第49話 魔力解放の儀
天空門、鬼ヶ島にある「地獄のブートキャンプ場」そこは、地獄で働く鬼や妖怪達がストレス発散の為に、修練場や闘技場又宿泊施設があり、修行にもってこいの場所である。
エレノアとエリア、そしてイザーナはそれぞれの課題に取り組んでいたが、ついにイザーナの番が訪れようとしていた。
「ちょうど儀式が始まるところね」エレノアが静かに呟く。
「ええ」エリアが頷く。
場の中央に進み出たのは、大賢者・エバ。白装束に身を包み、手には黒曜石の杖を携えていた。
「イザーナよ、跪き、両手を合わせ、祈る姿勢をとりなさい」
「はい」イザーナは素直に指示に従い、静かに目を閉じた。
エバは深く息を吸い、天と地に響くような声で詠唱を始めた。
「深淵より湧き出でし魔力の渦巻き、闇と光と四属性が交わる境界にて、我が意思を具現化せん。魂の輝きと魔術の融合より、世界に秘めし力を解き放つ。我が名は魔力を照らす者、知識を持つ者、禁忌の術師となれ——」
「——魔力解放!」
その瞬間、イザーナの体から白いモヤが立ち昇った。まるで霧のように柔らかく、それでいて強い魔力を孕んでいる。
「最初の白いモヤが……大きい」エレノアが目を見開いた。
「本人の魔力量を示しているの。普通の人の四倍以上はあるわね」エリアが解説する。
やがて白いモヤは銀色に輝き始めた。
「光属性の煌めき……やはりイザーナ様は光属性でしたか。でも、あれ?今度は赤く……?」
「火属性ね。さらに今度は青……水属性」
エレノアは目を見張る。
「火も水も……まさか三属性持ち……!? あ、今度は緑……」
「風属性……そして、また……今度は茶色。地属性よ」
「光と火、水、風、地……五属性!? イザーナ様、すごすぎます!」
「まさか、これほどとは……あ、また色が変わったわ。今度は……黒?」
「闇属性……? 信じられない、人間でこれを持つ者を私は初めて見た……エバ様だって、ないはずよ……」
「まだ変化してる……金色よ!?」
「金色……? 分からない……未知の属性?」
「よし、儀式はこれで終了だ」エバが静かに言った。「イザーナよ、お疲れだったな」
「ありがとうございました。それで、私は……?」
エバの目が厳しくなる。
「しばらく地上へは戻れないと思っておいてくれ。エレバン帝国皇帝には、私から話しておこう」
「えっ……ええ……それで、私は……?」
そのとき、エリアが勢いよく走り寄った。
「姫様! 見てましたよ、すごかったです!」
「そうなの?」
「ええ! だって、全属性に適性があるなんて——!」
「全属性……?」
「光、闇、火、水、風、地……全部ですよ!」
「……まあ……」
エバは静かに告げる。
「イザーナよ。今はまだ“適性がある”というだけ。それを扱えるようになるには、これから修練を積み重ねていかねばならぬ」
「……分かりました」
「そしてエリア、エレノア。このことは誰にも口外してはなりません」
「「はい、分かりました」」
「では天空門の屋敷に戻って休むとよい。明日からが本番だ」
三人は頷き、地獄のブートキャンプ場を後にした。
その様子を、一人の人物が見つめていた。
「遂に現れたか……」低く響く声。雅閻魔であった。
「そうですね」エバが隣に来て頷く。
「この先は、あの子次第じゃの……」
「ええ、あの子たちなら、きっと良い判断をしてくれると信じています」
「……わらわも手助けせねばならぬかのう」
「お願いがあるのですが」
「なんじゃ?」
「イザーナたちの実力が上がった頃合いを見て、超位精霊の元へ彼女を連れていきたいのです。同行していただけませんか?」
「ふむ……分かったぞ」
「ありがとうございます。各属性の精霊たちと契約しなければなりませんし、彼らの試練を受けることもあるでしょう」
「確かに、それは避けられぬ。——右鬼!」
「はっ!」
「地上にいる者たちと、精霊たちの所在を突き止めておくのじゃ」
「承知いたしました!」
命を受けた右鬼は、音もなくその場を離れていった。
「稀有な者を見れた……わらわは、地獄へ戻るぞ」
イザーナの魔力解放の儀は終わった。新たな希望、そして大いなる力を秘めし少女の運命は、今動き出した。
エバと雅閻魔は、静かにその未来に備え始めた——。




