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天空門のルシフィス  作者: かみちん
惑星イオ 光国編
55/101

第55話 出会ったちゃった! ミアとぽん吉

天空門の屋敷。その玄関ホールに、ひときわ異質な姿があった。


 一匹のタヌキ――いや、妖怪タヌキ・ぽん吉が、短い脚で床をトコトコ歩きながら、きょろきょろと辺りを見回していた。


「え〜と空はんは何処や……この屋敷、迷路みたいやがな……」


 しっぽを揺らしながら呟いたその声は、どこか陽気で、関西弁の調子が耳に心地よい。だが、周囲の人々は突然現れた丸っこい毛玉に、驚いて遠巻きにしている。


 と、そんなぽん吉の前に、ぱっと現れたのは天空門の開発部長、ミア・ムーアだった。


「おわっ! タヌキだー!」


 ミアは瞳を輝かせながら駆け寄ってきた。白衣をひらひらさせて走ってくる姿は、まるで研究室から逃げ出した妖精のようだった。


 ぽん吉は思わず顔を綻ばせる。


(くっ……どの時代でもこのフォルムはお子様に大人気やな……妖怪変化して幾星霜、わいは罪なタヌキやで)


「初めまして〜、わいは妖怪タヌキのぽん吉ですう〜」


「おおー! 関西弁タヌキ! かわいい! ボクはミア・ムーア、天空門の開発部長でドリード王国の研究員なんだ!」


「ほ〜、まだお若いのにしっかりしてはるな〜」


「ぽん吉さんは何してるの?」


「そうやった。空はん探しててな。空言うても、そらに浮かぶ“お空”やあらへんで?」


「アハハ、分かってるよ。空にぃなら、ミラー城に行ってるよ〜」


「おおきに! ……って、ミラー城って、行ったことあらへんがな」


「じゃあ、ボクが一緒に連れてってあげる!」


「ホンマか!? ええ子や〜! ほなご褒美に、ペロリンキャンデーあげまひょ!」


「わーい! この形、なつかしー!」


 飴を手にしたミアがぱあっと笑顔になる。ぽん吉はその姿に満足そうに頷いた。


「ほな、ミラー城へ――出発や!」


 


 その頃、ミラー城の光鏡砲塔の地下では、空、ドーリ、そしてルークの三人が巨大な――光鏡砲の最終調整を終えたところだった。


「光球から吹き抜けを通して、真下に光線が撃てるようになったから、あとは魔法の鏡を設置するだけだな」


 ドーリが図面を広げながら確認する。空は頷き、床にチョークで印をつけた。


「このあたりで良いですか?」


「おう、ミアが印を付けてたな……あった! ここからここまで、高さは……よし、ルーク様」


「了解。バニッシュミラー!」


 ルークの詠唱とともに、壁際に淡い光を放つ鏡が静かに出現し、消えていった。


「これで普段は見えなくなるし、光鏡砲のレーザーが当たれば姿を現して反射できる」


「光鏡砲の改良、これで完成ですね」


 空が満足げに微笑む。ドーリが補足した。


「近くで見ると失明の恐れもあるから、見張り兵のメットにはサンバイザーを装着させないとな。鍛冶師に頼んでおくか」


 その時だった。塔の階段の方から、明るい声が響いた。


「空にぃ〜!」


「ミアの声……?」


 ミアが現れ続いて現れたのは、ぽてぽてとした小柄な丸い影――ぽん吉であった。


「空はん、お久しぶりですわ〜!」


 その姿に、ルークが思わず眉をひそめた。


「えーと……着ぐるみ?」


「着ぐるみちゃいまんがな! おっちゃん、ええボケしてくれはる〜!」


 ぽん吉が大げさに倒れ込む真似をする。ルークは微妙に頷いた。


「……失礼しました。私はミラー領領主、ルーク・ミラーです」


「わいは妖怪タヌキのぽん吉。雅閻魔大王様に仕えてます〜」


「雅様のお付の方でしたか。それは失礼しました」


「ええて、ええて、慣れとるさかい」


 そのやり取りを見ながら、空が歩み寄る。


「どうしたの? 二人で?」


 ミアが答える。


「ぽん吉さんが空にぃに用があるって言うから、連れてきたの〜」


「ふむ。何かあったんですか?」


 ぽん吉は真面目な顔になり、懐から巻物を取り出すと、神妙に言った。


「実はな、北東樹海の南西あたりでゴブリン亜種が見つかったんや。その出現地点近くに、謎の地下トンネルがあるらしい」


「トンネル……?」


「闇国側から、シールド領にかけて掘られたもんかもしれへん。潜伏経路やったら危険やから。ほいで、空はんに調査をお願いしたいんや」


 空は眉をひそめたが、すぐに頷いた。


「その筋からの情報、というやつですね」


「おっ? 拾ってくれるんか、嬉しいわ〜! いや〜空はん、相変わらず優男で助かるわ〜! でもな、変な虫つかんように注意しいや?」


「言われなくても……って誰の心配をしてるのさ」


「いや〜ミアはんみたいな子が、将来プロポーズしてくるかもしれへんし?」


「ミアはまだ十代です」


「だからこそ怖いんや! 年下の積極性は妖怪もタジタジですわ〜!」


 思わずツッコミを入れたくなるぽん吉のボケに、空は軽く頭を押さえた。


「ミア、行ける?」


「もちろん! 地下調査ならボクの得意分野だよ!」


「ほんま頼もしいわ〜。ほな、次はべっこう飴ちゃん、進呈や! 」


「ありがと〜! 」


 ぽん吉のしっぽがふりふりと揺れ、和やかな雰囲気の中で空が言った。


「では、南東樹海基地から調査に向かいましょう」


「南東?」


「魔物に変えられた兵士や冒険者の捜索拠点があるんです。そこを起点に動くのが安全ですから」


「なるほど、ええとこやな〜。その前にわい、ちゃんと足腰ほぐしとこ。最近ちょっと関節が……」


「そこは妖怪変化でなんとかしてください」


 ぽん吉が「ほなストレッチやな」と腕を回すと、ゴキッて肩が鳴り、ぽん吉が右肩を抑えた姿を見て、ミアが笑い声を漏らした。


 かくして、空、ミア、ぽん吉の三人は、グラビティビット転移によって、ちょっと懐かしの南東樹海基地へと向かったのだった。



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