第43話 謎のトンネル
唐突に現れたドワーフの重戦士オレクは、トーリンに連れられて天空門へと向かった。彼の頑強な背中がスっと白いモヤに吸い込まれて行くのを見届けると、リアムもまた空のグラビティビット転移で、ミラー領主館へと帰還していく。その姿が茶色い球体に消えるのを見送りながら、雅閻魔と左鬼も、鬼ヶ島へと戻るべく静かにその場を後にした。
騒がしかった空間は、急速に静寂に包まれていく。そこに残ったのは、空、美加、そしてミアの三人だけだった。落ち着いた空気の中、空はふと気づいたようにミアへと視線を向ける。
「そういえばミア、何か用があったんじゃなかった?」
その言葉に、ミアはハッと目を見開き、手を打った。
「あ、そうだった!」
思い出したように彼女は早口で話し始めた。話題は、最近発見した謎の地下トンネルについてだった。それはドリード王国とシールド領との間にあり、誰が何の目的で掘ったのか、一切の記録も伝承も存在しないという。
「数年で掘られたとなると、まだトンネル中で作業してる連中がいるかもしれないね」
空は口元を引き結び、状況の不穏さを感じ取っていた。
「もしトンネルの出口がドリード王国内なら、出口付近に罠や防御策を仕掛けられるかもしれない」
「それ、いい考えかも!」
ミアが勢いよく頷く。空は思考をさらに巡らせた。自分が作った地下トンネルは、中立都市の物流を円滑にするための公共インフラであり、善意と利便性によって築かれたものだ。しかし、この謎のトンネルは明らかに目的が異なる。もしそれが敵対的な意図のもと、他国への侵攻のために掘られたものであれば、状況は極めて深刻だ。
――たとえば、それがミラー城のような防衛拠点を地下から急襲するためのものだったとしたら……。
「ドリード王国の対応だけじゃなく、ミラー領も確認しておかないとだね。怪しいトンネルの末端、ボクが知ってるからさ、空にぃよろしく!」
ミアの頼みに、空は真剣な顔で頷いた。
「了解だよ。リアムさんにも話しておくね。……天空門から行こう」
空と共に、三人の姿が白いモヤに包まれ、その場から消えた。
ついた先は、ドリード王国の西門のごく近く――あまりの近距離に、ミアは思わず言葉を失った。
「まさか……ここまで掘られてたなんて……!」
空は〈無空間〉のスキルを展開し、トンネルの内部を探査した。幸いなことに、現時点では中に人の気配はなかった。
「ちなみに、このまま真っ直ぐ掘っていったら、王国内のどこにぶつかる?」
空の問いに、ミアは地下空間把握を使いながら答える。
「うーん……たぶんだけど、お城の地下牢あたりかな。他には兵士の詰所とか……あと汚水処理施設かな」
「……汚水処理施設?」
ミアは少し得意げに胸を張り、説明を始めた。ドリード王国では、町中の下水がすべて城の地下にある汚水処理施設へと流れ着く構造になっており、そこではスライムたちが汚水を浄化しているという。上下水道の整備は国家の衛生と文明の証であり、ドリードはその点でも先進的な王国だった。
「他の町にも技術提供してるんだ。ミラー領もそろそろ水洗式に変わる予定だよ。もちろん、中立都市も!」
「それは楽しみだね」
空が穏やかに微笑んだその瞬間――
「空とミア、話が脱線してますよ!」
美加が呆れたように手を腰に当て、二人を咎めた。
「あっ、ごめんごめん」
空が苦笑いしながら話を戻す。
「その汚水処理施設にトンネルを繋げるように出口を誘導してさ。誰かは分からないけどドリード城に到達したと思ったら、汚水まみれ……って、できないかな」
「空にぃ、意外とエグいこと考えるね。でも確かに、地下牢や詰所に抜けるより、汚水処理場に誘導する方が安全かも。これは罠が大好きなトーリンに教えてあげよっか。きっと面白い罠を考えてくれるよ!」
空は頷き、ふと思いついたように言った。
「せっかくドリード王国に来たんだし、アレク王に挨拶できるかな?」
ミアが念話で連絡を取ると、すぐに返事が返ってきた。ドリード国王アレクは、空たちと会うことを「ぜひ」と快諾してくれた。
まだ見ぬ脅威と謎に備え、空たちは意を決してドリード城へと歩を進めていった。




