第75話 招集の風、光の塔へ
オレク、イザーナ、そして超位精霊たちが先に集まっていた。熱を帯びた地獄岩――岩自体が熱を発するという特殊な鉱石――で作られたテーブルの上には、香ばしい匂いが立ち込めている。オレクが焼き上げたイボブーの串焼きと、地の恵みをふんだんに使った山菜スープ。その湯気がゆらゆらと上がっていた。
「うわぁ〜、いい匂い!」
後から来たエレノアが目を輝かせて駆け寄ると、その視線の先には、妖艶な空気を纏った妖狐と、どこか憂いを帯びた表情のぽん吉の姿があった。
「妖狐さん、こんにちは」
にこやかに声をかけたエレノアに、妖狐も柔らかく微笑み返す。
「こんにちは、美味しそうやね〜」
続いて、エレノアの視線はぽん吉へと向かう。だが、いつもと違って彼の顔には陽気さが感じられなかった。
「ぽん吉さんは……元気ないですね?」
「エレノアさん、こんにちは。ミアちゃん、見いひんかった?」
ぽん吉の声はどこか寂しげだった。
「いや〜、見てないですね」
「そうか〜……あの純心な瞳を見て癒されたかったのに〜」
「お気持ち、お察しします」
エレノアは少し困ったように微笑んだ。
シルフェードとの契約の後、天空門の屋敷にてエバが玄関ロビーでミアに会い、彼女をティオーネ教団へ連れて行っていたのだ。
「しかし、エバ様がミアちゃんを連れて行くなんて。珍しいというか……」
エレノアがつぶやいたそのとき、不意に後ろから声がかかる。
「エバ様がミアちゃんを連れて行く際に、なにか四角い紙みたいなのを見せたら、ミアちゃん、喜んでいたわね」
「わあ、姉さん、いつの間に……」
驚いたエレノアに、エリアはふふっと微笑んで見せる。
「ところで、ぽん吉さんはティオーネ教団には行かないのですか?」
「それがな〜、もう最高峰でデンジャラスな任務があるさかい、中々時間取られへんのよ。それにな、わいらの主神は男神様やから、女神の結界に触れると……黒いたぬきさんが完成するんやで」
(意外なところで、女神様と男神様の効力が……これは人間の私には触れられないお話ね……)
エリアは心の中でそっと思った。
「心配してくれてありがとな。でも、まああまり気にせーへんでええんよ」
そう言いながら妖狐が立ち上がると、ぽん吉に声をかける。
「ほら、ぽん吉、行くで!」
「あいあいさ〜」
ぽん吉も立ち上がり、妖狐とともに任務へと向かって行った。
「妖狐さんもぽん吉さんも、大変だな〜」
エレノアが呟くと、隣のエリアも小さくうなずいた。
「そうね。あのキールたちがどうなったか聞きたいけど……イザーナ様が思い出されても困るし」
「ちゃんと調教されてますよ。閻魔様が命じているんですし」
エレノアの言葉に、エリアは小さく息を吐いた。
「閻魔様や天使様といった“架空の存在”だった方が、実在して介入されるなんて……神話かおとぎ話の世界に迷い込んだみたいで、まだ落ち着かないわ」
「そうですね〜」
エレノアも、少し夢見るように頷いた。
そのとき――
オレク、エリア、エレノア、イザーナ、そして超位精霊たちが共に食事をしていると、突如、風が揺らぎ、そこに風の精霊シルフが現れた。彼女は軽やかな足取りでシルフェードのもとへ近づき、何かを囁く。すると、現れたときと同じように、風とともにふっと姿を消した。
「エリア、エバ様からの伝言よ。明日の昼、エルサリアの光の塔に来るように、とのこと」
シルフェードが静かに告げる。
「分かりました。皆さん、良いですか?」
エリアが周囲を見渡すと、エレノアが即座に頷いた。
「もちろんです」
「おうさ!」
オレクが力強く答える。
「分かりました」
イザーナも落ち着いた声でうなずき、クルルが元気よく「クー!」と鳴いた。
「では、明日よろしくお願いします。私が場所を知っていますので、安心してください」
エリアの言葉に皆がうなずき、一同の決意は固まった。
シルフェードとの契約から数週間。ようやく届いた光の塔への呼び出しを受けて、エリアたち一行は準備を整え、エルサリア町へと旅立つのだった。




