと、ハリアがハリス皇帝の短剣を拾い、振りかざした――その瞬間。


突如として、皇帝の周囲に白いモヤが立ち込めた。霞のように揺らめくその霧の中から、エリアたち一行が姿を現す。


「な、なんだ……?」


戸惑いの声を上げたハリア。その直後、真っ先に状況を把握したオレクが、猛然と駆け出し、体当たりを叩き込んだ。


ドゴッ!


「ぐはっ!」


壁際まで吹き飛ばされたハリア。その場に立つオレクが名乗りを上げる。


「おまいさんがハリア皇太子か……」


「貴様は何者だ!? どこから現れやがった!」


「俺はオレク。アレク・サンダー王の一番弟子よ!――エレノア、頼む!」


「了解!」


名を呼ばれたエレノアが指先を振り上げ、鋭い声で呪文を唱える。


「アイスピラー!」


青白い光が走り、ハリアの足元から氷の柱が立ち上がり、その動きを封じた。


「グッ……! 次期皇帝の俺に、こんな無礼を働いてタダで済むと思うなよ!」


憤るハリアを横目に、オレクはエレノアに問いかけた。


「エレノア、他は?」


「奴らは……そうか! 周りは大丈夫、動けないみたい」


そう答えたエレノアは、周囲を見渡すうちにイザーナと姉を襲ったキール、ガレスの姿に気づく。そして、アイアン・メイデン改の存在が頭をよぎった。


その間に、イザーナが急ぎハリス皇帝のもとへ駆け寄る。


「お父様! 今、助けます!」


血に染まり、地に伏す皇帝。その顔にはもはや生気が感じられなかったが、娘の声にかすかな力を振り絞り応える。


「おぉ……イザーナか……」


弱々しい声。それにイザーナは涙をこらえながら頷いた。


「はい! いま回復します。……キュア!」


回復魔法の白い光が皇帝の傷に注がれる。しかし、その癒しの魔力もむなしく、傷は癒える様子を見せなかった。


「……治らない。……この剣のせいね」


イザーナが皇帝の胸に突き刺さる黒き剣に手を伸ばそうとした――その時。


「待て!」


鋭い声とともに空間が歪み、隠れていた存在たちが現れた。左鬼、妖狐、ぽん吉、そして――雅閻魔。


「それはデモンズソードじゃ。耐性のないお主が触れれば、たちまち剣に操られ皇帝に止めを刺しかねんぞ」


慌てて手を引くイザーナ。


「……じゃあ、どうすれば」


少し困った様子の左鬼が答える。


「デモンズに関わる物は、天使の加護か高位司祭の退魔魔法でしか浄化できぬ……が」


その言葉の途中、天井から眩い光が差し込んだ。まるで金糸を垂らしたような神聖な光。


「これは……」


「天使の階段。魂の回収に来てしまった。儂らではどうすることも……」


光の中から舞い降りてきたのは、小さな白い翼を持つ天使――フランとダース。穏やかな笑みを浮かべ、ハリス皇帝のもとへと近づいていく。


「ダメ……来ないで! お父様はまだ生きてる!」


イザーナが必死に叫ぶが、天使の到来に呼応するように、皇帝の魂が体から離れ始めていた。


そのとき――


「イザーナ! これを!」


駆け寄ったエリアが、手にしたアイテムを差し出す。


「これは……?」


「空さんから託された天使のアイテム。詳しくは後で説明する。デモンズソードに使って!」


「分かった!」


イザーナはそのアイテムをハリス皇帝の傷口へと振りかけた。銀色の粉が広がり、デモンズソードは音もなく崩れ落ち、傷も癒えていく。


フランとダースは微笑みながら、離れかけた魂を皇帝の体に戻し、静かに天へと帰っていった。


左鬼が皇帝の脈を確かめる。


「命に別状はない。しばらくすれば目を覚ますだろう」


「……よかった、本当に……」


イザーナは胸をなでおろし、エリアに尋ねた。


「あのアイテム、一体何だったんです?」


「ええっと……空さんからもらった物だから……詳しくは分からなくて……」


「そう……空さんには本当に感謝ですね」


エリアはふっと視線を伏せた。 (あのアイテムの事は極力黙っておこう)


しかし、安堵の空気は一瞬で破られた。


「イザーナァァァ!」


怒声とともに、氷を砕いてハリアが立ち上がる。怒りに満ちた顔で叫ぶ。


「お兄様……」


「余計なことをしやがって! キール! 名誉挽回のチャンスをやる。イザーナを殺せ!」


だが、キールたちは動けなかった。声を震わせ、雅閻魔の方を見る。


「……み……雅閻魔大王様……」


普段から顔色の悪いガレスが、さらに青ざめて呻いた。


「その小娘が閻魔大王だと? バカ言って誤魔化すな!」


「小娘とは……わらわ、そんなに若く見えるかのぉ。うれしい限りじゃ」


とぼけるように微笑む雅閻魔。しかしその声には、圧倒的な威圧が込められていた。


「まぁ、今お前たちに用事があるのは……別の者たちじゃ」


その言葉と同時に、部屋の外から悲鳴が響いた。


「キール! 助けてくれェ!」


ガチャリ――扉が開き、血まみれで骨の折れたキールの仲間たちが投げ込まれるようにして転がり込んできた。


「な……何が……!」


その後ろから姿を現したのは――五体のダークゴブリン、そして、その中心に立つ、黒き王。


「やっと見つけたぞ……ハリア、キール、ガレス……」


「な、ゴブリンが人語を……!」


「お前たちのせいで、我らの同士たちが多数殺された。許さない……絶対に許さない」


「笑わせるな! お前らが子供を襲えば、人類の敵だろう!」


「我らは……地蔵菩薩様の慈悲によって、子供たちを守ってきたのだ」


「……そんな馬鹿な」


キールはゴブリンの正体を知っていた。咄嗟に目を閉じる。


「それは本当のことじゃよ」


静かに告げる雅閻魔。その言葉に、ブラックゴブリンキングは一礼した。


「地蔵菩薩様……申し訳ありません。こんなことになるとは」


「よい。そなたの行い、今後の行いも不問にするぞ」


「ありがとうございます……」


「勝手なことをぬかすな! 俺は次期皇帝――」


バキィッ!


叫んだハリアの左腕が、ブラックゴブリンキングによって掴まれ、無慈悲に握り潰された。


「ぐあああっ!!」


「これまでの恨みを返させてもらう」


左鬼が即座に叫ぶ。


「オレク! エレノア! こっちへ!」


二人に呼びかけると、皆が執務室の窓際へと集まった。


直後――


執務室の中央で、復讐の宴が始まった。


ダークゴブリンたちとブラックゴブリンキングが、ハリア、キール、ガレス、そしてその仲間たちを容赦なく殴りつける。骨が砕け、血が飛び散る。


あまりに凄惨な光景に、左鬼は雷のシールドを展開し、部屋中央を隠すようにモザイクを施した。


「も……もう許して……」


「助けて……」


「……キール……」


呻き声だけが、静まり返った部屋に残っていた。


――名声のために弄ばれた命たちの、報復はようやく果たされ始めたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ