第8話 南東樹海調査計画
エレノアの実力テストを終えた空と美加は、ミラー城下町を案内されていた。町にはパン、小麦類、ジャガイモ、人参、キャベツといった野菜類、チーズやバターなど、惑星ガイアと似た食べ物が並んでいる。
今、空たちが食べているのは「ジャガバター」ほくほくのジャガイモにバターをのせ、溶けかけたところを一口で頬張る。
「うまい! 料理としてはシンプルだけど、絶品この上ないな」
「美味しいですね」
「喜んでくれて嬉しいです」エレノアも微笑む。
(惑星ガイアの料理も美味しいけど、惑星イオも負けてないな)
と空が思いつつ、二つ目に手を伸ばしたときだった。
「おっ、美味しそうだね」リアムが姿を現す。
「はい、美味しいです」空と美加が笑顔で応えると、リアムは満足げに頷いた。
「楽しいところ申し訳ないが、領主ルーク様から正式に南東樹海調査の許可を得てきた。これからギルド館に戻って計画を立てたい」
「わかりました、行きましょう」
エレノアも同行し、一行は再びギルド館へ向かった。
ギルド館に戻ると、メイソンとカーターが談笑しながら待っていた。
「町の様子はどうだった?」メイソンが尋ねる。
「良い町ですね」
「魔王軍が来なければ、もっと賑わってたんだがな。早く平和が戻ってほしいもんだ」
「じゃあ、俺の部屋で作戦会議を始めよう」
メイソンの部屋に着くと、彼は机に大きな地図を広げた。
「これが南東樹海周辺の地図だ」
惑星イオは大きな菱形の大陸を中心に、小さな島々が点在している。中央には「ダイセツマウンテン」がそびえ、その周囲を円状に「樹海」が囲む。樹海は十字に線を引いたように四分割され、それぞれ北東・南東・北西・南西樹海と呼ばれていた。
火山「トーカチ山」、渓谷「ダイセツキャニオン」、そしてそれぞれに宿る精霊たち。さらに人間の住む光国と魔族の住む闇国の国境など、様々な情報が地図に記されている。
「問題は、この南東樹海がとにかく広いってことだ」
リアムが提案する。「まずは入口近くに拠点を設けて、そこから手分けして調査するのがいいだろう」
「私の結界は半径二十キロ以内なら、魔物化した身体を落ち着かせられます」空が説明する。
「それは助かります。結界内に魔物や動物を誘導すれば、冒険者や兵士も安全に保護できるかもしれない」
「実際に触ってみないと微調整は必要ですが」
「それなら、俺のスキル《冒険者集合》が使えるかもな」
メイソンのスキルは、声のようなオーラで冒険者登録者に自身の居場所を知らせ、集合を促すものだった。
「兵士にはラッパで音を使って呼びかけさせよう」リアムが言う。
物資の手配はエレノアに任され、空と美加は準備が整うまで待機することとなった。宿泊はギルド館の三階の宿を使えることになり、二人は部屋へと案内された。
部屋に落ち着いた空は、惑星イオに来てからの出来事を思い返していた。
(科学の進んだ惑星ガイアと魔法の進んだ惑星イオ……。魔物化なんて、ガイアでは考えられないことだ)
一方、美加の部屋には熾天使ガブリールが現れていた。彼女は女神の神託を伝える存在であり、下界にもたびたび降りてくる天使だ。
「こちらは無事に進行中です。樹海での魔物化について、何か分かりましたか?」
「悪魔たちが不穏な動きを見せています。しかも、あの自由奔放な悪魔たちが連携しているようなのです」
「……統率者が現れた?」
「おそらくは。魔王の手先か、あるいは別の存在に操られている可能性も」
ラファイルもすでに下界に来て調査を始めていると聞き、美加は真剣な表情を見せた。
「二百八十年前の悲劇を繰り返さないためにも、お願いしますね」
「分かりました、ミカイルお姉様」
「……って、それはそれとして胸が大きくない?」
「すみません、女神様の配慮で……」
ガブリールが去った後、美加は小さく呟いた。
「せっかくルシフィス様と一緒なのに……もうちょっと、こう……胸が……」
翌朝。
「おはようございます」
空はギルド館一階で皆に挨拶を交わし、準備の様子を見守っていた。
「よし、準備は整った!」メイソンが声を上げる。
メンバーはメイソンと冒険者数名、リアム、ミラー領兵数十名。荷物を積んだ馬車五台で出発することになった。
「空さん、美加さんはあの馬車に乗ってくれ」
二人が乗る三台目の馬車は、兵士たちが気を遣ってあまり干渉しないよう配慮された特別なものだった。
「じゃあ、出発だ!」
こうして一行は、南東樹海へと進み始めた――。